「こっちこっち」
 春水が手招きする。
 自室へ入ると、私服の着物などを手にして、今度は隊舎に向かう。
 すれ違う死神達が春水に会釈をし、挨拶していく。

 春水が連れてきたのは、隊舎の風呂場だった。
「自宅の方は女の子達が使ってるからね。はい、着替え」
「あ、ああ…」
 春水はさっさと死覇装を脱いで籠へと入れていき、風呂場へ向かう。
 スタークも慌てて着物を脱いで後に続いた。


 体を洗いさっぱりとして出てくると、春水は自宅の方へと案内する。


「わあ、可愛いねぇ、良く似合ってるよ」
 部屋に入るなり春水は目を細め褒めた。リリネットの着物が変わったのだろうとスタークは察して部屋を覗く。

「良く、あたしに合う着物があったね」
「娘達の小さな頃のものよ。残してて良かったわ」
 七緒よりも小さく細身のリリネットは、七緒の物ではないだろうと思い問い掛ける。
「娘達?」
「ええ」
「おっさん、結婚してたの?」
 リリネットが春水を見上げる。
「あの時はしていなかったよ。結婚をしたのはその後」
「この人、いなかったよね」
「うん。連れていかなかったからね。七緒ちゃんは戦闘向きじゃあないんだよ」
 春水は上座に座り、スタークを手招きして座らせる。七緒はリリネットをスタークの横に座らせると、台所へと向かい冷えた酒と摘みを持って戻ってきた。
「…だから、あたしを邪魔って言ったの?」
「実際、浮竹相手に大変だったでしょう?」
「う〜…」
 春水は懐かしむように話す。話し方からして、相当に時間が流れているとスタークは黙って聞いていた。
 七緒が硝子の猪口を配り酒を注いでいくと、春水が手にして杯を掲げた。
「再会に」
 スタークもリリネットも手にして一口呑んだ。
「わ、うまーい!この酒うまいっ!」
 リリネットが瞳を輝かせる。
「う、七緒ちゃん、これ、果実酒じゃないの」
「だって、女の子がいるんですよ。合わせて下さい」
 七緒は済ました表情で一口口をつける。
「…男同士は冷酒がいいんだけれどねぇ?辛口の方がいけるでしょ?」
「え?あ、ああ…」
 まるで遠方からきた友人や知人をもてなすかのような扱いに、スタークは戸惑うばかりだ。
 春水は自ら立ち上がり台所へと向かうと、冷えた一升瓶と盃をもってきた。勝手に酒を注ぎ促す。スタークは苦笑いを浮かべて促されるままに一口呑んだ。
「…うまい」
「でしょう?」
 確かに先に出された果実酒よりもはるかに口に合う。


 酒が進むと、リリネットは安心したのもあってか、スタークの膝を借りて眠り出した。
 その様子を見届けて春水がようやく、スタークの知りたがった事を話し始めた。
「…彼女は、恐らく君よりはるかに先に目が覚めていたようだね」
「…やはり…」
「力の所為なのか、ボクの刃を直接受けていなかったからなのかは解らないけれど」
「…俺は、そんなに長く眠っていたのか?」
「…恐らく。あれから数百年は経っているからね」
「なっ…」
 スタークは目を見張り、リリネットを見下ろした。そんなに長い間彼女を独りぼっちにしていたのかと思うと、胸が激しく痛む。
「…まあ、彼女自身そんなに長くは放浪していないと思うけれど」
「…何故?」
 七緒が春水に変わり、流魂街の説明を始めた。辿りついた魂がどう導かれていき、どう、区分けされていくのかを。
「彼女はそれほど汚れきってもいませんでしたし、痩せすぎてもいませんでした。あなたと同じく長く眠りについていたのでしょうが、少しばかり先に目覚めていた。そんな様子です」


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