承太郎とただいちゃいちゃするだけの話
「承太郎」
私が名前を呼べば、声の主は帽子の下の視線をこちらに向けた。どうした、という言葉の代わりに咥えたタバコの火が揺れる。
「…あの、お願いがあるんだけど。」
随分と高い位置にある顔を見上げながら言えば、彼は人差し指と中指でタバコを挟み取り、「…珍しいな」と煙を吐いた。
「あの、あのね?…あたま…撫でてほしいの…」
ごち、と承太郎の胸板に頭をぶつけ、ウサギが飼い主にするみたいにぐりぐりと押し付ける。承太郎はタバコと反対の手を持ち上げ、私の頭をそっと撫でた。
「どうしたんだ、」
「…どうもしない。強いていうなら、疲れたから。」
「…そうか」
視界の端を赤い光が落っこちて、承太郎の爪先に踏んづけられた。どうやら私にぶつからないようにタバコを落としてくれたらしい。優しく髪を撫でる手は気持ちいいのだけれど、私が求めているのとはちょっと違う。
「…承太郎、もっと。」
「…本当に珍しいな」
ぽんぽん、と宥めるように髪を撫でられる。これも違うんだ。ワガママなんだけど、もっとこう、ぞんざいでいい。こんなに大切に慈しむみたいにされると、なんだか緊張してしまうから。
「…ね、交代して。」
「どうして。」
彼は理解できないと言った顔で眉を寄せた。帽子を外したくないのだろうか。私は構わずに彼の襟元を引いて無理やり屈ませた。それでもまだ、抱き締めるには高すぎる。
「…こうやって、撫でてほしいの」
帽子を払い落として両手でわしゃわしゃと髪を掻き混ぜる。大人が子供を褒める時みたいに、よしよし、ってして欲しい。
「てめぇなにしやがる」
帽子を落としたせいか、承太郎は鋭い視線を私に向け、そのまま身体を起こした。目の前を端正な顔が通り過ぎて思わず息を飲む。
すぐに大きな手が私の背を学ランに押し付け、そのまま勢いよく髪をぐちゃぐちゃにされた。
「わ、ぁっ!承太郎」
勢いよく髪を撫でられて視界が揺れる。思わず零れた笑みはぐにゃりと歪んだに違いない。まるでペットになったみたいな安心感。
広い胸にしがみつけば、髪を掻き混ぜる手はするりと背中に回される。
「…満足したか?」
「…うん!」
くすくすと笑って擦り寄れば、やれやれだぜ、なんてお馴染みの言葉とともに唇が降ってきた。ちゅ、と可愛らしい音と共に柔らかな感触。珍しいこともあるもんだと承太郎を見つめると、彼は恥ずかしいのかまた私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「ペットになったみたい。」
笑いながらそう告げると、承太郎は心外だとでも言いたげな視線を寄越しながら「馬鹿言ってんじゃあねーぜ」と零した。
「恋人だろーが、」
「うん、…うんっ!承太郎、だーいすき!」
ぎゅっとしがみつけば、彼は帽子を下げようと手を伸ばし、既に落とされたことを思い出すと照れ臭そうにまた私の頭をぐしゃぐしゃにした。
20170522
むーさまへ!!!
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bkm