「Dolcetto o scherzetto?」
シーツを頭からひっ被った塊が突然目の前に現れて言った。この声はメローネ。まぁここでこんな馬鹿なことをするのはメローネしかいないから、喋らなくてもわかったんだけど。
お菓子か悪戯か? なんて聞かれたらそりゃあ当然お菓子にいいに決まってる。
「お菓子がいいよそんなの。」
「ちーがーう。君が俺にお菓子をくれるの!」
私の言葉にぶんぶんと首を振った(シーツを被ってるから多分だけど)メローネは、不満気な声を上げた。そんなこと急に言われたって、お菓子なんて普段食べないし、そもそもあげなきゃいけない意味がわからない。
「今持ってない。」
で、なんでアンタはシーツを巻いてるの? 中身は全裸なの?
そう問うと彼はシーツからひょっこりと首を出して「やったね!」と笑うと突然私に飛びかかってきた。こいつ私の話全然聞いてない。ばさりと覆い被さるシーツは、私の視界と逃げ場を塞ぐ。
「うわ! ちょ、なにっ!?」
「…アメリカじゃあ今日は『ハロウィン』ってイベントで、お化けの格好してお菓子を貰いに行くんだって!」
うん、そんな風習があるのは理解した。けれど今私がシーツをひっかぶされてメローネに押し倒されているのがどう関係するのか、まったくもって理解できない。
「…うん、で、それと私を組み敷くのと何の関係があるの?」
メローネは器用に私の顔だけが出るようにシーツをめくった。眼前いっぱいの近さにあるその無駄に美しい顔を睨みつけても彼は何処吹く風といった感じで、私の視線を意にも介さず無理やりに口付けた。
「…お菓子がもらえなかったら、悪戯してもいいんだってさ。」
だから、許してよななこ。なんてそれはそれはいい笑顔を向けるメローネ。いや許すも何もこれはイタズラと名していいものなんだろうか。
とりあえず「今日はそういうイベントだ」というところだけは理解できた私は、メローネに向かって先程の言葉を返す。
「メローネ、Dolcetto o scherzetto?」
「うん、じゃあ俺のコレ、舐めていーよ。」
メローネは勢いよく半身を起こし、私に被せていたシーツをばさりと取り払った。満面の笑みで、馬乗りになったまま顔の方へとにじり寄ってくるメローネを眺めながら、あぁやっぱりコイツ全裸だったよ、と溜息を吐く。残念ながら彼のこの手のセクハラには慣れてしまっていて、悲鳴を上げるだとかそういう可愛らしい反応はできない。(慣れるほどやるメローネは馬鹿だと思うし、悲鳴をあげたら喜ぶコイツは変態だとも思う)
っていうか、全裸になっても顔を覆うマスクは外さないんだ? 頭隠して尻隠さずを地で行くような随分間抜けな格好が、メローネらしいと言えばらしいのだけど。
「…お菓子が無ければ、悪戯してもいいのよね?」
メローネが私の顔にその汚らわしいモノを押し付ける前に、というか多分彼が私の言葉を認識するよりも早く、彼の鳩尾に拳を叩き込んだ。
「うぐっ、……ディモールトいいパンチだよななこ…」
私の上から転げ落ちるメローネを尻目に立ち上がり、トドメとばかりに蹴りを一発。
ハロウィンなんて面白そうなイベントを教えてくれたお礼に、少しばかり手加減してあげた私は優しいと思う。でも後でリゾットに言いつけよう。
せっかくの楽しいイベントだし、お菓子を買ってきてみんなでパーティーでもしようかと考える。とりあえず足元に転がるメローネを飛び越え、買い物に出掛けることにした。
HappyHalloween!20151031
(加筆修正:20180107)
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bkm