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お菓子より甘い

「仗助くん!トリックオアトリート!」

「ちょ、どーしたんスか!治すからこっちきて!」

仗助くんは私の顔を見るなりそう叫び、慌てた様子で私の手を引いた。

「ダメダメ!治さないで!!!」

これは俗に言うゾンビメイクってやつなの!と説明すると、仗助くんは悲愴な顔で私をまじまじと見てようやく偽物の傷だと認識したのか「マジか…おどかすなよ…」と盛大な溜息を吐いた。

まぁ確かに私も鏡を見て少しばかりやり過ぎかなぁと思ったので、仗助くんが驚くのも無理はない。努力の甲斐あって、めちゃくちゃリアルにできたと自画自賛したところなのに、治されてたまるか。いや、クレイジーダイヤモンドがこのメイクを消せるかは知らないけど。

「…で、お菓子は?」

「…え?」

でもそんなことで本題に入れなくても困る。
確認するように見上げれば、仗助くんは私から視線を逸らす。そんなに怖いかな、ゾンビ。

「ハロウィンだから、お菓子。」

「…あー…うん、そーっすねぇ…」

顔を近づけると、その分だけ後退り。
困ったように下がる眉。こんな仗助くんは珍しい。

「…ないならイタズラします。」

首元に抱き付いて引き寄せて、仗助くんの厚ぼったい唇に噛み付くようなキス。
彼はびっくりしてぎゅうっと目を閉じた。重ねた唇は固く引き結ばれている。

「…ッ…!」

「…あのさ、いつもと違くない?」

普段なら余裕たっぷりに抱きとめてくれるはずなのに、なんていうか、様子が変だ。まるでお化けを怖がる子供みたいな。

「…だって俺、アンタがそんな傷だらけなのとか見てらんないっスよォ〜。」

今すぐ治したいっつーか…見てるこっちが痛いっつーか…と、泣き出しそうな顔で言う。
でも折角のハロウィンだし、私は今日一日この格好でいるつもりだ。かといって、仗助くんにこんな表情をさせておくのも申し訳ない。どうしたものか。

「…あ、そうだ。」

ポケットからハンカチを取り出して、広げる。お菓子を持って帰るのに使うかもと大判のものにしたのは正解だったな、なんて思いつつ、不思議そうに私の手元を見つめる仗助くんの視線を、ハンカチで遮る。

「…え、なんスか…?」

「…お菓子くれないから、イタズラしようと思って。」

視界を塞いで、後頭部で端っこを縛る。目隠ししたこの状態なら仗助くんは私の顔を見なくて済むし、イタズラするにはもってこいだ。戸惑いの声を上げる唇を塞いで、己の舌を捩じ込んだ。

「…っん…ぅ、ちょ、ななこさんッ!?」

「…お菓子、くれないから。」

元々、仗助くんがお菓子を用意しているなんて期待はしていなかった。むしろ彼も億泰くんたちと仮装してるんじゃあないかなんて思っていたのだけど何もしないなんて意外だった。目の前の普段と変わらないリーゼントを眺めながらそんなことを思う。まぁ、イタズラの名目でキスし放題なんだから、これはこれで悪くないな、なんて。

「…ん、…待っ…んぅ、」

唇から紡ぐ言葉を全部絡め取って、戸惑いも抵抗も全部飲み込んだ。
仗助くんは普段の余裕なんて全然なくて、ただ困ったように私の背中にしがみついている。それがなんだか征服欲を満たした。

「…なんか、今日は可愛いね。」

「…ッ、ななこさんは…今日は意地悪っスね…」

目元が隠されているせいで、感情は読めない。けれど色っぽい吐息混じりの声では、拒否しているなんて到底思えなかった。

「ハロウィンに付き合ってくれない仗助くんの方が意地悪だと思うの。」

「…それは、ッ…だって…」

露伴先生のところに行っちゃおうかな、と笑えば慌てたようにぎゅうっと抱き付かれた。

「…お菓子もらったら帰ってくるよ。」

子供みたいだなと思ったけど、よく考えたら彼は高校生だった。可愛らしいヤキモチが嬉しいな、なんて思っていたら、仗助くんの手が探るみたいに私の頭まで上ってきた。そのままがっしりと頭を掴まれて、あろうことか頬をべろりと舐められた。

「きゃあっ!な、なに!?」

「…いやぁ、早く落として欲しいからぐっちゃぐちゃにしてやろーかな、って。」

でもすげー不味いっスね、なんて笑うけど、私の大好きな瞳が隠れてしまっていて、見られないのが残念だな、なんてちらりと考えた。でも折角頑張ったのに落とすのなんてゴメンだ。

「やだよ、まだお菓子もらってな…ッん…!」

私の抵抗の言葉は、いとも簡単に仗助くんの唇に飲み込まれた。這い回る舌に翻弄されて、私は情けなくも彼の背に縋り付く。

「…お菓子なんかよりも、イイモノやるよ。」

だから、それ落として来て?なんて言われてしまっては、今年のハロウィンは諦めるしかない…かな。

20161031 HAPPY HALLOWEEN!!


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm