「花京院ー、ボスが倒せないよー…」
「あー、あれ初見殺しだよね。僕もちょっと苦戦した。」
花京院とは所謂ゲーム友達ってやつで、新作から往年の名作まで、色々語り合う。
時たま付き合わされる萌え話には苦笑せざるを得ないけど、それ以外はとてもよく趣味が合う。
空条くんと付き合い始めてから花京院と会ったのだけれど、私たちはまるで昔馴染みのように仲良くなった。
「え、倒せたの!教えてよどーやんの!」
「…購買でいちご牛乳。」
「買ってきます!」
私はドタドタと駆け出す。
続きが気になって、早くプレイしたくて仕方ないのにボスが倒せないこのジレンマを早く解消したい。
「あれ、空条くん。どうしたの?」
いちご牛乳を届けるべく教室に向かう私に、空条くんが近づいて来る。
購買に行くのかと思ったのに、彼は私の腕を掴んだ。
「…おい。」
「…はい?」
「…なんでもねぇ。」
そう言うと彼は私の手を離して、そのまま行ってしまう。なんだかよくわからないけど、とりあえず私はいちご牛乳を届けるべく花京院の元へ向かった。
*****
放課後、空条くんが迎えに来る。
付き合い始めの時はきゃあきゃあと騒がれていたけど、彼が一喝したせいかみんな慣れたのか、もう日常茶飯事といった様子で。
「空条くん、いつもありがと。」
私のカバンをひょいと持ってくれる空条くん。彼が持つとすごく軽そうに見えるから不思議だ。最初は自分で持つと言ったのだけど、彼は頑として聞いてくれなかったので、もう諦めた。
「…帰るぜ。」
スタスタと進む空条くんを追いかける。
校門を出ると、彼は私の手を取って歩調を落とす。取り巻きの子がいると何かとやっかいだからという彼なりの優しさらしい。
「ありがと空条くん、また明日。」
彼の家と私の家は、ここから違う道。
暗くなければいつも、ここで手を離してさよならする。
けれど今日は、手も離してもらえなければ鞄も返してもらえない。
「花京院のところに行くのか?」
「え?あ、うん。」
私の返事を聞くと、彼は手も鞄もそのままに、自分の家に向かって歩き出す。
私は引き摺られるまま、転ばないように足を進めるしかできない。
「え、あ、おじゃまします…」
離してもらえないまま、空条くんの部屋まで。日本家屋だとか、そういう驚きもなにがなんだかわからないほどの展開に消されてしまう。
「どこにも行くんじゃあねーぜ…」
「空条くん…?」
空条くんの大きな身体が、私を壁に磔にする。二人分の鞄がどさどさと音を立てて落ちた。
「花京院といる時の方が、楽しいんじゃあねえのか。」
「え、なんで花京院…?」
ちょっと言ってることがわからないよ空条くん。どうして花京院の名前が出てくるというのか。
「ねえ、空条く…」
「承太郎だ。…言ってみろ。」
私の言葉を遮って、言い聞かせるように、ゆっくり自分の名前を告げる。
それは、今後も含めてそう呼べっていうことなんだろうか。
「…じょー、たろ…う…」
「できんじゃねえか。」
大きな手が、頭を撫でる。
幸せそうに細められた瞳。名前を呼んだだけなのに。
「…承太郎。」
「…なんだ?」
「承太ろ…っんぅ…」
噛み付くような口付けは奪うためのものなのか、与えるためのものなのか。
言おうとする言葉は全て彼の舌に絡め取られて、呼吸すら覚束ない。
足元ががくりと崩れ落ちたところを大きな手で受け止められて、そのまま畳の上に転がされる。
「…俺のことだけ、見てろよ。」
唾液で光る唇がゆっくりと言葉を形成する。その意味が私の心に落ちる前に、首筋に吸いつかれた。
「…あ、のっ…空条くん!」
驚いて押し返そうと思っても、のしかかってくる体躯には無意味以外の何者でもなくて。
「空条くん」と呼んだのが気に入らなかったのか、彼は首筋に歯を立てた。
「…っ痛い!…やだやだっ、空条く…」
ぎり、と噛み付く力が強くなって、そこでやっと思い至る。
「やめて、じょうた、ろ…ぉっ…」
噛み跡をべろりと舐められて、背筋が震えた。空条く…承太郎の大きな手が、制服の下から差し込まれる。
「…今すぐ、俺のものになれ。」
有無を言わせぬ強さでもってそう告げられ、返事もしないうちに這い回る掌。
もう唇からは、意味のある言葉なんか出ない。
「…っあ、…んっ…」
こんな声が出したいわけじゃないのに、と手で口許を覆えば、承太郎は意地悪く口許を歪めて私の脚の間に割り込む。
「…エロい声出してんじゃあねーか。」
確かめるように這わされた指がぬるりと滑ると、彼は満足げに笑って、私の頬に口付けた。
「…じょ、たろ…っ…」
恥ずかしくて顔から火が出てしまいそう。
承太郎は何も言わないけれど、何度も往復する指が嫌でもその先を想像させる。
「…初めてか。」
つぷ、と指を浅く埋め込んで、承太郎が問う。未知の感覚に身体を戦慄かせながら、こくこくと首を縦に振る。
「…ぅ、んっ…ひゃ…」
ゆっくりと進入する指に、声が抑えられない。果たしてこれを快感と呼んでいいのかわからない。けれど承太郎が、と思うだけで私の身体は離すまいとしてしまうようだった。
「キツイな…辛くないか?」
心配そうに問う言葉とは裏腹に、指先は私の中を蠢き続ける。ここで辛いと言ったら彼は止めてくれるんだろうか。
「…じょー…たろ…ッ、」
「…大丈夫そうだな。」
彼は勝手に納得して、指を増やす。
二本の指がバラバラに動き、私が嬌声を上げているうちにいつの間にか三本に増やされる。
「…あっ、ん、…は、…」
「…ななこ、どこにも…行くなよ…」
指を抜かれてホッと息をついたのも束の間、まるでそれが私を繋ぎ止める軛であるかのような台詞と共に、承太郎のいきり立ったモノが押し込まれる。
指とは比べ物にならないほどの圧迫感に、息が詰まる。
「…っく、あ…ぁっ、じょ、たろ、っ…」
「…っ、ななこッ…」
抱き締められる身体も、貫かれる痛みもただただ苦しい。
ぽろぽろと涙が零れて、承太郎の姿が歪む。まるで溺れているかのように、しがみつくことしかできない。
「…う、ッく…は、」
必死で呼吸を整えようとしているのに、容赦なく穿たれてわけがわからなくなる。
「…ななこっ、ななこ、好きだ…」
呼ばれる名前と好きの言葉と痛みの中に、何かを見つけた気がして、ぎゅうっと承太郎にしがみついた。
*****
気付いたら、布団に寝かされていた。
「…大丈夫か?」
「あ、うん…だいじょーぶ…」
髪を撫でる心配そうな承太郎。
なんだか喉が痛くて、ぼーっとする頭が情事を思い出すまで、風邪でも引いたのかななんて錯覚。
「…無理させて、悪ィ…」
ばつの悪そうな顔をする承太郎がなんだかおかしくて、その大きな手を取って、指先に口付けた。
「…やれやれだぜ。」
「…似てねえよ。」
帽子を被っていない承太郎は、照れた顔が隠せなくて大変そうだった。
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bkm