「色々って?」
 湯呑みを手にしてお湯を啜りながら問い掛ける。お茶の香りも今は嫌だと感じる様で、先程から白湯なのだ。
「八千代って小さめだったみたいでね、あんまりお腹も膨らまなかったの。だから、お腹が重いなぁとかあんまり感じなかったし…。結構普通に走り回ったりもしてたし…。だから実感あんまなかった」
「…だから、あたしは小さいの?」
 母の普段の行動力、行動範囲などを思い、ひょっとして自分は母に栄養が持って行かれたのではないかと思えてくる。
「どうだろ?」
「そのくせ、メシはいつもの倍以上食ってたんだがなぁ…何処へ行ったんだ?あのメシは」
「そーなんだよねぇ。あれだけ食べてたら、八千代もっと大きくなってても良さそうなのにねぇ?」
 剣八の指摘にやちるは大きく頷く。我ながら今思い出しても凄い量を食べていたと思うのだ。
 それに、八千代自身もぼやくほど、八千代は同年代の中でも小さめの身長だし、やちるが八千代くらいの身長の頃には既に胸も大きく膨らみはじめていたが、娘は割と小さめなのだ。
「剣ちゃんも大きいから、もっと大きくなれると思うんだけどねぇ?秋君だって、身長は結構あるし」
「…母ちゃんと父ちゃんの霊圧に、おされてんだ、きっと」
「えー、そうかなぁ?八千代お腹の中の頃から、剣ちゃんの霊圧平気だったよ?元気よく、ぽこぽこお腹蹴ったりしてたし」
「そうなの?」
「うん。剣ちゃんも触ったことあったよね?」
「…触ったっつうか…触れと強要されたというか」
 剣八は苦笑いを浮かべながらも、同意したくないような言い草だ。
「父ちゃん、あたしのことかわいくなかったのぉ?」
「あのなぁ、俺は腹が膨れる女ってのを、伊勢以外みたことがなかったんだよ。ここじゃ、野郎しかいないだろう。俺が行動する範囲で、妊娠するような女は他に知らねぇからな」
 父の言い分に、行動範囲を思い起こす。他の隊に行くことなど、隊首会で呼ばれ一番隊へ行くぐらい。
 虚退治などで、さまざまな場所へ赴くが、人がいても目に入らず、虚しか見ていない。女性の出入りするような場所に行くことはなく、行ったとしても飯屋や飲み屋。そんな場所で妊婦は働いていない。いたとしても、剣八の目には入らない。
 お腹が膨らんだ女性が妊婦で、やがて子供が誕生すると目の当たりにしたのは、八番隊副隊長の伊勢七緒だったのだ。彼女は女性死神協会の副会長で、会長のやちるとよく一緒にいるからそんな変化が解ったのだ。

「だから、可愛いとか、そんな感情はないというか、解らなかったというか」
「あー…そうなんだぁ…」
 八千代はというと、女だからだろうか、あっさりと子供はお腹にいても可愛いものだと自然にみていたのだ。

「生まれたあとも、まだ可愛くなかったしな」
「あー!うん、可愛くなかった!」
「かわいくない、いうなー!」
 可愛くないと両親に口をそろえて言われてしまい、頬を膨らます。机に片頬が乗っているので膨らんだのは片方だけなのだが。
「だってさ、くしゃくしゃでぐにゃぐにゃでさぁ?秋君たちの生まれたてをみたことなかったから、もう少し綺麗に生まれるもんだって思ってたもん」
 やちるも剣八も学校へ行ったり、本を積極的に読んで妊娠や子供について勉強をしたわけではないので、そういった事を知らないでいたのだ。

「何の話?」
 一秋が戻ってきて、八千代の隣に座る。自分の名前が出たように思い問い掛けた。
「どうだった?」
「いつでも良いって言ってくれました。いまからでも大丈夫だって」
「さすが、ななちん」
 やちるが七緒の手際良さを褒める。
「助かる〜」
「どうする?今からでも荷物ちょっとまとめていく?」
「ん〜、いまはまだ平気。ちょっと気が紛れてるし…。ね、一秋は、生まれたての赤ちゃんってみたことある?」
「あるよ。冬二の時は覚えてないけど、三夏と夏四の時は覚えてる。かわいくないっていって、親父に殴られた」
 殴られたといっても軽く拳骨を当てられたくらいなのだが。
「ほらあ、かわいくないんじゃん」
「ぶー」
 やちるが八千代だけではなかったのだと胸を張る。
「ううーん、羊水でふやけてるから、仕方がないっていえば仕方がないんだけどなぁ…」
 一秋の言葉にやちるが首を傾げる。
「なんで?」
「お風呂入ると、指がふやけるでしょう?」
「あー、なるなる」


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