◇反省しなさい
「………」
ギンは目の前の光景に絶句していた。
八番隊の庭先で、小さな男の子達と一緒に走り回り楽しげに笑い声を上げている少女と、小さな少女達のあやとりの相手を大人しくしている男の姿に。
「……君達、何でここにおるん?」
「あ、市丸だっ!刑期終えたん?」
「…ここで世話になっている」
ギンの問いかけに、答えたような答えていないような微妙な返事だ。
「…え〜っと」
「…俺たちは、京楽…さんの斬魄刀に斬られたからな」
「ああ、そういうこと…でも、君達何で二人のままなん?」
「…さあ?」
「さっぱり?でも、この姿のままだからか、虚の記憶もあるんだよね?」
「…ああ」
当人たちにも解っていないのなら仕方がない。斬魄刀の能力は死神である自分たちの方が知っているものだ。何となく事情を察して曖昧に頷いた。
「そや、京楽隊長いてはる?」
「ああ、いるぜ。執務室に行けば」
「ととさまのとこ、いくの?」
「じいじのとこ?」
同じ年頃の少女が二人が同時に口を開いたが、それぞれ違う名称が飛び出した事にギンの開いた口が塞がらない。
「……」
「この耳の父親だーれだ」
リリネットが男の子の耳を見せる。
「うそー…ん…狛村隊長の子供なん?」
「嫁さん、おっさんの娘だってよ?だから、こっちの子達は孫。で、こっちの子達は子供だって」
「…元気すぎるやろ…京楽隊長…」
十一番隊にいる長男を思い浮かべ思わず茫然と呟く。
「呼んだ?」
春水が障子を開けて現れた。首に手をあて回している。どうやら書類仕事でもしていたようだ。
「あ、じいじー!」
「あそぼ、ととさま」
「うんうん。何して遊ぼうか?」
しゃがみこみ腕を広げた春水に、少女達が笑顔で駆け寄る。
「…京楽隊長…」
ギンが神妙な顔をしてみる。
「…やあ、久しぶりだねぇ。ちょっと痩せた?」
微笑を浮かべて返す春水の口元には笑い皺が寄っている。
昔から、この男を欺くのはとても難しかった。ゆえにギンは率直に頭を下げた。
「昔の事は幾重にもお詫びします」
「…まあまあ、それが本題じゃないんでしょう?」
その言葉に顔を上げると、春水の笑顔がどうも裏があるような腹黒い笑顔に変わっている。
「かなわんわぁ…、もう、乱菊から聞いてます?」
「ははは、乱菊ちゃんだけでなくって、やちるちゃんからも、聞いたよ。女の情報網は甘く見ない方がいいよ?」
「うわぁ…」
「それで?」
「…率直に、お尋ねします。精力アップの秘訣ってあります?」
真剣な表情のギンに対し、春水はそれは楽しそうな笑みを浮かべた。
「そりゃもう?」
「あなた」
春水の背後にはいつの間にか七緒の姿があった。
「仕事が山積みです」
「まあまあ、市丸君がせっかく来たんだし…」
「他人の恋路は放っておけばいいんです。それより、決済が堪っているのですが」
七緒がいつになく冷たく言い放つのは、乱菊の友人だからだろう。
女を泣かせた男を優しくする道理はない。
「そーそー。自分勝手な事した男なんて反省させりゃいいんだって」
リリネットまで冷たく言い放ったのは、巻き添えを食った事に加えて、乱菊から事情を聴いたのもあるのだろう。いつの間にかしっかりと死神達と仲良くなっている。
どれだけ長い間刑に伏そうが関係ないのだ。
「……まあ、そういう訳だから、頑張って」
春水が苦笑いで応援だけで済ませたのは、妻に頭が上がらないからだろう。
スタークが気の毒そうな視線を寄こした。
ギンが乱菊と仲良く出来る日はまだまだ遠い日のようです。
20100901〜1004
[*前] | [次#]
[表紙へ]