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「スターク!起きろ!起きろってば!!」
リリネットが眠り続けるスタークの耳元で喚き続けている。
「ん〜…もう少し眠らせろ…」
スタークは寝返りを打ち、喚くリリネットを遠ざけるように手を力なく振った。
「バカ!起きろ!!」
リリネットは苛立ちを隠すことなく、遠慮なしに蹴り飛ばした。
「痛っ!ったく…なんだよ…」
スタークは大きな欠伸をしようやくゆっくりと体を起こした。
「…ん?」
手をつき体を起こしたのだが、違和感を感じ手元を見つめる。
地面には石ころが転がっていて、緑の草が広がっている。
「…ここは、どこだ?」
辺りを見渡し呟く。
顔を上げぐるりと首を巡らせる。
なだらかな坂、一面に広がる緑の草に足元の方には流れる川。
見たこともない景色に目を見張る。
「…リリネット…ここは、どこだ」
「あたしだって、知らないよ」
腕を組みスタークを見下ろすリリネットを見上げ返すと、あることに気がついた。
「…お前、仮面はどうした」
「知らない、起きたらなかったもん。あんただってないよ」
リリネットの指さす先を視線で辿り自分の胸元を見れば、仮面だけでなく穴までも見当たらないし、着ている服も違う。
「…着物?一体…」
多くの霊圧を感じとり、二人はそちらの方向を見た。
「…あそこへ行くぞ」
「うん」
二人は霊圧を感じる方向へと向かい歩き始めた。
やがて村が見え、生活している人々が見えてきた。
一人の村人を捉まえここはどこかと尋ねてみる。
「ここは流魂街さ」
「ここが…」
ようやく自分たちの辿りついた場所が判明し息を吐きだした。
虚にならず、さまよわなければ、本来真っ先に辿りつくべきだろう場所だったのだ。
「あっちは?」
「ああ、あそこは瀞霊廷だよ。死神が住まう場所だ」
白く整理された区画を見て問えば、こちらも明確な答えが返ってきた。
「死神が、あそこに…」
スタークとリリネットはそちらに視線を向けた。
「…あそこへ行くためにはどうしたらいい?」
何か力を感じたのだろうか、スタークは直ぐにそちらに足を向けるのではなく続けて問いかけた。
村人によると正規の手続きを取るには時間がかかるが、一番穏便な方法だともいう。
二人は村人に教えて貰った通りに、手続きをすべく案内された場所へと向かった。
歩いていると、リリネットがするりとスタークの腕に腕を絡ませてくる。
「…何だ?」
「…あたしたち、もう、虚じゃないんだね?」
「…ああ、そうだな」
二人別々の魂として存在している。それが何よりも嬉しい。
スタークは口元に微笑を浮かべ頷いた。
温かな着物を着ている。
互いの温度を感じられる。
邪魔な仮面がない。
これがこんなにも嬉しいことなのかと思う。
何より、もう、独りではない。
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