「赤ちゃんを守るために、お腹にクッション変わりの水が入ってます。それが羊水。この水がいろんな衝撃を守ってくれてて、それに浮いてるんですよ。赤ちゃん」
「えー!水の中にいたんだ!…あ、そういや、破水とか言われたなぁ…水が出てきてびっくりしたっけ」
「そうそう。破水したら赤ちゃんが生まれてくる合図だったんですよ」
 さすがに弟妹がいるだけに、こういうことは少々詳しい。
「水からでたばっかりだから、全身ふやけてたんです。だから、かわいくなかったと」
「あー…」
 やちると剣八が納得したように揃って頷いた。ひょっとしたら昔もそんな説明をされたかもしれないが、正直言ってそれどころではない状況だったのだ。
 落ちついて、次の出産を控えている八千代がいるからこそ、頭に入ってくる説明だったのかもしれない。
「秋君すごいねぇ!一杯知ってる!!良かったね、八千代」
「うん、安心だぁ」
 素直に感心しているやちるに、八千代も笑顔で頷く。剣八も黙って頷いている辺り、十一番隊にいるよりはるかにましだろうとも同時に強く思ったのに違いない。

「一秋は、お腹のあたしを触ったことある?」
「残念ながら。その頃学院生だったし、休暇で歩いてたら、既に八千代がいたんだもん。あれは驚いた」
「えー、そうだったんだぁ」
「話したことあったろ?お義母さんに惚れたと思ってプロポーズして振られて、その後直ぐ学院に入ったんだ。見たら気持ちがくじけたりするなぁって思ってたもんだから、会わないように避けてたんだよ。その間に、妊娠して八千代が生まれてたんだ。母様も水臭い。教えてくれてよさそうだったのに、ぜーんぜん教えてくれなかったんだ」
 苦笑いとともに肩を竦ませて語る内容に、八千代の眉間のしわが深くなっていく。
「ぶー」
「しょうがないだろ。八千代見るまで勘違いに気づかなかったんだから…」
「そうそう。でも、一目見て気がついたんだからいいじゃないの」
「ぶー…」
「…それで、オメーを見かけなかったのか」
 剣八が今更ながらに気がついたと言うように、一秋を見下ろす。
「そうですよ。当時は振られたって思ってたから、仲良しな二人って見れないって思ってたんですよねぇ。当時は打倒更木剣八ってえらそうに思ってましたもん。八千代を見た後は、気持ちが変わりましたけどねぇ」
「ほう?」
「俺は三夏や夏四を可愛がる親父を見てますから、親義父さんが八千代をどんな風に可愛がっているかは知らなくっても、男親は娘を可愛がるもんだって無意識に思ってたのかな?どうやって、付き合おう。付き合うとき何て言おう、やっぱり正面からがいいのかなとか、悶々と考えてましたよ、子供ながらに」
「オメーは頭が回り過ぎだ。ちったあその分腕に回せ」
「ごもっともで」
 苦笑いで指摘すれば、一秋も苦笑いで頭を軽く下げた。
「ったく、ガキの頃から俺を怖がらねぇのは、やちると八千代を除けば、オメーくらいだからな。変な奴だ」
「あれ?そうでした?うちの弟や妹だって平気でしたでしょ?」
「いや?そうでもなかったぜ」
 首を傾げる一秋に、剣八は顎を撫でながら答える。
「冬君と三夏っちは大泣きしたよー。夏ちゃんはびっくりし過ぎてなーんにも反応してなかったり」
「ええ!そうでしたっけ?」
「秋君が平気な顔して、怖くないよって言ってから、大丈夫になってったって感じ?」
「へえ」
「んー…それに、多分男の子で背中乗っけたの秋君がはじめてじゃないかなぁ?」
剣八に出会うのは大抵死神になったあとだから、まず男が背中に乗る機会などない。
「そうかもしれねぇな」
「あは、そんなころから、父ちゃんに気に入られてたんだね、一秋」
「そう、なのかな?」
「さあな」
 一秋がちらりとみると、剣八は自分のことだというのに正確に返事をしようとしない。
「えへへ、すごいね、一秋。ちっちゃな頃から父ちゃんが平気で、きっと一秋以外だったらあたしの旦那さんってなれなかったんだよ」
「他の野郎は、断固阻止」
 八千代が嬉しそうに言えば、一秋は重々しく頷く。
「ああ?他に男がいるのか?」
 八千代の言葉に意外な反応をしたのは剣八の方だった。
「いないよぉ、いるはずないじゃん。一秋以外だれにも声掛けられたことないし、声掛けたこともないもん」
 男っけが全くなかったことに、逆に驚いた。何せ十一番隊は男所帯なのだから。
「そうなのか…」
「うん。だってちっちゃい頃は、父ちゃんに張り付いてたでしょう?学院に行く時は一秋いたから」


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