なんだか沈んだ気持ちなのは、天気のせいかもしれない(花京院くんがいないのも雨のせいだし)。空条くんに話を聞いてもらって少しばかり気持ちは楽になったけれど、まだなんていうか、わだかまったような、澱んだような気持ちを持て余す。
教室という空間に隔離された私たちはみんなどこか鬱屈した気分らしく、晴れた日とはまた違った雰囲気でぎゃあぎゃあと騒いでいた。
「やだそれありえないでしょー」
不意に耳に飛び込んで来た言葉に、ハッとする。どうやら怪談話をしているらしく、彼女たちはきゃあきゃあと「幽霊なんていないって」と笑っている。よくある怪談話なんだろうけど、私の心にその言葉が突き刺さる。いなくないよ、と思っても、花京院くんが生きてないことは事実だ。
大きな溜息を吐いたけど、それで雲が晴れるわけもなくて、ただ鬱々と一日を過ごす。この状況を知っているのは空条くんもだけど、彼に私の気持ちはわからないだろうし、仮に空条くんに言ったとして、何か変わることがあるわけじゃあなく、ただ優しい空条くんを心配させるだけだろうなって。
ゆうれいなんていない、としたら、花京院くんはなんなんだろう。私の恋心が暴走した結果の妄想なら、空条くんに見えるはずがない。でも私が幽霊を見ることができる人間なら、花京院くん以外の「何か」だって見えてもいいように思う。たとえばそう、今側で騒いでいる彼女たちが言う「幽霊屋敷」の前を通った時、とか。
そこまで考えて、行ってみようかな、なんて考えが過ったけれど、一人じゃあ怖い。かといって誰か友人をさそうのも悪いし、あいにく幽霊屋敷に一緒に行ってくれそうな人はいなかった。
やっぱり怖いしやめようかな、とも思ったけど、少し、そうちょっと、家の前を通るだけくらいなら。それくらいなら一人でも。
「……よし、」
雨の上がった帰り道、ちょっと遠回りをして噂の家の前を通ってみた。雨は上がったとはいえまだ雲がどんよりと落ちて薄暗い。
「……みつけた」
「きゃあああ!」
不意に後ろから声を掛けられて思わず悲鳴を上げる。反射的に走り出した私を、よく知った声が追う。
「ちょ、急にどうしたのさななこ!」
「……あ、……花京院くん……」
声の主を認識したら、なんだかホッとして泣きそうになる。瞳を潤ませる私を見て、何にも知らない花京院くんは驚いた顔で「どうしたの?」と問い掛けた。いざそう言われると説明すら恥ずかしい気がして、視線を足元に落として赤い頬を隠した。
「……なんでもない、」
「いやなんでもないことはないだろう? あんなに叫ばれちゃあ流石にそれは納得いかないよ」
どうしたの? と真剣な顔でもう一度聞かれて、私はしぶしぶ事の経緯を話した。
「……そこの家、オバケが出るって……聞いて……花京院くんがゆうれいなら、私にも見えるかなって……」
「……そんなに怖がってるのに、見たかったの?」
「……そうじゃあなくて……花京院くんが……本当にゆうれいなのかな、って」
うまく説明できないのが歯がゆくて、花京院くんに言うのは恥ずかしかったけれど、どうにかこうにか紡いだ言葉を花京院くんは一つずつゆっくりと拾って、理解してくれたみたいだった。
「……僕は、覚悟していたし……実際、悔いもないって、思っていたはず……なんだけど、」
ちょっぴり恥ずかしそうに花京院くんは言う。「でも今、僕が君の前にいるってことは、本当は君に会いたかったのかもしれないよね」と。
「それを言うなら……、私の方だよ」
私が、花京院くんに会いたかったんだ。
小さく落とした言葉を噛み締めるみたいに花京院くんはゆっくりと瞬きを繰り返して、それから幸せそうに微笑んだ。
「君の夢のこともあるし、本当に、そうなのかもね」
20180508
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bkm