七夕について何にも考えてなかったので、去年のネタをお蔵出しして大幅加筆修正、そして供養。
連載と誕生日企画の続き設定。
会社から帰ったら、家の前に変わった髪型の不良がいた。彼は私を見つけるとその姿からは想像もつかないような満面の笑みでこちらに駆け寄ってくる。
「…よぉななこさん、会えて良かったぜェ〜!」
「…億泰、くん…?」
辺りを見ても仗助くんはいなかった。億泰くん一人でよく家がわかったなとか、私に一体なんの用事なんだろうとか、もう暗いけど彼はいつからいたんだろうとか、疑問ばかりで何から言えばいいのかちっともわからない。
「あー、別に大した話じゃあねーんだけど。」
こないだのお礼に来たぜ!と彼は笑い、それから少し気まずそうに「仗助にはナイショな!」と唇に人差し指を当てた。
「…え、お礼なんていいのに、」
戸惑う私を楽しげな笑顔で見つめながら、億泰くんは言う。
「いーもんやるから、手ェ出せよ、ホレ。」
言われるまま差し出した手に、乗せられたのは一枚の紙切れ。
「…なぁに?」
「仗助の短冊。女子から守るの大変だったんだぜェー!」
七夕飾り、ガッコにあってよォー。なんて億泰くんの(今ひとつ的を射ない)説明によると、本当なら全部捨てるけれど、片付けを手伝ってこっそり好きな人の短冊を持ち帰る子も多いと知った億泰くんは、片付けの場に乗り込みその子たちからこの短冊を死守してくれたらしい。
「…ありがと…嬉しい。」
「…喜んでもらえて良かったぜェ!んじゃあ俺行くな!」
億泰くんはそう言うとあっという間に走り去って行った。手元に残されたのは可愛らしい色の短冊。
仗助くんのクセのある字で書かれた願い事を見て、思わず頬が緩んだ。
部屋に帰って、さてこれをどうしようかと少しばかり悩んだ私は、とりあえず画鋲で壁にくっつけた。短冊の紐が付いていた穴が、画鋲を刺すのに丁度いいし、なんだか、仗助くんに応援されてるような気持ちになるから。
しばらくそうしているとそこにあるのが当たり前になってしまって、うちに来た仗助くんが驚きの声を上げるまで短冊の存在は私の生活に溶け込んでいた。
「…え、どーしたんスかこれぇ!」
そう言われて、何のことかと思った。
指差す先に短冊を見つけて、あぁそういえば、と合点がいく。
「…億泰くんが…くれたの。」
内緒な、と言われていたけど、学校には億泰くん以外の知り合いなんていないし、これは隠しようがないよな、と心の中で億泰くんにごめんなさいする。
「…うわ、マジかー…恥ずかし…」
仗助くんは困ったように「こんなん持ってんなよ」と言いながら画鋲を外し、短冊を握り込んだ。
「ちょ、返してよ。」
「え、嫌っスよ。」
仗助くんの手の中でくしゃりと丸められた短冊を、彼の手ごと握り込む。
「…大切にしてんのに。」
くしゃくしゃになってしまった短冊を取り返してシワを伸ばすように大切に両手で挟み込むと、仗助くんはバツが悪そうにこちらを見た。
「…ななこさんは…からかわないんスか。」
「なんでからかうの。仗助くんのお願いっていうか決意でしょこれ。カッコイイじゃん。」
なんかさ、応援されてるような気持ちになるんだよね。そう言って笑えば、仗助くんは珍しく顔を真っ赤にして俯いた。
「……ッ…」
「何照れてんの。……きっと叶うよ、七夕のお願いだもん。」
私にとったら、もうとっくにそうなってるよ、とそっと呟きながら、仗助くんの名前と共に『グレートな男になる』と書かれた紙を、もう一度大切に壁に貼り付けた。
20160707