「先生、風邪ひきますって…」
「だから別に大丈夫だって言ってるだろ。」
自惚れないでくれ。
もう君のそんな戯言は聞き飽きたんだ。
「でも、先生…」
「うるさいな、出てけよ。」
「…せんせ…」
ななこは何か言いたげに瞳を伏せて、しかし何も言わずに出て行く支度を始めた。
脱がせた衣服をまとめてななこに投げつけながら、ぼくは言った。
「二度と来るな。」
残念だが、女一人捨てたくらいでダメになれるほどぼくは出来た人間じゃあない。
目的は、セックスだけだったんだから。
知人程度だったコイツがぼくのことを好きだと知って、少し遊んでやろうと思った。
「ぼくのこと、好きなんだろ?」
「えっ、あ、…はい…」
「だったらぼくにその身体を貸せよ。」
頷くななこは真っ赤になっていて、まるで告白が受け入れられたかのような表情をしていた。それが気に入らなくてぼくは、きちんと釘を刺した。
「いっておくが、恋人じゃないからな。君はぼくのオモチャで、拒否権はない。」
青年誌に進出でもしたら役に立つかと思ってなんの気なしに始めた関係だったが、ななこが拒まないのをいいことにおおよそ思いつく限り、それこそ漫画に描けないようなことまで一通り試してみた。
どんなに酷いことをしてもななこは僕が呼べば家に来たし、行為の最中も拒否はしなかった。どんな卑猥な言葉でも、屈辱的なことでも。
あんまり受け入れるものだから、途中からコイツが泣いて嫌がることはなんなのか興味がでてきたくらいだ。
ぼくはこんなに酷いやつだというのに、ななこはぼくの心配ばかりする。
決して恋人面をしているわけではなく、せいぜいさっきみたいな「風邪ひきますよ」か「ゴハンちゃんと食べてくださいね」くらいだ。
何か求められたわけでもなく、ひたすらに受容される。ぼくは彼女の何が気に入らなかったのか。
考えても答えは出なかった。
*****
3日に一度のペースで呼び出していた彼女を捨ててから2週間も経っただろうか。
「…クソッ…!」
ぼくはペンを投げ捨てた。作業は全く捗らないし、イライラしっぱなしだ。
ここ数日、眠ればななこの夢を見て、起きていれば彼女の連絡先を眺めてイライラしてしまう。
フラストレーションが溜まっているせいかと一人で処理してみたけれど、収まるどころか悪化したような気さえする。
自分で二度と来るなと行った手前、呼び出すのはプライドが許さない。
少し気分を落ち着けようと、机を離れ窓から外を見ると、ななこの姿が見えた。
「…何やってるんだよ。」
「…あ、露伴先生。」
玄関を出て、彼女に声を掛ける。
特段いつもと変わらない様子のななこに、腹が立った。
「なんだよ、抱かれに来たのか?ぼくが忘れられなかったんだろ。」
「……」
ななこは答えずに、ただ悲しい瞳で僕を見ていた。なんだよその眼は。ぼくを憐れんででもいるのか。
「なんとか言えよ。」
「先生、私…先生のことが、やっぱり好…」
「うるさい黙れ!」
ななこの言葉を遮って、ぼくは腕を振り抜いた。ゴッという衝撃が拳に走る。
「…ッ!」
「なんなんだよ君は。そんなに僕が好きか。僕になら何をされてもいいっていうのか!」
倒れた彼女を引きずって家に入る。
玄関の鍵を掛けると、そのまま何度も蹴った。
ごふっ、という音がする。漫画の効果音によくあるアレは本当なのか…なんて、妙に醒めた自分がいた。
「…ッぐ…せん、せ…」
鳩尾にでも入ったのか息も絶え絶えに、それでもぼくを呼ぶのか君は。
君は一体なんなんだ。
「…もう思いつく殆どのことは君で試したんだ。…やってないのは屍姦くらいじゃあないかな。」
そう言って服を脱がせる。さっき殴ったせいで唇は切れて腫れてきている。
蹴ったところはまだわからないが、いずれ青アザになるんじゃないだろうか。
「せんせ、が…したいなら…」
ここでも拒否をしないのか。
君はぼくに何を求めているのか。
何もわからなくて、頭がおかしくなりそうだ。
「馬鹿じゃないのか君は!」
脚を開かせて、濡れてもいない彼女にいきり立った己を突き立てた。
彼女を見たせいなのか、暴力を振るったことに対してか。いずれにしてもこんなことで勃つなんて僕はもうおかしいのかもしれない。
「…ぅぐ…ッ…」
めりめりと肉が裂ける音が聞こえてきそうなほどキツい。濡れていないソコは閉じていて、ななこは恐怖かそれとも痛みのせいか、ポロポロと涙を零していた。
「…なぁ、嫌だって言えよ。玄関で、暴力振るわれて無理矢理犯されるのは嫌だって!」
「…言い、ませ…ん、…」
ぎゅっと抱き着かれて、ふわりとシャンプーが香る。なんでコイツはそこまで僕を受け入れるのか。
「こういうのが好きなのか?…ならぐちゃぐちゃに犯してやるよ…ッ!」
「…ひっ…ぅ、ぐッ…!」
そのまま抽送を始めると、ななこの唇から押し殺した悲鳴が聞こえた。ぼくだって相当痛いんだ、コイツはその何倍も痛いだろう。
「千切れそうだ…ッ、力、抜けよななこッ…」
「…せんせッ、う…ぁ…」
必死に息を吐いて、ぼくの言う通りにしようとするが、強張った身体は思うように開かない。
構わずにガンガンと腰を打ち付ける。
目の前のななこのことを考えたくなくて、ただひたすらに快楽を追った。
「…っ…い、く…、ッ!」
ぼくがななこの中に白濁を注ぎ込む頃には、彼女はぐったりと気を失っていた。
*****
「すまないが、コイツを治してやってくれないか。」
気を失ったななこをベッドルームに運んで身体の汚れを拭いた後、ぼくはクソッタレ仗助を呼び出した。
服はどうにか着せたタンクトップとパンツだけで、身体はアザだらけ。
「ちょ、露伴。アンタ何したんスか…」
そんなななこの姿を見て、仗助が言葉を失う。ぼくがやったと確信しているあたり、コイツはどこまで知っているのか。
「いいから直せよ。ぼくが何をしたか
聞きたきゃコイツに聞け。」
クソッタレ仗助は、彼女を治すと掛けていた毛布で彼女を包んでそのまま抱き上げた。
「ムカつく奴だと思ってましたけど、アンタマジ最悪だな。」
怪我が治ってすやすや眠る彼女と一緒に、仗助は出て行った。
「好きだからって何でもしていいわけじゃないってことくらい、子供にだってわかるだろーよ。」
そう最後に言い放った言葉が、ぼくの心に刺さる。ぼくは彼女が好き、なのか…?
自分が求めている分ななこにもぼくを求めて欲しいと、そう思っていたせいで、何も要求されないことにイライラしていたというのか。
ぼくの気持ちが伝わらないことに苛立っていたというのか。
だとしても、今更どの口が愛の言葉なんて囁けるものか。
これはきっと、君の呪いに違いない。
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bkm