◇聖なる夜


「拳西、責任取れや」
「……」
 リサの一言に拳西は眉間に皺を深く刻んだ。
 主語がないため「何の」責任かがさっぱりわからない。解らないものにうかつに返事などしては、揚げ足を取られることが容易に想像がつく。
 だからといって、「何のだ」と尋ねれば拗ねるか怒るかどちらかだ。
 従って拳西は黙ってリサを見上げた。

 寧ろ普段から責任ある行動をとっているのは誰よりも拳西が一番であるのだが。
「何で返事せえへんのや」
 リサが詰め寄り、襟首を掴む。
「………返事のしようがねえだろ」
「あるやろ、責任取ったるって素直に言えばええんや」
「……何のだ?」
「心当たりは山ほどあるやろ」
「全然」
 これほど噛みあわない会話は空しいはずなのだが、リサは一向に堪えた様子はない。

「…あ、いや…一つだけあるか…」
「それや!!」
「何だよ、ガキでもできたか?」
「は?」
 意気揚々と返事をしたものの、拳西から返ってきた台詞に目を丸くした。
「…俺が責任を取らなならんようなのは…避妊してねぇからな、妊娠でもしたか?」
「……阿呆!!」
 リサは頬を赤らめ歯を食いしばり、拳西を勢いよく蹴り倒そうとしたが、あっさりと足首を掴まれてしまい、すっぽりと拳西の両腕の中へと納められてしまった。
「で?どうなんだ?」
「違うっ!!」
 腕を組みそっぽを向く。
「じゃあ、何だ?」
「………」
 今度はリサが黙りこむ番だった。

 拳西は思ったよりも、あっさりと自分の事を認めた。それなりに思う所があるのだろう。
「で、責任ってなんだよ」
「……忘れた」
 そもそも遊び相手が欲しくて絡んだだけ、はずみででた言葉なのだ。拳西の言葉に逆にうろたえてしまい、とっさに何も理由が思い浮かばない。

「ふうん」
「あ、何するんや!」
「あ?既成事実でも作ろうかと思って」
「阿呆!そんなこ、んん…」
 これ以上うるさく喚かれてはかなわないとばかりに、唇で唇を塞ぐ。


「現世じゃ、一応、聖なる夜らしいぜ?」
「…ふん…」
「できても、いいんじゃねーか?」
「…知るかっ」
 死神として理から外れた自分たちに子はなせるのか解らないが、現世の人々のような気分は味わえる。

 二人は静かな闇の中で体を重ねたのでした。



20111130〜
軍勢時代、その後って感じの時間くらいで。

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