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早弁太郎と承太郎

「…おなかすいたなー…」

学校まで自転車で30分。部活の朝練がある。
うちの学校の購買はわりかし空いている。

この3つが揃っているせいだ、と私は何回言い訳しただろうか。

「ちょ、また行くの?」

「だってお腹すいたんだもん!」

友人の制止を振り切って屋上へ。次は国語だし、日本人ならサボったってなんとかなる。歩を進める私の手には小さめのランチトート。授業中にお腹が鳴るよりは、サボってご飯を食べる方がずっといい。

「だっていい天気だしさぁ、誰もいない屋上で美味しいご飯とか贅沢じゃん?」

誰もいないのをいいことにそう呟きながら屋上に腰を下ろす。今日は風も無くて、絶好の早弁日和だ。そんな日和ないよ!と友人の突っ込む声が聞こえそうではあるが。
カバンからお弁当箱を出したところで、私は絶望する。トートの中には見慣れたお弁当箱だけ。あるはずのお箸ケースがどこにも見当たらない。

「…食べられない…」

もしやおにぎりでは、と思ってぱかりと蓋を開けてみたけれど、いつもの通りご飯が詰まっている。やむなくプチトマトを摘んで食べたけれど、口の中に広がる酸味が虚しさと空腹を引き立てるだけだった。

そっと蓋を閉めて大きな溜息を吐く。

お弁当箱を目の前にどうしようかと考えあぐねていると、突然どこからか声を掛けられた。

「今日は食わねえのか。」

「…え、あっ!?」

辺りを見回しても、誰もいない。なに、幽霊!?なんて慌てていると、「こっちだ」と楽しげな声。その声が随分と上の方から聞こえた気がして顔を上げればジョジョこと空条承太郎が給水塔の上からこっちを見ていた。「今日は」の言葉にもしかしていつも見られていたのかと焦っていると、彼はのっそりと身体を起こす。

「…ほとんど毎日いるだろ。」

「もしかして、毎日見てた?」

「…あぁ。」

ニヤリと唇の端を持ち上げる姿は逆光にも関わらず私の網膜に焼き付いた。あまりに空に映えるその美しさに頬が熱くなる。早弁野郎とか勝手なアダ名付けられてたらどうしよう。毎日見られてたなんて恥ずかしすぎる。軽いパニックに陥る私を見て空条くんはやれやれだぜと軽い溜息をつき、すたん、と軽やかな音を立てて目の前に降り立った。

「…わ、すごい。」

思わず感嘆の声を上げる。彼はそんな言葉を意にも介さずに私の手元を覗き込んで、「箸か。」と一言呟いた。

「…お恥ずかしい話ですが…その通りです。」

恥ずかしさを誤魔化すようにおどければ、彼は少しばかり考えて、私の隣にどっかりと腰を下ろした。

「…ほら。」

目の前に差し出されたのは一膳の割り箸。何もないところからまるで手品みたいに出てきたそれに視線が釘付けになる。

「…え?」

「…いらねえのか?」

ぽかんとする私を眺めながら空条くんが言う。私はその言葉に慌てて箸を受け取り、誠心誠意礼を述べた。

「ありがとう!飢え死にするところだったよ…!」

「やれやれだぜ。」

ぱきん、と軽快な音を立てて箸を割り、いただきます!の掛け声と共に食事をスタートさせる。空条くんは食べる私をまるで動物でも見るような目で眺めながら、ポケットを探りタバコを取り出した。そうしてふと思い至ったように手を止める。

「…?、すわないの?」

もぐもぐと口を動かしながら問えば、彼は少しばかり考えてそれを再びポケットに戻した。

「あぁ。」

「…もしかして、わたしがごはんたべてるから?」

空条くんは答えずに帽子を深く被り直した。暗にYESの意味なんだろうか。私は口の中のものを飲み込んで一息置いてから、彼にありがとう、と言った。割り箸のことといいタバコのことといい、空条くんは見かけに寄らずとても優しい人らしい。
そうしてしばらく彼は何をするでもなく外を眺め、私はもくもくと口を動かした。お弁当箱が軽くなってお腹も満たされたところで、彼に疑問を投げかける。

「…ねぇ。なんで割り箸なんて持ってたの?」

さっきのタバコみたいにポケットから出すような素振りはなかったはずなのに、どこからか飛んでても来たのかってほど突然出てきた割り箸。
そもそも男子高生が割り箸持ってるってどういうことだろう。武器かな。この間お父さんと見た時代劇のかざぐるまみたいに敵の手に割り箸がぴしっ!て刺さるとか。と、そこまで考えて余りの間抜けさに笑ってしまう。

「なんで笑う。」

「え?いや、割り箸で戦う空条くんを考えたら面白かったから。」

「…意味がわからねえ。」

「あ、で…なんで割り箸持ってたの?」

「さあな。」

ふっと笑みなんて零すもんだから、思わず見惚れてしまって思考が吹っ飛ぶ。なんたるイケメン。こりゃあみんなが黄色い声を上げるわけだと納得した私は、割り箸の出処を聞いていたことも忘れて彼の表情に釘付けになってしまう。

「ッお礼、するね。…なにがいいかな。」

我に返った私は、恥ずかしさを誤魔化すように手元に視線を落とした。お弁当箱の蓋を閉め、無意味に何度もぱちぱちと留め具を鳴らす。

「…弁当。」

「…へ?」

顔を上げると空条くんは私が食べているお弁当箱を指して、「明日、俺の分も作ってこい。」と言った。あからさまな命令形なのに全然嫌な感じはなく、むしろハイ喜んで!と従いたくなってしまうのはきっと、彼が空条承太郎だからだろう。

「わかった。明日、空条くんの分も作るね。」

「…今日と同じでいいか?」

一瞬お弁当の中身のことかと思ったけど、少し考えてどうやらその台詞は時間と場所のことだと理解した。それが今日と同じってことは…

「明日は空条くんも早弁するってこと?」

「…悪くねえだろ。」

授業中に(しかもあの空条くんと)二人でお弁当なんて、最高の贅沢だね!と笑うと空条くんは、「箸忘れんなよ」と私の肩をぽんと叩いた。

「忘れないよ。…明日、晴れるといいね!」

お弁当箱をトートに戻し、私は立ち上がる。
タバコに火をつける空条くんにさよならして、教室に戻る。まるで非日常なさっきのことを誰にも話す気にはなれず、一人でニヤニヤしていると、友人に「気持ち悪い。」と一蹴された。普段ならそれに傷付くところだけど、今日の私はそんなことよりも明日のお弁当が気になって仕方なかった。

*****

「眠いしお腹すいた!」

「全然眠そうに聞こえない。…で、また行くの?」

次数学だけど、と言われてギクリとする。数学だけはサボりたくはないのだけど、約束だから仕方ない。

「…今日は数学だろうとサボります!」

「珍しい。…あれ、今日はいつものトートじゃないんだ?」

お弁当を二つ入れるにはいつものトートじゃ小さかったから今日は違うものにしたんだけど、気付くとは目敏い。けれど彼女はまさか私が空条くんとお弁当を食べるだなんて思いもしないだろう。…言っても信じてくれるか怪しい。

「うん、ちょっとね。…いってきます!」

勢い良く教室を飛び出して、足早に屋上へと向かう。歩を進める度にカチャカチャとプラスチックのぶつかる音が鳴った。その音に安堵と僅かなトキメキを感じながら、私は屋上の扉を勢いよく開けた。

「…空条くん、ごはんたべよ!」


20160226




早弁太郎というテーマで書いてみてと言われたので、先輩に捧ぐ。
割り箸はスタープラチナが購買から持ってきました(てきとう)。相変わらず中身はない。


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm