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Buon Compleanno

花束とワインとケーキを抱えて、
どこからどう見ても『誕生日を祝います』といった出で立ち。道行く人が振り返るがかまいやしねぇ。
恋人のななこは欲のない女で、誕生日だというのに普段どおりの1日をご所望だ。
なんだって叶えてやるつもりだったのに、何もいらないと抜かしやがるななこに、せめてものサプライズ。
玄関を開けた瞬間、薔薇の花と共に『Buon Compleanno』なんてベタなおめでとうを。

「ありがとうプロシュート、上がって。」

特段驚くこともなく、普段どおりのななこ。
こんな変わった女に惚れるとは思わなかった。

「お前なぁ…もう少しリアクションってもんがあるだろうよ…」

「…キャラじゃないし。あ、でも嬉しいのは本当。それワインでしょ?私の生まれ年の。…あとは、プロシュート手作りのチーズケーキ!早く食べよ?」

荷物の中身をあっさり当てられてしまって、サプライズは失敗する。

「…お前は犬か。鼻でわかるのか?」

ムカついたので鼻を摘んでやると、いひゃいー!なんて間抜けな声をあげている。

リビングに着くと既に料理が並べられていて、まるで俺がもてなされているようだと思った。今日くらいお前を姫扱いしてやったっていいのに。

「相変わらず壮観だな。」

「作るの好きなんだけど、食べる人がいないのよね。」

薔薇をテーブルに活けて、ワインで乾杯する。夜景も音楽も給仕もないが、どの高級レストランより心地いい。

「ねぇプロシュート、私欲しい物があるの。」

二人とも程よく飲んだ頃、ななこがぽつりと口を開いた。
普段モノなんてねだったことのないヤツがそんなことを言うんだから余程のことなのか。

「・・・俺にできることなら、なんだって。」

「あなたの命を頂戴。」

いつもと変わらない様子で微笑むななこ。
いつ死ぬかわからない命、こいつにならくれてやってもいい。そう思ったが、もし俺がコイツに騙されていたとしたら。 俺を殺すために恋人になっていたとしたら。

「いいぜ。…ただ、その前に教えてくれ。
 …どこの組織の差し金だ?」

もし騙されて、情報を取られたあげくに殺されたりしたら、 仲間たちに顔向けできない。 仮にも暗殺者が抵抗もなくあっさり殺されて、あいつらも危険に晒して。
そしてコイツは、チームの誰かの手で殺されるだろう。 多分、存分に苦しめられてから。
だったら、せめて俺がここで殺してやるべきなんじゃないか。

ああ、さっきまであんなに幸せだったのに。
心地よかったはずの酔いはすっかり醒め、胸部に不快感が渦巻く。

「プロシュート・・・」

「ブッ殺す」と心の中で思ったら、その時すでに行動は終わっているんだ。 そのはずなのに。

この世に生まれた日に、たった一つの願いさえ叶わないままこの世を去るなんて、なんて記念日なんだ。なぁななこ。

しかし直後に聞こえた台詞は、想像とは違っていた。

「やっぱり・・・マフィアだったのね。素敵よプロシュート!」

「…はぁ?」

キラキラした瞳でこちらを見つめるななこ。
毒気とか殺気とか、そんなものはどこにもなくて、上気した頬がまるで恋をした乙女のよう。…実際そうなのかもしれねぇが…

「初めて見た、あんな冷たい目。ゾクゾクしちゃう。」

駆け寄って絡みつくように腕を回して、耳許でそっと囁いてくる。
謀られたことに気づき、ホッとしたやらムカついたやら。どうしてくれようかとななこを見たが、今まで見たことがないほどハイテンションできゃあきゃあしており、こちらの毒気を抜かれてしまう。

「…なんだ、マゾヒストか?」

「…プロシュートになら殺されたい!…あ、でもチーズケーキ食べてからね。」

いそいそと台所に向かおうとするななこを引き止めて口付けた。

「約束どおり、俺の命をやるよ。」

ただし、お前の中に。
こんな暮らしで、安易に死なない約束なんてできないから。

誕生日に命が増えるってのもなかなか奇跡的でいいんじゃないか、なんて暗殺者にあるまじき考えだろうか。


萌えたらぜひ拍手を!


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