文字通り剣八の背中に母とともに張りついていたので、男が声を掛けられる状態ではなく、普通に会話できていたのは、他の隊長や副隊長。十一番隊では一角や弓親、一秋くらいだったのだ。
「父ちゃん結構しっかり虫よけだったよねぇ…」
「そうなのか?」
「母ちゃんもずっとあたしみたいに育ってたんなら、母ちゃんの虫よけもしてたんだねぇ」
 八千代がしみじみと言う。
「そうなるのか…」
「なりますよ。更木隊長に逆らおうって思う奴はまずいないですからねぇ」
「オメーは?」
「逆らうとかとはまた違いますよ。うーん、なんてのかなぁ…あー…やっぱり親父なのかなぁ…」
「あ?」
「隊長格の子供って、何だかんだ言ってやっぱ優遇されるでしょう?他の一般死神よりは」
「まあ、そうかも?他の子ってあんま見かけないもんね。特に隊舎とかでは」
 腕を組んで考えながらの一秋の言葉には、やちるが頷いた。
「それ。親父が京楽春水だから、ってのもあるかもしれないけれど。俺、子供の頃、あんまり他の隊の隊長や副隊長を、偉い人だって思った事がないんですよ。素の一面みちゃってるのもあるかもだけれど」
「偉い人…?」
 これには八千代も首を傾げた。
「学院行くとさ、違和感感じなかった?隊長とか副隊長へ対しての先生たちの態度とか」
「あー…、それあるかも…。学院祭は皆大騒ぎだったし…」
「それ。さすがに隊長達は、子供のころから『隊長って言いなさい』って母さんに教えられたけれど…副隊長、特に女性の副隊長を俺最初は『お姉ちゃん』って教わってたくらいで」
「あー、あるある」
「そういえば、秋君、あたしをやちる姉って呼んでたっけ」
「うん。それ、松本副隊長に言われたからってのもあるんだ。『お姉さんって呼びなさい』って。だから乱姉ちゃんって呼んだり。それって、やっぱり偉い人だって思えない呼び方でしょ?」

 呼び方一つで何を言っているのだと、剣八は怪訝そうだ。
「あのですね。おばさんって言うと独身の女性死神ものすっごい怒るんですよ。だから、お姉ちゃん」
「あー…解る」
 これにはやちるも思い当たる節があったのだろう。苦笑いを浮かべた。
「卯ノ花さんを最初おばちゃんって言い掛けて、すっごい怖い顔されたっけぇ。だから、皆をあだ名で呼んだりしたんだよね、あたしも」
「そうなんだ…あたし、結構皆をおじちゃん、おばちゃん言ってたけど」
 一秋とやちるの言葉に八千代が怪訝そうに返す。
「言えるのは、子持ちになってからだよ。八千代が物心ついたときは、皆結婚して子供も生まれてたから。あ、浮竹隊長はおじさんって言えたっけ。弟さんや妹さんが子持ちだから、もう呼ばれ慣れてて。後は山本総隊長かな。皆が結構おじいちゃんって言ってたから」
「あー。そうかもだね。あたしもおじいちゃんって言ってるし。剣ちゃんもじいさんって言うから」
「あは、そうだよねぇ。父ちゃんと母ちゃんも、おじいちゃんとおばあちゃんになるんだよね、変なかんじー」
 八千代がおかしそうに言った言葉に、ぎょっとして反応を示したのは何と剣八の方だった。
「は?俺がじいさん?」
「そおだよ?この子が生まれたら、父ちゃんはおじいちゃんだよ?」
 八千代が父の手を取ってお腹を触らせる。まだまだ胎動などないくらいに小さいのだが、先程からの会話でこうした方が実感がでるのではないかと思っての行動だ。
「………」
 お腹にあてた手を離すと、じっと掌を見つめ、それから八千代を見下ろした。
「……俺が…」
「…剣ちゃん?八千代の時以上にびっくりしてるね?」
「あ?ああ…」
 やちると自分の子供に対しては、愛し合っているという行為があるからこそ、納得できるところがあった。
 だがしかし、八千代は娘で一歩離れている。一秋と恋人になって、これから結婚もするというのだがら、赤ん坊も解る。それが自分の孫とまで不思議と繋がらなかったのだ。

「…親義父さん、式とかにあんまりに関心がない理由が解りました。まだ、頭がついて行ってないんですね?」
「あ?…ああ、そうなのかもしれん」
「じゃあ、面倒だと思いますが、是非、式を見守って下さい。ちょこっとの間、十一番隊から離れますが、直ぐに戻ってきます」
「あ?ああ…」
「その間、お義母さんとゆっくり仲良くしててください。ちょっとずつ解ってきます」
「そうだね〜、あたしたちも新婚気分味わおっ、ね?剣ちゃん」
 この台詞に八千代が突然動いた。

[*前] | [次#]

[表紙へ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -