ななこさんがはじめて、俺を呼んでくれた。しかも食事のお誘いだ。
喜び勇んで駆け付けた俺の高揚は、目の前の光景に音を立てて萎んでいく。なんでアンタ、億泰といんの。しかも楽しそうに笑って、唇を動かして。
俺に気付くと、彼女はぴたりと唇の動きを止め、いつもみたいに困った顔をした。億泰はなんの悪気もなさそーな相変わらずの馬鹿面で、手を振って帰ってく。俺の気も知らないで。
「億泰はいーんスか?」
億泰には、そんなに楽しそうな顔ができんの。億泰とは、ふつーに話せんの?そんな楽しそうにしてんなら、億泰と飯食った方がいいんじゃあねーの。
俺の勝手なヤキモチなんてなんにも知らずに、ななこさんは小さく頷いた。さっきまで喋っていた唇は、きゅっと引き結ばれている。
俺は俺で、さっきまでの高揚は一体どこに行ってしまったのかと溜息を吐きたくなるほど苦々しい気持ちでいっぱいで、どうしていいかわからない。億泰の善意はありがたいけれど、どうしたって素直に喜ぶことなんてできない。
「…あの、」
訝しげに声を掛けられ、ななこさんを見れば、彼女は心配そうな瞳で「急に呼んでごめんね?」と呟いた。
「いや、大丈夫っス。それよりアンタさぁ」
なんで億泰とはあんなに楽しそうに喋れんの、と問い質したかったけれど、どうせなんにも言ってもらえないんだろうと思うとなんだか悔しくて、彼女の顎を掴んで俺の方を向かせる。ななこさんは驚きに顔を赤くして、逃げ出そうと視線を彷徨わせた。物言いだけに薄く開かれた唇を塞ぐ。
「…ッん…!?」
どうせ答えてもらえないなら、塞いじまった方がいい。引っ込められた舌を無理矢理に引きずり出して、思う様蹂躙する。
「…っは、…」
俺が唇を離すとななこさんは恥ずかしそうに視線を落とし、僅かばかり唇を動かした。俺が聞き返すよりも早く、彼女は背を向けて玄関に入っていく。慌ててその背を追いかけた。
「…ごはん、あっためるから待ってて」
ななこさんはそう言うと俺をリビングに置き去りにしてキッチンへ向かった。程なくして並べられたのは、やけに煮込まれた肉じゃがと、ごはんと味噌汁。
「わ、すげー…」
ザラついた心が凪いでいくみたいな柔らかな湯気に思わず溜息をつくと、ななこさんは恥ずかしそうに笑った。あぁやっぱすげー可愛い。
「美味しくないかもしれないけど…」
「何言ってんスか!すげー美味そう!」
俺ってばゲンキンなやつだな、と思いつつ箸を手に取る。いただきます!と食事をはじめる俺の向かいに座ったななこさんは、心配そうな視線を投げ掛ける。
すげー美味いっス、と笑いかけると、安心したような顔で恥ずかしそうに頬を染めた。
「…よかった…」
ななこさんは恥ずかしそうに視線を落としつつも、チラチラと俺の方を気にしている。何か言いたいことでもあるのかと箸を止めて問いかけると、彼女は恥ずかしそうに顔を伏せたままで言った。
「…昨日、ごめんね…」
「え!?あ、いや、俺のほうこそ…」
突然そんなことを言われるなんて思わなくって、思わず箸を落っことしそうになる。
「…仗助くん、来るっていうから…、作ったんだ、けど…ッ、」
「…え、ッ…」
慌てて顔を上げると、ななこさんは顔を真っ赤にして、うさぎみたいにぷるぷる震えていた。マジかよ。なんだこの可愛い生き物。
思わず箸を置いて立ち上がって、ななこさんの隣に行く。彼女はびっくりして身を引いたけれど、無理矢理抱き締めた。ななこさんの手から箸が落っこちたけど、知ったこっちゃあない。
「…俺のために作ったんだ?」
「…ッ、」
囁きかければこれ以上ないくらいに真っ赤な耳たぶが小さく揺れた。
「すげー嬉しいんスけど、…ごめん」
「…え?」
不安げに持ち上げた視線を遮るように口付ける。ななこさんはびっくりしてぎゅうっと瞳を閉じた。俺は彼女を抱き上げて、ベッドに放り投げた。短く悲鳴を上げるななこさんを組み敷く。
「今はメシより、あんたがいい」
「…ッ!?」
俺のために作った、ってわざわざ呼んでもらったのにこんなの酷いのかもしれないけど、どうしたって収まりがつかなくて、半ば強引にななこさんの服を剥いだ。真っ赤に染まった首筋に唇を押し付け、鎖骨を噛む。
「…やッ…う、ぁ…」
「ねぇ、俺アンタの声…もっと聞きたい…」
なんで億泰とはフツーに話してたの。なんで俺はダメなの。真っ赤になる顔も言葉に詰まるのも可愛いけど、俺に見られない表情があるのが悔しい。
「いた、い、痛いよ…仗助く…ッ」
薄い皮膚が裂けそうなほど力を込めると、ななこさんは声を上げながら俺の頭を押した。そうやって、なんでもちゃんと言えばいいのに。
「スンマセン…でも、アンタが言わないのが悪いんスよ…」
歯型に舌を這わせると、ななこさんは可愛らしい声を上げながら背をしならせた。そのまま舌を滑らせ、胸の頂を食む。
「…ッあ…、」
「そんな可愛い声出るくせに、なんで俺とはおしゃべりしてくんねーんスか」
「っ、だ、って…、恥ずかし…」
びくびくと身体を跳ねさせながら、ななこさんは喘ぎ混じりに言葉を零した。そういや最初の時も、まさか返事が来るとは思わなくって驚いたような、…?
「…ねぇ、ななこさん。」
内腿を撫でると、ななこさんは恥ずかしいのかぎゅっと脚に力を込めた。何度も肌を撫でながら、徐々に付け根へと近付ける。
「…っん、ぁッ…」
「すげー可愛い。…ねぇ、気持ちいー?」
潤んだ茂みに指先を這わせながら問えば、ななこさんはもどかしげに腰を揺らしながら、小さく頷いた。
「…でも、これじゃあ足りないっしょ?」
俺の想像が正しければ、この人は。なんて思いながら、健気に自己主張する胸元の彩りに歯を立てる。
「…ぅあ、…ん、ッ!…や、噛ま、ないで…ッ…」
ひどく色っぽい表情でそんなことを言われて、うっかり箍が外れそうになるのをぐっと堪えた。今、いまならきっと、ななこさんの気持ちが聞けるんじゃあないか。
「…ななこさん、好き」
お返事できたら、気持ちよーくしたげるっスよ?なんて言いながら、ななこさんの秘部に猛った自身を擦り付ける。気持ち良くして欲しいのは俺の方なのに。今だって返事を聞きたいって気持ちと、今すぐ突っ込みたいって気持ちが鬩ぎ合ってる。
「…じょ、すけくんっ、わ、たしも…すき…ッ…」
「…よくできました、ッ」
ぎゅうっと抱き締めて、一気に貫いた。ななこさんは目尻に涙を滲ませながら、必死で俺にしがみつく。仗助くん、と名前を呼ばれるたびに、何か満たされるような心地がした。
*****
「…ねぇななこさん。こっち向いてよ…」
コトが終わるとななこさんはすごい勢いでシーツにくるまって俺に背を向けた。さっきまであんなに可愛かったのに、と言えばシーツの塊はきゅっと小さくなった。
「今更キンチョーすることねーだろ?…ほら。」
無理矢理にシーツを引っぺがし、柔らかな肌を確かめるように腕の中に抱き込む。
ななこさんは真っ赤になりながらも、甘んじてそれを受け入れた。
「…なぁ、えっちの時だけちゃあんと話せるっつーんなら、俺アンタのことずーっと抱いてもいーんスけど。」
柔らかな髪を撫でながら言えば、ななこさんは慌てた様子で首を振った。
「…それ…は、ッ…ダメ…」
さっきたくさん喘いだせいか、普段よりカサついた声。これはこれですげー可愛い。
「じゃあ、普段もお話しましょ?」
「……がんばる…」
でも、色々考えちゃって難しいんだよ。と、困ったような小さな声が聞こえた。
この人は一体、何を悩むというんだろう。
「…ななこさんが何を言ったって、俺がアンタを好きなのは変わんねーっスよ。」
だから心配すんなよ、と言えば、ななこさんは返事の代わりにまた頬を赤くした。
20170419
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bkm