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臆病者に口付けを

「アバッキオー!」

「なんだよ。」

用事がないならどっか行け、と言わんばかりの態度に悲しくなる。私は生粋のイタリアーナではないからわからないけど、イタリアでは年上は敬いなさいって教わらないんだろうか。

「別に用事はないんだけどさー、アバッキオに会いたかったから。」

私がそう言うと彼は舌打ちをひとつ。
彼はブチャラティ以外には厳しい。それは多分みんな知ってるから、別に誰も文句は言わない。その厳しさについて私も例外ではないってこともまぁわかるけど、見る限り私に対しては特段厳しい気がする。ツンデレにしてはデレがない。なさすぎる。

「俺は忙しいんだ。」

「…じゃあ、好きって言ってくれたら帰るね?」

「…だったらずっとそこにいな。」

そう言うと彼は踵を返した。慌てて彼の背を追いかける。身長がかなり違うから足の長さも当然違うわけで、早足で歩く彼に追いつくのはいささか骨が折れた。

「…ねぇ、好きよアバッキオ。」

「そりゃどーも。」

一瞥もくれずに言葉だけ返される。毎回こんな調子だ。ミスタに相談したら「照れてんじゃねーの?」と言われた。単に慰めかと思ったのだけど、あのフーゴにすら同じことを言われたら少しばかり期待してしまう。
ナランチャまでも「ありゃーどうみたって照れてんだろ。」なんてこともなげに言うから、めげずにモーションをかけていたけど、こうも相手にされないと流石に心が折れそうになる。

「ねぇ、アバッキオってばー!」

「ななこ、年ってもんを考えろ。お前オレより年上なんだろ?…ガキかっての。」

突然振り向かれてアバッキオに思いっきりぶつかる。彼は私がぶつかっても全然なんともないといった様子ですぐに多少の距離を取り、しゃがんで私の顔を覗き込みながら諭すようにそう言った。

「…アバッキオがちゃあんとシニョリーナ扱いしてくれれば問題ないだけじゃない。」

ぷぅ、と頬を膨らますと、彼は話にならないといった様子で溜息をつき、自室へと戻る。
彼が部屋に入ろうとドアを開けた瞬間、彼の手の下をするりと抜けて部屋に入った。
背が低いのも偶には役に立つな、なんて思いながらアバッキオに向き直ると、彼は珍しく驚いて目を丸くしているから、思わず笑ってしまう。一応私だってギャングの端くれだ。これくらいできなきゃとっくにお払い箱だろう。

「…いい加減にさぁ、はぐらかさないでよ。」

そう言って見つめると、彼は私の様子がいつもと違うと思ったのか、珍しく視線を合わせて言った。

「オレはよォ、ななこ。恋だとか愛だとかそーいうもんに無縁でいたい。…オレたちはギャングだ。いつ死ぬかわかったもんじゃあないんだぜ?」

だからほら、帰んな。と彼は私をドアに向かわせようと腰を屈めた。少しばかり低くなった彼の胸元についた紐を鷲掴みにして引き寄せ、無理矢理に口付ける。

「アバッキオの臆病者。」

「…なんだと?」

睨みつける視線は戸惑いに揺れている。
言葉とは裏腹に、まるで迷子になった少年みたいな瞳。誰かに助けて欲しいみたいな目をしているくせに、彼はちっとも人を大切にしないのだ。それは誰よりも彼自身に対して如実に表れているから、私は彼を放っておけない。

「…死ぬのなんて御免だから、ギャングやってんのよ。」

掴みっぱなしの手をもう一度引き寄せた。
アバッキオが驚いて抵抗を忘れているのをいいことに、再度口付ける。

「…っ、ななこ…!」

「ね、本当に…好きなの。…アバッキオは、私のこと…迷惑?」

自分でキスしておいて言えたセリフじゃあないけれど、 アバッキオに嫌われるのが怖くてまともに顔が見られない。

「…あぁ、迷惑だ。」

その一言で、私に衝撃が走る。ぐらりと視界が揺れてひっくり返り、身体が重くて動かない。

「…アバッキオ…?」

気付くと私は、アバッキオに押し倒されていた。視界が揺れたのも身体が動かないのも、ショックのせいではなく事実だったらしい。
そりゃあアバッキオに組み敷かれたら動けないよな、なんて場違いなことを考えつつ彼を見遣る。迷惑だ、と言われた私より、言った彼の方が辛そうな顔をしているのは何故だろう。

「…お前が…オレに構うから、オレはお前が気になって仕方ねえんだ。」

どうなっても知らねえからな、と零して彼は私に口付けた。言葉とは裏腹に、慈しむようなキス。

「…いいよ。だって、好きなんだもん。」

首筋に腕を回すと、アバッキオの髪がさらりと流れて私の頬をくすぐった。
小さく溢れた吐息を掬い取るように指先が唇を撫で、そのまま襟元のボタンへと掛かる。そのまま絞め殺してよ、と言ったら彼はそうしてくれるのだろうか。詳しくは知らないけれど、彼の過去には拭いきれない何かがあるらしい。パッショーネにいる時点で何もないなんてことはまずないから、そんなこと誰も気にしないのに。と思うけれど、それは私がそう思わなきゃやっていられないだけかもしれない。

「…ななこは、俺が、怖くないのか。」

そんな不安げな瞳をして、眠った捨て猫すら起きないような愛撫をするアバッキオの何が怖いというんだろう。肌を滑るひんやりと冷たい彼の手を捕まえて、己の胸に誘なう。

「…怖がってるのはアバッキオの方でしょう?」

ぐ、と彼の手を胸に押し付けると、彼の指先が埋もれていく。そう簡単に壊れやしないのに、優しすぎる彼は躊躇うのだ。

「…おい、ななこ。」

「ね、早く。…気持ち良くして…」

不安にさせないで、なんて私のワガママな言葉を真剣な瞳で受け止めた彼は、小さく頷いて私の胸に顔を埋めた。

「…っん、ぁ…ッ…」

奇妙な色の唇が、頂を食む。最初は躊躇いがちに這わされた舌が、私の声に後押しされるようにいつしか遠慮無く肌を侵食していく。
言葉を掛けられることは少なく、けれど名前を呼ばれるだけで充分だった。

「…っ、ななこ…」

指先が許可を求めるように私の入り口を撫でる。ぐちゅぐちゅと鳴る水音と唇から溢れる嬌声は許可の返事以外の何者でも無いはずなのに、彼は赦しを請うように何度も私の名前を呼んだ。

「…っは…やく、」

肯定の意を持つ言葉を落としてやっと、彼の指が私を探し始める。溺れそうなほどに蜜を湛えた其処は、容易に彼を深くまで飲み込んだ。

「…ななこ、」

「…すき、ッあ…気持ちい…アバッキオ…」

長い指が内壁を擦り上げるたびに、勝手に身体がびくついて、逃がさないとばかりに締め付けてしまう。けれど彼はその身体を私から引き剥がした。空っぽになった身体が中身を求めて震える。

「…少しだけ、待ってな。」

「…っん、…」

私の不安げな瞳に気付いたのか、彼は安心させるように額に唇を落とした。カチャカチャとベルトを外す音がして、指よりもずっと熱い塊が宛行われる。そのまま割り開かれると力を抜いた私の期待を嘲笑うように、彼は耳元に言葉を落とす。

「…好きだ…ッ…」

言葉が心に落ちるよりも早く、待ち望んだもので私の中身が埋められる。
破裂してしまいそうな程満たされて、只々しがみ付くので精一杯だった。

「っうあ、あっ!や…ッ、あ!あッ、」

ガツガツと何度も奥を穿たれて、その度に獣染みた声が空間を破る。焦点の定まらない瞳で必死に映し取った彼の目には、ちゃんと私が映っていて、それだけで達してしまいそうになる。思わず彼の背に爪を立てると、熱の籠った吐息が零れた。伏せられた睫毛も、長い髪も、眉間に寄った皺さえも愛おしい。

「…ななこ、ななこ…ッ!」

「や、あッ!んんんーーーッ!」

びくびくと震えながら熱い飛沫を最奥に注ぎ込まれて、声にならない悲鳴を上げる。
呼応するように緊張と弛緩を繰り返しながら、緩やかに意識を手放した。

*****

「…ん、…ぅ…」

ゆっくりと意識が浮上する。身じろぎすると、私の身体に腕が乗っているのがわかった。抜け出すのも勿体ないけれど、力の抜けた腕は結構重い。ゆっくりと瞼を持ち上げると、目の前には安心しきったような表情で眠るアバッキオ。規則的な寝息が耳を擽る。まるで何かから守るように抱き込まれているこの体勢に、思わず頬が緩む。

「…アバッキオ、」

小さく呟くと、まるで別人みたいにカサカサに乾いた音がした。そうしてやっと、昨日の情事を思い出す。
彼は起きたらまた、捨てられた犬みたいな瞳で私を突き放すのだろうか。何も怖くない、なんて言葉は慰めにもならないと、ここにいる私たちはみんな知っている。

知っているからこそ、敢えて何度でも贈ろう。




臆病者に口付けを。




20151122


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm