「八番隊隊長の、京楽春水という人に会いたい」
 ずばりと明確に言われ、受付は戸惑った。旅禍ではなさそうだが、尋常ではない雰囲気を感じる。
「スタークと言えば、解るはずだ」
「…連絡をしてみますが、直ぐに会えるとは限りません」
「解っている。隊長さんなんだからな」
 死神の地位を理解しているのだろう。あっさりと頷かれたことから、受付は話を通してみることにした。


 意外にも程なく本人がのんびりとした歩調で現れた。

「おやぁ…、随分お寝坊さんだったねぇ」
 春水が楽しげに言い放つ。
「寝坊?」
 一体何のことかと首を傾げる。
「君、ボクの斬魄刀で斬られたでしょう?だから、ここへ辿りついたんだよ」
「…そうなのか?」
「…けれど、意外だったねぇ…その子と分かれたままっていうのは」
 笑みを浮かべて説明する春水に、スタークは辛抱強く付き合った。
「…あれから、結構時間が経っているからさ。お寝坊さんって言ったんだよ」
「…他にも死神に斬られた連中が辿りついているのか?」
「…さあねぇ?直接指名してまで、瀞霊廷に来た連中がいないから。流魂街にひっっそりいたり、もうとうに生まれ変わってもいるかもしれないねぇ」
「…そうなのか」
 死神と金輪際関わりたくない連中も確かにいるだろう。
 スタークとリリネットは互いの顔を見合わせた。

「でも、その前に。君はともかくとして、…リリネットちゃんだったね。君はお風呂に入った方がいいね。別嬪さんが台無しだ。七緒ちゃん、この子にお風呂と着物を用意してあげて」
 側につき従っている女性に顔を向ける。
「そうですね。ですが、そちらの方もお風呂に入られては?さっぱりしてもよろしいでしょう」
「そうだねぇ。そうしようか」
 春水達の説明に、スタークは改めてリリネットを見、自分を見た。
 言われてみれば、リリネットの方が汚れがひどく見える。
「…お前、いつから起きていた?」
 スタークがリリネットの腕を掴む。
 彼女を長く独りきりにさせていたのではと、瞳が揺らぐ。
「…はんっ、スタークの寝坊は今に始まったことじゃないだろっ!」
 少しだけ瞳を潤ませ睨み上げ憎まれ口を叩く。
「いこっ!早くすっきりしたいや」
「…そうね」
 七緒を急かすリリネットの気持ちが、七緒には解ってしまった。微笑を浮かべて頷き案内すべく先に立って歩き出した。
「リリネット!」
「君はこっち」
 春水が顎で示して歩き始める。
「…だが…」
「ちょっとくらい待ちなよ、時間はあるんだから」
「…だが…あいつ…」
「後でゆっくり聞けばいいじゃないの」
 今は何を言っても無駄なのだと悟ると、スタークは溜息を吐きだして春水の後に着いて歩き出した。

「…十刃に限らず、他の破面は来ていないのか?」
「…今のところはね。ひょっとしたら、いつの間にか来てるのかもしれないねぇ…。虚になると名前が変わるでしょ?生前の姿や名前に戻ってるかもしれないし」
「…ああ…」
 歩きながらの春水の言葉に改めて虚の在り方を考える。
「それに、他の連中は崩玉の力を借りて、破面と成った。でも、君たちは違うんだね?」
「……ああ、藍染に会う前に、俺たちは二人に自分で分かれた。分かれたことで破面に成ったんだ…」
 拳を握りしめ孤独だった日々を振り返る。こんなにも春水相手に長く説明ができてしまう自分の心境にも驚く。
「…その辺りも、ひょっとしたら関係しているのかもしれないねぇ…。だから、その姿と名前のまま、ここに魂が辿りついたのかも」

 春水が案内した先は、八番隊にある春水の家であった。
 七緒とリリネットは先に帰っているらしく、草履が並んでいる。


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