空条くんの綺麗な顔が、ゆっくりと近づいてくる。
掴まれた肩も、触れる唇も、暖かかった。
「…承太郎、ちゃんと…優しくしてよね。」
ななこは僕のなんだから、なんて花京院くんの声が瞼の向こうに聞こえる。空条くんは、優しく何度も触れるだけの口付けを繰り返している。花京院くんに言われたからなのか、元来彼が優しいのかは、私にはわからない。
「…っ、ん…」
口付けの合間に吐息を零すと、その隙間を縫うようにして空条くんの舌が押し入ってきた。不意の感触に思わず身体を引こうとしたけれど、大きな手に頭を押さえ込まれて逃げられない。
「んっ、ふ…ぁ…」
分厚い舌にされるがまま、口蓋やら歯列やらを弄ばれる。縋る場所が欲しくて、空条くんの腕にしがみ付いた。
ちゅ、と水音を立てて、ようやく解放される。自由に酸素を手に入れられるようになった私は、彼の胸元にすがりつくように力の入らない身体を預けた。空条くんの胸に押し付けた耳に、彼の鼓動が響く。
「…っはぁ…ッ、は…」
「…ななこ、すごく可愛い。」
花京院くんは私の唇を指先でそっとなぞった。二人の唾液で濡れる唇のせいで、彼の指先は少しばかり見えなくなる。
「…か、きょういん…くん…」
「…なぁに?…僕ならここにいるから、大丈夫だよ。」
花京院くんがそう言うのと同じくして、大きな手が慈しむように私の髪を撫でた。そうしてそっと布団に横たえられる。
「…目を…」
閉じていろ、と空条くんは遠慮がちに囁いて、私に覆い被さった。閉じかけた瞳が、空条くんの濡れた唇を捉える。花京院くんのとは違う、ぽってりと厚みのある唇。
ぎゅ、と目を閉じると、首筋に吸い付かれた。思わず声が出てしまって、口元を押さえようとしたのだけれど、空条くんに掴まれた腕はぴくりとも動かせない。
「…ッ、あ……」
チリチリと焼けるような淡い痛みが首筋に走って、熱を持つ。慰めるようにぬるつく舌が這わされて、くすぐったいような変な感じ。
そうしているうちに私の衣服は剥がされて、空条くんの眼前に素肌を晒す羽目になる。
「…綺麗だよ、ななこ。」
花京院くんの声が耳元で聞こえて、背筋がぞくりと震えた。胸が締め付けられるような気持ちになるのは、空条くんの大きな手が私の胸を包み込んだせいだろうか。
「…っふ、ぁ…ッ…」
自由になった腕に行き場はなくて、空条くんの分厚い学ランにしがみ付く。彼は心配するなといった風に優しく唇を落とし、尚も愛撫を続けた。
「…ねぇななこ、好きだよ。」
「…恥ずかしい奴だなテメェは。」
「やだなぁ、興を削がないでよ承太郎。」
野暮なことは言いっこなしだよ、なんて呑気に笑う花京院くんを睨みつけてやろうと目を開けたら、空条くんの顔が思いの外近くて(状況を考えたら当たり前なんだけど)慌てて目を閉じた。この人は本当に綺麗だな、と瞼に焼き付いた空条くんを見て思う。
「…僕にも見えるようにして。」
花京院くんの言葉を受けて、空条くんは勢いよく私の片足を持ち上げた。
「…きゃ、ッ!…やぁ…、やだよ…ぅっ…」
開かされた足に、空条くんの舌が這う。膝の後ろやら内腿やら、普段なら触りさえしないような箇所を舐められて、びくびくと身体が跳ねた。
「…僕が見てもわかるくらいに濡れてるけど、気持ちいいの?」
息を荒げる私を見つめながら、上気した頬の花京院くんが問う。今度こそ睨みつけてやろうと瞼を持ち上げた私の目の前には、飢えた獣みたいに瞳を光らせた花京院くんがいた。
ねぇななこ、と唇がくっつきそうな距離で再度問われて答えられず吐息を零せば、空条くんの指先がそっと秘裂を撫でた。
「…ひぁっ!」
今まで感じたこともないような刺激に、思わず声が出た。空条くんは私の反応を確認しながらゆっくりと指先を動かす。水音が聞こえる程に濡れたことを確認した空条くんは、その太い指を私の中に沈めた。
「…っは、ぁッ、う…ぁ…」
「…痛くねぇか。」
「…んっ、平気…だけど、なんか…ぁっ…」
二人の視線に晒されて私だけどうしてこんな、なんて逃げ出したいような恥ずかしさとか、中を蠢めく指の感触だとか、いろんなものが綯い交ぜになってどうしていいかわからない。そうしている間に、私を探る指は増やされていく。
私の縋るような視線に気付いたのか、花京院くんは優しく笑いかけた。
「…とても、可愛いよ。…承太郎が羨ましいくらい。」
「ぅあ…花京院く、んんッ…!」
見ちゃやだよ、と切れ切れに言えば、僕が見るためにしてるんでしょ、なんて。
空条くんは、やれやれだぜ、と溜息を一つ吐いて指を抜いた。そうして少し、身体が離れる。異物はなくなったはずなのに、まだ触られているようなムズムズした感じは消えない。どうにかしようと乱れた呼吸を整えていると、空条くんがふたたび覆いかぶさってきた。
「…ッ、くうじょ、くん…」
「…力を抜いてろ…」
開かされた足の間に、感じたことのない熱を押し付けられる。驚いているうちにその熱はゆっくりと私に進入を始めた。めりめりと音を立てそうな程に身体が軋んで、苦しい。
「…ッんん、…っぐぁ…、あ…ッ…」
必死に空条くんの学ランに縋り付く。熱くて苦しくて、何が何だかよくわからない。空条くんが時折零す吐息と、花京院くんの声が耳を掠める。
「…ななこ、好きだよ…」
花京院くんの言葉に、ほんの少しだけ安心する。助けを求めるように花京院くんに腕を伸ばすと、受け止めるように彼の手が差し出される。繋がるはずの手は、一瞬重なっただけでシーツの上に落ちた。
「…ッう、ぁっ…いた、痛いよ…、」
「…ななこ、大丈夫だから…息を止めないで…」
そんなこと言われたって、苦しくてわけがわかんなくて、涙が溢れて上手く息ができない。
「…だ、いじょーぶじゃ…ないよ…ぅあ…」
花京院くんは、勝手なことばかり。そもそも花京院くんが死んじゃったのがいけないんじゃあないか。空条くんだって、花京院くんが死ななければこんなことしなくてよかったのに。声を上げて泣き出したいのを堪えて、私は嗚咽にも似た息を吐き出した。
「…悪ィが、もう少し我慢しろ。」
「…ひぁ、ッん…く…ッ」
耳元に小さく声を掛けられると同時に、また腰を進められる。私の肩口に顔を埋めるようにして吐息を零す空条くんは、私にしか聞こえない程の音量で、すまない、と言った。それは彼の、花京院くんに対する配慮なのだろう。
「…くうじょ、ー…くん…」
「…すごいね、全部入っちゃった。」
興奮しきった花京院くんの吐息交じりの言葉で、この状況を認識する。
私の中に自身を収め切った空条くんは私の目尻に溜まった涙を指先でそっと拭いながら、「大丈夫か」と心配そうに問うた。
「…っうぁ…くうじょう、ッく…」
ぎゅう、としがみ付くと宥めるように髪を撫でられた。彼は先程のように耳元に唇を寄せて私だけに聞こえるように「…名前を呼んでやれ」と囁く。そうして私の様子を見ながらゆっくりと抽送を始めた。
「…ッやあ…ぁ…っ、」
内蔵が引きずり出されるんじゃあないかって感覚に、私は声を上げながら空条くんの学ランを掴む。気持ちいいのか気持ち悪いのかわからない。ただ身体の中が熱い。
「…やっ、あ、かきょ…いん、く…ん、」
縋る体も私を掻き回す熱も空条くんのものなのに、花京院くんを呼ぶ。それだけで頭が沸騰してしまいそうだ。私の声を聞いて、花京院くんはひどく嬉しそうに顔を綻ばせる。
「…可愛いよ、ななこ。」
ずっとこうしたかったんだ、と、切実な響きを含んだ言葉が耳から脳に流れ込む。もうなんだかぐっちゃぐちゃで、私は必死に空条くんにしがみつきながら、何度も花京院くんの名前を呼んだ。
20160725
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bkm