「拳西!」
「入ってくるときくらい、静かにしろ」
 勢いよく戸を開け放ち入ってきたリサに、拳西は額に青筋を浮かばせながらも、声を荒げないよう抑え注意した。それでも、視線は書類に向けたままというのは立派である。
 リサは是非とも春水にも見習って欲しい姿勢だと思い頷きながらも、あっさりと自分の行動については棚上げした。
「別にええやん」
「良くない」
 これもそれもリサを自由に放つ春水が悪いのだと、思いたくなるほどだ。

「何の用だ」
「ん?ちょっと顔貸してや」
「は?」
 書類を手にしたまま怪訝そうに顔を上げると、リサが目の前にいる。
 襟首を両手で掴まれ引き寄せられたと思うと、唇が重なった。
「……」
 拳西は目蓋を閉じることもなく、書類を手にしたままリサの口付けを受け入れる。

 しばらくしてリサが離れると、舌で濡れた唇を舐め問い掛けた。
「で?何があったんだ?」
「別に」
 何かあったからこそ態々九番隊へと来たのだろうに、視線を反らして「別に」と言う。気にして欲しいと言わんばかりの態度だ。

 全く、素直でない女は扱いにくくていけない。

 拳西は溜息を吐きだし書類を机へと投げるように置くと、片肘を机に付き拳の上へ頬を置いた。
「何処行ってたんだ?」
 片足を、もう片方の足の膝への上へと預けると、片足が胡坐をかいたような形になった。リサはその様子を見ると促されるまでもなく、当たり前のようにごく自然に膝の上へと座った。
「虚退治や」
「そうか。わざわざ副隊長がか?」
「しゃーないやん。うちの隊長やる気起こさせるのに時間掛りすぎるんやから」
「…まあ、そうだな」
 唇を尖らせ文句を言うリサに、最もなことであると頷いた。
「……所でな、リサ」
「何や?」
「うちの副隊長は見なかったか?」
「……白やったら、甘味処におったで」
 だからこそ今は拳西一人だと思い乗り込んで来たのだ。
「あいつ、またそんな所でサボってやがるのか」
 額に青筋を浮かべ歯ぎしりをする。白の机の上は綺麗なもので、拳西の机の上には大半が目を通した後で押印された書類が山積みになっている。
「白が羨ましいなぁ…」
 リサがぽつりと呟く。副隊長の仕事まで隊長がこなしてくれている。なんと理想的な状況なのだろうかと思う。
「そうか?俺がいい迷惑なんだが」
「…まあ、京楽隊長に、白がついてたら仕事にならへんのは目に見えるけど」
「…違いねぇ」
 二人は顔を見合わせにやりと笑った。

「で?京楽隊長なら、易々と片づけたんじゃねえのか?」
 隊長としての力量は拳西でも認めるところだ。だてに自分よりもはるかに長く隊長にいるのではないのだと感じている。
「…易々と、するまでが長くてあかんわ」
「まあ、そうだろうな」
 腰を上げるのがとてつもなく遅いのだ。


 リサが来てそれなりに時間が経つのに、一向に誰も入ってこないところを見ると、どうやら人払いをしてきたようである。
 拳西はこれ以上理由を聞いても無駄だと悟り、空いていた片方の手でリサの短い袴の裾から太股を撫で上げ始めた。
「むっつりスケベ」
 手の動きを見ながらぽつりと呟く。こうして欲しくてここに押し掛けてきたのだろうに、何て言い草なのだろうと思う。
「どうとでも言ってろ」
 反論した所で無駄な時間なだけである。何か文句を言いたくて仕方がないのだろうから、言わせておけばよいのだ。
「うちの隊長とまで言わへんけど、何か言ったらどうや?」
 女たらしで有名な春水の真似などしたくはない。


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