元々は何の話をしていたんだろう。確か、私がプロジェクトの説明を仗助くんにしていて、今回の特殊さを表現したのだったか。
「企画モノってなーんかエロくないっスか?」
「…どういうこと??」
私の言葉を受けた仗助くんが、ぽろりと一言零した。不意に言われた言葉を理解できず問い掛けると、彼はしまったと言った風でなにやら言いにくそうに頬を掻いた。
「えー、いやぁ…なんつーかよー…」
仗助くんのその様子で合点がいった私は、思わず膝を打つ。
「あぁ!『素人ナンパ即ハメ〇〇』とかそーいう。」
「ちょッ!?アンタ何言ってんスか!」
頬を染めながら慌てる仗助くんは、まさに健全な男子高校生だ。まさか私の口からそんな言葉が出ると思わなかったのだろうけれど、まぁそこそこの年になれば隠語も恥じらいも慣れで多少は緩和されるわけで。それが面の皮が厚くなるってことなんだろうか、なんて思いながら、からかいの視線を向ける。
「え?違うの?」
きっと私は下衆な笑いを浮かべているに違いない。仗助くんは視線を逸らしながらも逃げられないと踏んだのか小声で答えた。
「…違わねー…っス…けどォ…」
その様子が本当に可愛らしくて、たまには虐めてやろうなんて気持ちになってしまう。普段の意趣返しと言ったら性格が悪いのかもしれないけど。
「時止め系の企画モノ見るとさぁ、承太郎さん思い出すよね。」
「アンタ大分失礼っスよそれ。…っつーかなに!?見てんの!?」
淡々と話す私の言葉に驚いた仗助くんは、珍しく大声を出した。なんか、普段学校ではこんな感じなのかな、なんて。
常日頃から億泰くんと騒いでいるところに混ざりたいなぁと思っていた私はなんだか嬉しくなってしまう。
「…え?そりゃああったら見るよね!」
嬉々としてそう言えば、仗助くんは訝しげに問う。カンのいい彼はもしかしたら多少気付いているのかもしれない。だって一瞬、聞きたくないような表情で逡巡したのが見えたから。
「…どこに?」
不安げな視線に、何もかもお見通しですよみたいな顔で返すのはなんだかすごく気持ちいい。あれ私、エスっ気でもあるのかな。
「仗助くんの部屋のビデオデッキの中?」
「うわああああ!!」
私の返事を遮るように、彼は大声を上げた。真っ赤な頬が可愛い。
親御さんがいないから、と泊まらせてもらった時に、電源が入れっぱなしのデッキが気になって眠る彼の横でつい見てしまった。まさかAVだなんて思わなかったから驚いたけど、普通に考えたらオトコノコがその手のものを見ない方がおかしいし、なんだか若者らしいというか、人間味があって微笑ましくさえ思った。それと同時に、私は仗助くんのことが相当好きなんだな、と思ったからよく覚えている。
「…イタズラ系が好きなの?」
そういえばキッチンに立つ私にちょっかいを掛けたり、何かしている時に邪魔をする彼は飼い主にじゃれつく犬みたいに幸せそうだったなと思い返す。やめてよ、と私が返した時のあの笑顔は、そういうことなんだろうか。なんて。
「冷静に人の性癖分析しねーでくれよォ!」
ホント恥ずかしいから!マジでやめてななこさん!と仗助くんは一人大騒ぎだ。若いっていいなぁと思いつつ、折角だからもう一つくらい爆弾を落とさせてもらおうと更に追い討ちを掛ける。
「あ、ベッドの下のエロ本も見たから!」
「やめろおおおお!!」
恥ずかしさが頂点に達したらしい彼は、ひとしきり騒ぐと火が消えたみたいに静かになって、それからゆっくりと顔を上げた。涙目で真っ赤な顔で、けれどどこか吹っ切れたような、鋭い視線に射抜かれる。
「…そこまで知ってるならよォー、とことん付き合ってもらいましょうか、ななこさんに。」
あぁ、ヤブヘビ。これはもしかしたらやり過ぎたかもしれない、と後悔したのは、逃げられない程抱き締められて口付けられてからだった。
20160519
むぎ様のコメントからインスパイアされて。
元々はお返事で台詞だけ軽く書かせていただいたのですが、載せてくださいとありがたいコメントをいただいたので喜び勇んで加筆しました。
むぎ様ありがとうございますー!!!