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恋人はラムネ色

後ろから抱きしめて甘えてもらう話




「そういやぁよー、」

仗助くんがやけに間延びした声を上げた。夏休みもそろそろ終わりで、今日はいい天気の割に、風があって涼しい(といっても夏なのでそこそこの気温はある)。

「・・・なに?」

なかなか本題が聞こえてこないので、不思議に思った私は、冷蔵庫から出したサイダーをテーブルに置いて彼の近くに行く。近づいた私の手を仗助くんはぐいとひっぱった。
前のめりに倒れ込んだところをひょいと抱き寄せられて、彼の膝の間にしまい込まれる。
背中に仗助くんの体温があって、心臓の音が聞こえそうだ。

「・・・つかまえた。」

「なにそれ。」

それで、さっき言いかけたことはなんなの?と笑い混じりに聞けば、仗助くんはふっと笑って「いや、なんで俺たち付き合ってんだっけ?って思って。」と言った。

私たちはずっと昔から、友達だった。
いっしょに公園を駆け回ったり、駄菓子屋に行ったり、そんな幼少時代を経て、いつからか私は仗助くんを格好いいと思うようになり、いつかのバレンタインに告白の言葉と共に渡したチョコレート。

彼だって忘れてはいないはずだ。でもなんでそんな。

「そんなの、ッ、わたしが・・・」

私が仗助くんを好きだからだ、と言おうとしたのだけれど、この体勢でいわされるのはどうにも恥ずかしくて言葉がでてこない。

「・・・何真っ赤になってんの。」

恥ずかしいんだろ、なんて図星を指されて、思わず回された手に爪を立てた。

「覚えてるくせに!」

「・・・バレたか。」

でも照れることねーだろ、と仗助くんは軽く笑って、私の首筋に顔を埋めた。
吐息が耳元を掠めて、くすぐったい。

「・・・なぁ、」

しばらく黙っていた仗助くんは、またゆっくりと言葉を紡いだ。今日はどうしたんだろうか、と首を後ろに向けようとしたけど、彼の言葉でそれは遮られる。

「・・・いつから、俺のこと好きなの?」

「いつから、って・・・」

いつからだろう。可愛らしい笑みの少年が、私を守ってくれるオトコになったのは。
「ななこちゃん」と呼ばれる度に、小鳥の羽ばたきのようなくすぐったさが胸を掠めるようになったのは。

「・・・いつから、かなぁ。でもなんで?」

仗助くんに凭れても、彼の頑丈な身体はびくともしなかった。大きな手で慈しむように髪をなでられて、ゆっくりと目を閉じる。

「俺と、どっちが先かな、って思ってよォ。」

どきり、と心臓が鳴った。それは、私の告白よりも早くに、彼が私を女の子として見ていたってことで。付き合うことにOKをくれたのはてっきり、彼の優しさだと思っていたから。

「・・・私は、中学入ってから・・・かなぁ?」

身長を追い越されて、やっと抜かしてやったと大喜びする仗助くんが、やたらと格好良く見えたことを思い出す。たぶん、その頃から、意識してしまって昔みたいには遊べなくなって。

「・・・じゃあ、俺の勝ちっスね。」

少しばかり恥ずかしそうな声が耳元で聞こえて、思わず振り向く。
仗助くんは、いったいいつから私を好きでいてくれているんだろうか。胸がざわざわとうるさい。

「えっ!?・・・なに、それ!」

「・・・しりたい?」

頬の赤さをごまかすみたいにイタズラっぽく笑って、仗助くんは私をぎゅうっと抱きしめた。そうして、話しはじめる。

「小学生ん時によォー、学校帰りに駄菓子屋に行ったことあったろ?」

そういわれて、記憶を巡らせる。
確か夏休みも終わって、今日みたいないい天気の日だったような気がする。

「・・・あった、かも・・・」

学校帰りは寄り道禁止だったから、学校近くの駄菓子屋はあこがれの場所だった。ランドセルが見つからないようにこっそりと隠し、二人連れ立って走ったことが、そういえばあったかもしれない。

「そんとき。」

「え、?」

驚く私の顔を見て、仗助くんは恥ずかしそうに笑った。「だから」と続く言葉に、耳を傾ける。

「そんときよォ、ラムネ、飲んだんだよ。・・・ビー玉抜いたらこう、シュワシュワってあふれてさぁ・・・そんときに、なんか、俺・・・ななこのこと可愛いな、って思った。」

え、いや、ちょっと言葉の意味が分からない。どうしてそんなこと急に、と戸惑う私をよそに、仗助くんは続ける。

「今、冷蔵庫から出てきたサイダー見て、思い出した、から。」

「・・・そんなの、・・・嬉しいんですけど・・・」

消え入りそうな声でそう返すのが精一杯だった。これはもしかしたら、告白を受けてもらえた時以上に、ドキドキしているかもしれない。

「・・・で、だよ。」

「・・・今度はなに?」

いつものテンションに戻った仗助くんは、イタズラっぽく笑いながら私をこちらに向かせた。

「そんなこと思い出したらよォー、ななこはいつから俺のことが好きなのかな〜?って、仗助くんはスゲー気になっちまったわけ。」

がっしりと肩を掴まれて、逃げ出せない。
昔から変わらない、キラキラのきれいな瞳が、まっすぐに私を見ている。期待を存分に込めて。

「・・・そんなの、ッ、言えない・・・!」

いざ本人を目の前にして、好きになった日のことなんて言えるはずないでしょ、と抗議すれば、俺は教えたのに!なんて不満の声が上がる。

「なんでだよ・・・わかった、恥ずかしいんだろ!」

なにを当たり前なことを・・・と苦笑すれば、別に今更じゃん、とあっさりと返される。

これはもう、逃げられる気がしない。



(この幸せから逃げる気なんて、更々ないのだけれど。)



20160823


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm