「俺、アンタのことが好きっス。」
ぱちぱちと瞬きをして、目の前の少年を見る。ひどく特徴的な髪型をした、改造学ランの高校生。
彼とは確かに、勘違いされるくらいに仲良しなのだけれど。
「…えーっと、私…仗助くんのこと、弟みたいにしか思えないの。」
弟もしくは大型犬。そんなイメージしか持ったことがないから、突然好きだと言われても戸惑いしか感じない。
だからごめんなさい、という意味だったはずなんだけど、目の前の彼は不敵に笑って言う。
「…いいっスよそれで。じゃあ俺ななこさんのこと『姉ちゃん』って呼ぶね。」
ななこ姉ちゃん、と笑顔で呼びながら、間合いを詰める。状況が飲み込めないうちにその広い胸板に抱き込まれて口付けられた。
「んむぅ…ッ…ちょ、ダメだって!」
見た目の通りに柔らかい唇はすぐに離れる。
私の制止の声をものともせずに、彼はぎゅうっと私を抱く手に力を込めた。
「…俺たちが姉弟だから?…好きだったら関係ないっスよね?」
迫真の演技だ。緑がかった瞳は少しばかり哀しげな色をして、思わず心がきゅうと鳴る。
「…ちょ、なんでそんな…ッ、姉弟じゃないし…!」
そう、『弟みたいにしか考えたことがない』わけであって、弟じゃない。それはたしかに断り文句だったはず。
「え?…近親相姦プレイでしょう?…ななこ姉ちゃんもなかなか変態っスねぇ。」
にやりと笑ってそう告げられる。
この少年は私を逃がすつもりなんて毛ほどもないらしい。なんだよ近親相姦プレイって。高校生の発想じゃあない。
「ちが、…ッん…!」
私は、君のことが好きかわからない。そう言ってあげるのが優しさのはずなのに、仗助くんの魅力的な唇が許してはくれない。
何度も啄まれて、食まれて。
苦しくて唇を緩めたところにぬるりと舌が入ってくる。逃げようと引っ込めた舌を絡まされて引きずり出され、いいように弄ばれる。
そうして膝がかくりと崩折れてしまうのだから、なんて情けない。
仗助くんは私を簡単に受け止めて、やっと唇を離してくれた。つう、と銀糸が私たちの唇を繋ぐ。
「ななこ姉ちゃん。」
くすくすと笑いながら耳元で囁かれて、背筋がぞくりとする。
「…っう…やだよ、じょーすけくん…」
私は君の姉ではないの。違うの。
涙目になりながらそう言えば、「知ってますよ。からかってみただけ。」なんて可愛らしく笑って、目尻の涙をそっと指で拭ってくれた。優しさに絆されてしまいそう。
「姉ちゃんが嫌なら、恋人になってください。」
不意に真剣な瞳になるもんだから、返す言葉もない。私は、君を好きかどうかわからないんだよ、といったような意味のことをしどろもどろになりながらも告げると、仗助くんはなんだそんなこと、全然いーっスよ!と爽やかに笑った。
「…大丈夫、ぜーったい俺のこと大好きにしてみせますから!」
だからお願い、側にいて。
なんて捨て犬みたいな顔で言う君は、本当にズルい。
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bkm