◇許しの夜
「現世では許しの祭りらしいんよ」
ギンが真っ赤な薔薇を一輪、両手でそっと持ち乱菊に差し出す。
「……何?許して欲しいの?」
薔薇を受け取り、鼻へと寄せる。濃厚な香りが鼻腔内いっぱいに広がった。
「うん…」
ギンは少しばかり躊躇いながらも頷いた。許される行為ではなかったことは重々承知だ。だが、乱菊に触れることができないことが、切なくて堪らない。
昔は触れなくても、平気でいられたのに。目的が達せられた途端こんなにも我慢ができなくなっている。
乱菊の怒りが怖い。
自分を許して欲しいなどと何故思えるのか、自分でも不思議でならないほどなのに許しを得たくて堪らないのだ。
「しょーがないわね」
乱菊が大きな溜息を吐きだし肩を竦ませる。腕を豊かな胸の下で組み、ちらりとギンを睨む。
「もう、二度とするんじゃないわよ」
「うん」
乱菊の念押しの言葉に、ギンは素直に頷く。
その子供のような仕草に、乱菊は苦笑いを浮かべた。
「許してあげる」
その一言に、ギンの表情がみるみる変わった。
おずおずとした笑みから、満面の笑みへと。
子供のような無邪気な笑みに。
ギンは子供の頃の想いや誓いを抱えたまま、子供の残酷な一面をもったまま大人へと成長した。全ては乱菊ただ一人の為に。
「乱菊っ!」
ギンは乱菊を力いっぱい抱きしめ唇を重ねた。
「んん…んー…ちょ、苦しっ」
「乱菊…乱菊…」
今までの溢れんばかりの想いを伝えたいと言わんばかりに、唇を貪り抱きしめる。
「ちょ、待ちなさいよ、ギンっ」
普段目立つ行為を厭わない乱菊が、さすがに慌てた。このままここで押し倒されてはかなわない。
「何で?」
小首を傾げ乱菊を見つめるギンの表情は、捨てられ愛情を求める子狐さながらだ。
「…せめて、ロマンチックな部屋とか」
「うん、解った」
乱菊の言葉にギンはあっさりと頷き、手をつなぎ連れ込み宿でも一番最高級の部屋へと連れ込んだ。
こういう行動力だけは健在だ。
「ええやろ?」
「…しょーがないわねぇ」
二人は笑みを交わし、互いを許し合い体を重ねたのでした。
20111130〜1231
まさか、拍手で話が進展。なんかそんな気分でした。
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