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二人を繋いでいるの。

「明日は買い物に行こうか。」

突然吉良さんにそう言われて、私は読んでいた文庫本から顔を上げる。

「…いえ…私は、」

困ったようにそう告げると、吉良さんは私の不安を察したのかそっと手を取った。

「…少しばかり遠出をしようと思うんだ。」

指先に口付けながら、それなら平気だろう?なんて優しく微笑まれては、頷く以外の選択肢が見つからない。

連れてこられてからしばらく経つけれど、確かに下着類はないと不便だなと思う。

最初の頃、知人に頼んで買ってきてもらったと下着を2セットばかりもらったけれど、ブラは少しサイズが合わないし、3枚のローテーションは雨が降ったりするとちょっとしんどい。吉良さんは殺人鬼なのでその知人とやらが本当に知人かもわからない上に、ましてや生きているとも限らない。なので私は今回の外出で下着を買って欲しいと思っている。

「…あの、私…欲しい物があるんですけど…」

おそるおそるそう声を掛ければ、吉良さんは驚いたように私を見た。
そうして、私の不安げな瞳に気付くと身を屈めて視線を合わせながら宥めるように言葉を紡いでくれた。

「…君が自分から何かをねだるなんてめずらしいじゃあないか。…言ってごらん?」

「…下着、が…欲しいなって、…」

頬が熱くなる。男の人に『パンツ買ってください』なんて、人生で一度も言う予定はなかったはずなのに。
吉良さんは楽しげに微笑んで、私の髪を撫でた。

「…あぁ、そういえば以前買ったのはサイズが少し大きかったようだし…きちんと合う物を買いなさい。」

くすくすと笑っている。これはからかわれているんだろうな、と気付いてさらに頬が赤くなるのが分かった。

*****

「さぁななこ、乗って。」

助手席のドアを開けて、私が乗り込むのを見届けてからそっと閉めてくれる。家の中でのことは随分と慣れてしまったけれど、外でエスコートされるのは少し照れる。

「デートみたい…」

「わたしはそのつもりだがね。」

エンジンで聞こえないくらいのボリュームだったと思うのだけど吉良さんにはしっかり聞こえていたらしく、さらりと肯定の返事が届く。

「…嬉しい、です…」

デートなんて初めてだし、それが吉良さんとだなんてとても嬉しい。
2時間弱ほど高速を走る間、私たちはあまり会話をしなかったけれど相変わらず居心地は良くて、時折飲み物を吉良さんに渡したり、吉良さんが私の手を取ったり、普段と変わらない穏やかな空気のまま、ショッピングモールに着いた。

「…さぁ、降りて。」

乗った時と同じようにドアを開けてくれる吉良さん。
久しぶりに来たショッピングモールはひどく賑やかな気がして、吉良さんの手をぎゅっと握った。

「…吉良さんは、怖くないの…」

「…なにがだい?…」

私は、もし誰かに見つかったらと思うとなかなか足が進まないのだけれど、吉良さんは平気なんだろうか。

「見つかったら、って思うと…」

「猟奇殺人鬼すら捕まらないんだ。家出少女だって、見つからないさ。」

吉良さんがそう言うと、安心な気がする。私には吉良さんが殺人鬼だなんて信じられないから、他の人だってきっとそう。

「普通の恋人に、見えますかね。」

「…いまにわかるよ。」

吉良さんは洋服を選んでくれると言って、私を鏡の前に置いて、次々と服を当てていく。そうされているうちに、鏡の前の私がまるで違う人間みたいに見えてくるから不思議だ。
ショップの店員さんがこちらに寄ってきて「よろしければ試着室をお使いください」と声をかけてくれる。
「じゃあこれを、」と吉良さんが店員さんに渡した服とともに、試着室に押し込まれる。
カーテンをくぐる前に、彼女は私に囁きかける。

「素敵なカレシさんですね。」

いまにわかる、と言ったのはそういうことか…と鏡に映った赤い頬に向かって呟いた。

「思った通り、よく似合う。…そのまま着て行こうか。」

試着が終わると吉良さんは私が身につけたものをすべて買ってくれて、まるで別人になったみたいな私は堂々と吉良さんの隣を歩いた。

そうして、私の目的地であるランジェリーショップに。吉良さんは平然と一緒に入ってきて、「すみませんが、採寸をお願いします。」と店員さんに私を引き渡した。
恥ずかしさに小さくなっていると、店員さんは「彼氏?カッコいいですね。」なんて話しかけながら、試着室に私を連れて行く。
人前で脱ぐなんて恥ずかしかったけど、測ってもらったお陰で試着した下着はぴったりで、さほど自信がなかった胸にもしっかりと谷間が出来て驚く。

「…うわ、すごい。」

「お似合いです。」

さすがに吉良さんには見せられないけど…と思いながらも、買ってもらうからにはデザインと値段くらいは伝えなければと試着室を出る。

「…吉良さん。」

「…これかい?なかなか可愛らしいな。」

わたしは好きだよ、と耳元で囁かれて赤面してしまう。吉良さんは何事もなかったように店員さんに同じサイズのものをいくつか見繕ってもらっている。吉良さんが選んだ下着を着て彼の前に出ることを思うとなんだかとても恥ずかしい。

「…ありがとうございます…」

洋服の入った沢山の袋はみんな吉良さんが持ってくれていて、なんだか申し訳ない。

「…もう欲しいものはないかい?」

「…はい。」

「それじゃあ、わたしの買い物にも付き合ってくれるかな。」

そう言うと、吉良さんは歩き出す。両手に荷物を持っているせいで手は繋いでもらえない。所在なく隣を歩いていると、私の表情に気付いた吉良さんは、車に戻って荷物を置いてくれた。

「…君を忘れていたわけじゃあないんだよ。」

私の手に頬擦りしながらそう囁いて、手を繋いで歩き出す。
行き着いた先はジュエリーショップ。

「…君を飾れるなんて、幸せだよ。」

歯の浮くような台詞だけれど、吉良さんの今までの「彼女」はサイズを測りに行くことができなかったし、何より誂える以前に腐ってしまっていたから。だから彼は本当に嬉しいんだと思う。ここでの主役は私ではないから、店員さんの問いかけにも曖昧な笑顔を返すしかない。
吉良さんはひどく嬉しそうに、リングをオーダーしてくれた。

「…出来上がったら、また一緒に来ようね。」

もしかしたら、出来上がる頃には私の手と吉良さんしかいなくなっているかもしれなくて。
それでも、周りからは幸せなカップルに見えるんだろうな、と思うとひどく滑稽な気がした。

「…さぁ、帰ろうか。」

「吉良さん、また…連れてきてくださいね。」

小さくそう呟くと、吉良さんは不思議そうな顔をして「あたりまえだろう」と私の髪を撫でた。


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm