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君のためなら

外人彼女、と言われたのに彼女になれてない…すみません…!




「ガイジン」って言葉は嫌いだ。
日本に生まれて日本に育ったって、少しばかり瞳の色が違うだけで「外人」なんて心無い言葉であるべき子供達の輪から弾かれたことのある俺は、彼女がその言葉を周りから掛けられるたび、逃げ出したいような不安な気持ちになる。

「おうガイジンさん、今日もべっぴんだねえ」

「ありがと!おじちゃんもオトコマエだね!」

ひらひらと手を振って軽口を叩く彼女の日本語は流暢で、駅前の小売店の爺さんたちは彼女が買い物に通り掛かるのを心待ちにしているらしいと噂で聞いた。

「あ、ジョースケ!」

学校帰り?元気?なんて矢継ぎ早に言葉を紡ぎながら駆け寄ってくる。ブロンドに白い肌、青い瞳の彼女が紡ぐ日本語はなんだかちぐはぐな気がして、居心地の悪さとともにふいと顔を背ける。

「元気っすけど」

「相変わらずそっけないね。」

なんでよ、仲良くしようよ、なんて馴れ馴れしくまとわりついてくる。

「アンタとは仲良くしたくねーっスよ」

俺がそう言ったら、目の前の瞳の色が変わった。目の色を変える、という言葉があるけど、まさか自分がそれを目の当たりにするなんて思ってもみなかった。本当に変わるのか、とぼんやり彼女の瞳を眺める。

「なにそれ、シツレーじゃない?」

怒ったような傷ついたような、感情の乱れた声が鼓膜を揺すった。記憶の奥底、自分が仲間外れにされた時の気持ちまで揺り起こされたような気がして、俺はきっぱりと告げる。

「人間関係「無理なもんは無理」ってやつだよ…」

俺アンタのことイマイチ苦手なんスよねぇ、と眉を下げる。これを言い切れてしまうのは、俺がガキだって証拠なんだろうけど、目の前のななこさんがあんまりに魅力的過ぎて、こんなざわつく気持ちを押し隠して笑顔で相手するのも申し訳ない気がする。

「なんでよ。そんなにさぁ、話したことないでしょ?」

私は仗助のこと、もっと知りたいと思ってるのに。避けられる理由わかんない。
困惑を隠そうともせずにそう言う彼女が昔の俺と重なって見えて、思わず目を逸らした。

「…すんませんけど、急いでるんで」

胸が痛い。けれどどうしていいかわからない。なんでアンタの髪は黒くねーんだよ、なんてどうにもならないことを思う。ななこさんがもし、黒髪の、黒い瞳の、日本人だったら、俺はこんなに心を傷めることもなく、彼女と笑顔で話しただろうに。

「…私が、日本人じゃないから?」

悲痛に絞り出された声が鼓膜を揺さぶって、思わず息が止まった。ななこさんは俺の反応でそれを肯定と認識し、どうして、と呟いた。

「…どうして、…仗助だって、ハーフじゃあない」

「…だからっスよ」

コンプレックスとトラウマと、自分の汚い部分を全て明るみに出された気がして、苦虫を噛み潰したような顔しかできない。唇を噛む俺を見て、ななこさんは困った顔で笑った。

「…そっか、ごめんね」

「あんたが謝ることじゃあねーっス…悪いの、俺だから。」

瞳の色で扱いが変わることを何よりも嫌がっていたのは自分なのに、今まさに自分がその忌み嫌っていた人たちと同じことをしている。自己嫌悪で吐きそうだ。目の前のななこさんは、何にも悪くないってのに。

「…仗助、真っ青だけど大丈夫?」

「あ? だいじょーぶっスよ」

なんでアンタは俺の心配なんかしてんだよ、今おれ、ひどいこと言ったばっかりだろ。
頭の中がぐちゃぐちゃで、どうしていいかわからない。一刻も早くここを立ち去りたいのに、足はうまく動かない。

「…なんで、って…、好きだから」

思いもよらない言葉が、モヤモヤした思考を切り裂いた。「はぁ、?」なんて間抜けな声を出す俺を真剣に見つめる瞳は、青空よりも澄んでいた。

「…アンタ、苦手っつってる相手捕まえて『好き』とか、ホント何考えてんスか」

俺は嫌っスよ…と、彼女が傷つくのを分かっていても、唇から零れる言葉は止められなかった。

「だって、仕方ないじゃない。」

仗助は私のこと嫌いでも、私は好きなんだもん。
ななこさんがあっさりと零す言葉が、心底羨ましく聞こえた。俺だって、おれだって。
瞳の色で仲間外れにされたくなんてなかった。一緒に遊びたかった。今、この街に似つかわしくない髪と瞳でこの街に馴染むアンタが、羨ましくて、憎い。

「…でもさぁ、髪と瞳だけで、別に私のこと嫌いってわけじゃあないんでしょ?」

だったら別に、言ってもいいかなって。なんてあっさりと笑う。

「…アンタずりーよ。なんでそんなに自由なんだよ。」

思わずそんな言葉が零れた。ななこさんは母親みたいな瞳で俺を見つめて、困ったように笑う。

「…大人だから、かな。」

あと10年若かったら泣いちゃったかも、なんて、全部見透かすような青い瞳を向けるのは、本当にズルい。

「…俺はガキだから、悪ィけどもう帰るっス」

ぷい、と踵を返して早足で進む。当たり前だけどななこさんは追っかけてこなかった。

*****

「あのガイジンのねーちゃん? 最近見かけねーなァ…」

それからしばらく、俺が彼女を見かけることはなかった。それは俺だけじゃあないらしく、彼女がよく行く小売店で聞いても、皆一様に首をかしげるばかりだ。

もしかして帰っちまったのかな、とか、これはもう承太郎さんに聞くしかないのかな、とかいろんなことを考えながら歩いていると、後ろから見知った声がした。

「仗助!久しぶり!」

「…え、ッ!?」

振り向くと、俺に向かってくるのは黒髪のショートカット。満面の笑みで俺の足元まで駆け寄って、見上げる瞳も黒かった。

「ななこ…さん…?」

「ねぇ仗助、これならいい?」

いやあ意外と気付かれないもんだね、なんて呑気に笑うななこさんは、今までとまったく別人みたいだ。

「…アンタ…どーしたっつーんスか…」

「…え? 仗助が『日本人がいい』っていうから。」

流石に国籍は変えられなかったけど、仗助と結婚すれば私ちゃんと日本人になれるよ!
目の前で笑うななこさんに、なんでだよ、と零せば、彼女はまた「仗助のこと、好きだから」と笑った。


*****

「…しかしすげー変わりようっスね」

「染めるの大変だから切ったしねぇ…」

「…その目は、」

「これ? コンタクト!」

「…ふーん…」

「それでさぁ仗助、」

「…なんスか」

「このななこちゃんの努力に免じて、付き合ってくれないかなァ」

「……デートくらいなら、…いーっスよ」

「やったぁ!!仗助大好き!」



20171008


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm