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デレのために必要な。

「酔ってますよね?」

「酔ってないですよ。」

日曜日の朝だというのに、目の前には見知った顔の酔っ払いが、ひとり。

「飲んでますよね?」

「うん、飲んでる。仗助くんもどう?」

へにゃりと笑いながら、缶ビールをこちらに向ける。受け取るとそれはもう空っぽだった。ぐしゃりと手で握り潰して周りを見回すけれど、手の中の缶以外にアルコールの形跡はなく、わずか一缶でこんなになるのか…と、目の前の彼女を見る。

「どーしたんスか、ななこさん…」

酔った姿なんて、初めて見る。
普段はキチッとして隙なんてどこにもなくて、どうやって陥落させてやろうかというのが俺の目下の悩みだったのに、これはどうしたことなのか。
赤い頬と潤んだ瞳。いつもとは全然違う雰囲気と、甘えるような濡れた声。

「…わたしにだって酔いたい日もありますー。」

「…酔ってるんじゃないっスか。」

「酔ってませんー。」

酔ってないなんて間違いなく嘘だろって様子のななこさんは、まるで別人みたいに俺に絡んでくる。
ふらふらと冷蔵庫にたどり着くと、ビールの缶を取り出してこちらに放り投げようとするから、慌てて止めさせた。

「じょーすけくんの分、投げていい?」

「ちょ、ダメ!炭酸だからっ!」

俺はこんな人知らない。
俺の知ってるななこさんは、こうじゃない。

*****

「じょーすけくんも飲みなよ。」

「俺は未成年ですってばぁ。」

先程からななこさんは、俺にビールを飲ませようとしている。もういい加減に断るのも疲れてきた。

「…じょーすけくん…飲もうよぉ…」

「なんでそんな顔すんスか…」

眉を下げて哀願するようにこちらを見つめられると、どうにも調子が出ない。
普段ならそうするのが俺の役で、困ったように笑ってお願いを聞くのはななこさんのはずなのに。

「…あ、じゃあ、口移ししてくれたら飲んでもいいっス。」

絶対してくれないだろうし、そう言えば諦めるだろうと思ったんだけど、俺の目論見は間違っていたようで。
隣からプシュ、という軽快な音がする。

「…ん。」

ななこさんはビールを煽ると、俺の首筋に手を回して口付けた。苦い液体が口の中に流れ込む。

「…っ、うぇ、…苦いっス…」

ななこさんからキスしてくれるとか嬉しいイベントの筈なのに、口の中が苦くてそれどころじゃあない。
まだチューハイとかそういうのなら良かったのに。

「…もー、どーしたんスか本当。」

首筋に腕を回したままのななこさんの背中をそっと撫でると、彼女は俺の胸に顔を埋めながら小さく言葉を落とした。

「…じょーすけくん…」

「…んー、なんスか?」

「……すき…」

一瞬、時間が止まる。
これは一体どういうことなのか。

ななこさんのその言葉、俺の記憶の限りで初めての。

いつも「ありがと」とか「私も」とか笑顔で返されるばかりで、ななこさんからそんなこと言ってくれたことなんてない。余裕で躱されてんなぁと歯噛みした記憶しかないのに、これは。

「…え、あの!もっかい!ななこさん!」

身体を離して顔を見れば、彼女は見たこともないくらいに真っ赤になっていて。

「…や、だ。」

また胸に顔を埋めて隠れようとするけど、俺の力に敵うはずもなく。
ななこさんは泣きそうな顔で、瞳を伏せた。

「…お願いっスよ。ね…?」

「…これ、のんだら、もっかい言う。」

そうして彼女は、開けたての350mlの缶を勢いよく煽る。白い喉が上下して、飲みきれない液体が唇から首筋へと伝っていく。元々苦手なのか、表情は少しばかり苦しそうだ。

「…そんなに飲んで大丈夫っスか?」

思わず心配になって降ろした缶を奪い取れば、中身は殆ど残っていなくて。
俯いてしまった彼女を覗き込むように見つめれば、唇が先程と同じ形に動く。声は聞こえないけど間違いなく、好き、って。

「…ずっと、…言わなきゃって…」

泣きそうな声でそう呟かれては、俺に勝てる要素なんて一個もない。グレートなまでの完全降伏。

「…すんげー嬉しい。好き、大好きななこさん。」

ぎゅうと抱き締めると、耳元で小さく囁かれる。ああもう、この人は。



「 」

「…大丈夫、知ってます。」



*****
未成年の飲酒はダメー。


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm