ななこさんのお誕生日を祝う
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「そーいやぁよォ、ななこの誕生日っていつなんだ?」
不意に東方くんに聞かれて、急にどうしたんだろうかと彼を見つめる。いや確かにそんな話をしていたような気がしないでもないけれど、イマイチよくわからない。なぜなら私は、彼と話すときドキドキが煩くて今ひとつ話に集中できないからで。それは恋人になってこのかた、彼がカッコ良くなかった日がないせいだ。まぁ、まだ数週間なんだけど。
「え?一昨日。」
「……は?」
ちょ、ま、もう一回聞くぜ?と、慌てたように言われたから、私はもう一度、今度は気持ちゆっくりめに「おととい」の四文字を発した。
「お前、なんだよそれェ〜!?言えよ!」
「?…なんで?」
「なんでじゃあねーッ!」
やたらにテンパっている東方くんを見つめていると、彼は私の不思議そうな顔をまじまじと眺め、大きく溜息を吐いた。
「…あのよォ、恋人の誕生日とか超!トクベツな日なの。」
だから言ってくんなきゃあ困るぜ…と東方くんは諭すように告げる。そう言われても、まさか「今日が誕生日なの!」なんていう主張を、友人にならまだしもよりによって恋人、それも東方くんになんてできるはずもない。
「…私…誰かとお付き合いするのとか、初めてだから…わかんなくて、…ごめんなさい。」
祝いたかったと言われたら、それはそうかもしれないなと思う。私だって東方くんの誕生日を祝うとなったら、それはもうウキウキで支度をするに違いないから。
申し訳なく思いながら首を垂れれば、東方くんは複雑な表情で、私の髪を撫でた。心なしか嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。
「ねぇそれ、俺が…ななこ、の、初めてのカレシってこと?」
いささか恥ずかしそうに色っぽい唇を開いた東方くんは、私が頷くのを見て幸せそうに頬を緩めた。
「…それはすげー嬉しいんだけどよォ、でも誕生日祝えなかったのは結構ショックっスよ。」
「…ごめん、」
教えてくんなかった罰として、なんて不穏な単語を口にするから、思わず身構える。私が不安げにするのを見て、彼は意地悪っぽく唇の端を持ち上げた。あぁ、もうホント格好いい。
「…今日から俺のこと「東方くん」っつーの禁止な!」
「え?…どうして呼んじゃだめなの?」
それは声を掛けるなってことなんだろうか、罰ってそんなのあんまり酷すぎやしない?と彼を見たら、呆れたように溜息をつかれた。
「…そーじゃねーよ、「仗助」って呼べってこと!」
「……ッ、」
いや確かに恋人なんだから名前で呼んだっておかしくはないのだろうけど、憧れの東方くんを名前で呼ぶなんて、ハードルが高いというか恐れ多いというか…
「…読んでみて、ななこ。」
「…じょー…すけ、くん…」
私の唇が、彼の名前の形を作るというだけでも、この心臓ははち切れそうなほどバクバクしてしまう。名前を呼ぶたびこれじゃあ、私は長生きできそうにないよ、東方くん。
「…「くん」も余計だよ。…まぁ、今日はいーけど。」
次はちゃんと呼べよ、なんて言われてしまったら、私はしばらく彼に声を掛けられそうにないな、なんて。
「…ななこさぁ、今度の日曜暇?」
「うん、…別に予定はないよ。」
日曜なんて、東方くんに会えなくてつまんないなと思う以外にすることはない。だから私は即答に近い形で返事を返す。
「んじゃあ今年だけ、その日がななこの誕生日な。」
来年はちゃんと当日に祝うから、と言われて、あぁ来年も一緒にいてくれるのか、とただでさえ煩い心臓がますます早く音を立てた。
HAPPY HAPPY BIRTHDAY!!
20160716
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bkm