「ななこさん、仕事!決まったって!」
息急き切って駆けてきたらしい仗助くんは、ドアを開けるなり大型犬みたいに飛び付いてきた。思わずよろける私を、大きな手が支える。
「わ、仗助くん…!」
「おめでとーございます!やったっスね!」
抱き上げられそうな勢いに思わず「落ち着いて」と声を掛けると、仗助くんは満面の笑みで、だって嬉しいじゃあないっスか!と声を上げた。
「…ありがと」
「お祝い、何が欲しいっスか?」
あ、でもあんま高いもんは買えねーけど、なんて笑うから、その気持ちで十分だよ、と返した。
「えー、せっかくだからお祝いしたいんスよねぇ…」
そう言って私の頭を軽く撫でて、部屋に上がり込む。仗助くんはしばらく考えた後、おもむろに自分のカバンの中をごそごそと漁り始めた。
「…お祝いしてくれるの?嬉しい。」
今から大変だろうけど、とりあえず不安よりも安堵の方が大きい。仗助くんも心配してくれていたのかなと思うと、尚更だ。
当の仗助くんは、カバンからノートとペンを出して何やら書いている。急に何してるんだろう、と手元を覗き込むと、彼は勢いよくノートを破き、私に差し出した。
「ねぇななこさん、これあげる。仗助くんからのお祝いっス!」
差し出された紙には、「肩たたき券」の文字が踊る。まるで母の日みたいだなと思わず吹き出した。
「ありがと。…母の日みたい。」
「母の日にこんなもん渡したらこき使われるからやらないっスよォー」
ななこさんこれから仕事で疲れるだろうから、無期限でいつでも使っていいっスよ!なんて言って笑う。私はもう一度感謝の言葉を述べて、急いで作られたその紙を恭しく両手で受け取った。
「…がんばるね。ありがとう」
「あんま無理はすんなよな」
俺にはまだわかんねーけど、話とか、愚痴くらいは聞けるから。なんてやけに神妙な顔で言われて、あぁもしかして、気にしてるのかな、なんて思った。
「うん。仗助くんがいてくれたら大丈夫だよ」
だって疲れたら肩叩きしてくれるんでしょ?と言えば、彼は胸を叩いて「ご飯だって作りますよ!」と笑った。
「…でも寝不足にされちゃうからなぁ…」
イタズラっぽく笑って返せば、仗助くんは少しばかりバツの悪そうな顔で笑って、私を抱き締めた。
「そうならないために、無理しないで帰って来りゃあいいんスよ!」
ぎゅう、と腕の中に抱き込まれて、これは早く帰らないとな、なんて思った。
まだ始まってもいないのに帰宅の心配をするなんておかしな話だと笑う私を仗助くんは不思議そうな瞳で見つめる。
「…まだ始まってないのに帰る心配するなんておかしいなって思っただけ。」
「いーんじゃないっスか?俺だってまだガクセーっスけど、ななこさんと結婚すること考えてるし。」
突然さらりと投げ込まれたプロポーズに絶句していると、駄目押しのように「ちゃんと待っててくださいよ?」なんて真剣な声が帰ってきて、私は思わず仗助くんにしがみ付いた。
20170428
ご就職おめでとうございます!!!
色々大変だとは思いますが、こっそり応援してますー!
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bkm