重い瞼を持ち上げると、見知らぬ天井があった。ここはどこだっけ?なんて思いながらぱちぱちと瞬きをする。
「…あ、よかったななこ…大丈夫?」
よく知った声が聞こえてそちらに視線を向けた。花京院くんは心配そうにこちらを覗き込み、私と視線が合ったと知るや幸せそうに微笑んだ。
「…おはよう、…起きられそうかい?」
花京院くん、と名前を呼んだつもりだったのだけれど、喉が張り付いたみたいにカサカサで、上手く声が出ない。花京院くんはそれに気付くと私の枕元を指して「お水、あるけど起きられる?」と言った。抱き起こしてあげられなくてごめん、とも。
「…だいじょーぶ、ありがと…」
ゆっくりと身体を起こすと、あちこちが軋むみたいな感じ。心配そうな視線を受けながら、枕元に置かれたコップを手に取る。氷が溶けて水滴の沢山付いたコップは、空条くんが用意してくれたに違いない。お礼を言おうと視線を動かしたけれど、部屋に彼の姿はなかった。
「…承太郎なら、外にいるよ。」
「…ん、…」
曖昧に返事をして、コップを枕元のお盆に戻す。花京院くんは、神妙な顔をして「ありがとう」と呟いた。
「…とても、綺麗だった。」
そう言われても、なんと答えていいのかわからない。困った私は、「そんなこと言われても困るよ」と戸惑いをそのまま唇に乗せた。
「…僕のワガママだってことはわかってるさ。『一生のお願い』だって死んでるから使えないしね。」
けらけらと笑いながらそんなことを言う。空条くんといい花京院くんといい、冗談がヘビーすぎて笑えないよ。
「…ななこ、…もし…僕がいなくなったら、君は他の誰かと幸せになるんだよ。」
僕は君の側を離れるつもりはないけど、こんなだしどうなるかわからないから、と花京院くんは私の背にそっと腕を回した。
抱きしめる温もりはないから、目を閉じることはできなくて、目の前に近付く花京院くんの姿を、ぼんやりと見つめた。
「…花京院くん、」
なぁに、と耳元で囁かれる。空条くんに囁かれた時と絶対的に違うのは、吐息が掛からないからなんだろうか。
「…私は、花京院くんが、好きだよ。」
私が持っている常識とか、そういうものでは追いつかないから、本当にこれで良かったのかはわからない。花京院くんがもし、いなくなることを知っていて、彼の言う「他の誰か」が空条くんを指していたとしても、花京院くんが何も言わない以上、私には知り得なくて。
でも私は、他の誰でもない花京院くんが
「…僕だって、君が好きだ。」
あまりに切実な響きを含んだ言葉に、思考が止まる。
花京院くんを見ると、彼は困ったように笑って言う。
「…あのさぁ、そんな今更驚かれても困るんだけど。」
戻ってきた時からずっと、言ってるじゃあないか。なんて、いつもみたいに軽く笑って。
「だからって、…こんなのは…もう、困るよ…」
私の呟きを受けて、彼は「そうだね、」と複雑な表情で笑った。
20160729
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