彼氏の仗助くんは、4つ下。
最初は年下なんてと思っていたけど、なかなかどうして、彼は男前だ。
「…ななこさんおかえりなさい。」
「…え、待っててくれたの?」
「今日残業無いって言ってたから。俺ごはん作るっスよ。」
改造学ランに買い物袋を持って、会社の前(といっても気を遣ってくれたのか他の人からは見えない場所だった。)で待っていてくれたらしい。
「…ありがと。」
「帰りましょ。…あ、ねぇ…もう手、繋いでいい?」
少し離れたところで、そう問われる。
会社の人には見られたくないな、って呟いたのを覚えててくれたのか。
「…今日のごはん、なぁに?」
返事の代わりに大きな手を取る。指を絡めて所謂恋人繋ぎにすると、彼は幸せそうに笑った。
「今日は、じょーすけくん特製のオムライスっス。ちゃっちゃと作りますからね。」
*****
「ただいまー。」
仗助くんは私の家に住んでいるかのような気軽さで玄関を上がる。
タッタッと軽い足取りで、私の部屋着を持ってくる。フリスビーを取ってくる犬のようだと思うけれど、流石に本人には言えない。
「着替えますよね?」
「ありがと。」
甲斐甲斐しく世話を焼かれるのにも、随分慣れてしまった。スーツのボタンを外されて、衣擦れの音と共にジャケットがハンガーに移動する。
私は立ってるだけ。シャツのボタンが外されて、首筋に口付けをひとつ。スカートのホックを外されて、ストッキングが下される。上からTシャツワンピを被せられたので、袖は自分で通した。落ちたスカートから足を抜こうと持ち上げれば、仗助くんがすかさずストッキングを脱がしてくれる。彼がハンガーにスーツを戻してストッキングを拾い終わる頃には、私はすっかり着替えを終えていた。
「俺、ごはん作ってくるんでゆっくりしててください。」
そう言うと彼は私が脱いだものを片付けに行った。
私は溜息をついて、リビングのソファーに向かう。
ソファーに体を沈めると、台所からは仗助くんが立てる音が聞こえてくる。世の中の旦那は毎日こんななんだろうか。甘やかされすぎてダメになってしまいそうで、怖い。
「できましたよー。」
ケチャップでハートが書かれた、可愛らしいオムライスを目の前に置かれる。
いい匂いに思わず頬が緩んだ。
「美味しそー、いただきます!」
「待ってななこさん。…はい、あーん。」
とろとろの卵を零さないように、大きく口を開ける。
スプーンにたっぷりと乗ったオムライスを口一杯に頬張ってリスみたいになっているであろう私を、仗助くんが幸せそうに見つめている。
「んー…。」
美味しい!と言いたいけど、口いっぱいのオムライスで言えない。もぐもぐと咀嚼していると、仗助くんは次のひと掬いを持って待ち構えている。
「俺ね、ななこさんが口いっぱいに食べ物詰めてるとこ、すげー好きなの。」
なんだそれ。あんまり美しい絵じゃないと思うんだけど。
「…んー…?」
不思議そうに見つめれば、仗助くんは悪戯っぽく笑って言った。
「すんげーエロいんスよ。…その顔。」
口の端についたケチャップとか、口ん中でぐちゃぐちゃになった食べ物とか。そーいうの、コーフンする。
そう続けて、また私の口にオムライスを押し込む。
素直に美味しく食べるべきなのか止めるべきなのかわからないけど、仗助くんが喜ぶならいいかなと思ってしまうあたり、私も大概ダメだと思う。
唇の端についたケチャップを、仗助くんの舌が舐め取る。そのままキスされるのは流石に嫌で、慌てて口の中のものを飲み込んだ。
「ん、…ね、まだ、ごはん途中…」
「あー、食べてていいっスよ。俺、勝手にするから。」
「やだよせっかく仗助くんが作ってくれたのにー。」
抵抗も虚しくソファーに沈む。
せっかく作ってくれたのに、と思ったのも束の間で、唇を塞がれてもう仗助くんのことしか考えられなくなる。
口の中に残るケチャップの味がなくなる頃になって漸く、唇が離れる。
「ね、ななこさん。好きって言って?」
「…すき。」
「俺も、好き。大好き。」
ああもうなんて可愛らしいんだ。
もう一度「好き」と告げて、仗助くんの分厚い唇を塞ぐと、彼は嬉しそうに目を閉じて、私の口の中を犯した。
「…っん…ぅ、は…」
仗助くんの手は、あっという間に私を快楽の波で攫っていく。身体を預けているだけで、ただひたすらに気持ちいい。彼は私よりも私を知ってるんじゃないかって、思う。
「…ね、ななこさん…イくとこ見せて。」
「や、ぁっ、仗助く、んっあぁ、あっ!」
指だけであっさりとイかされてしまう。
もう私のことなんて全部わかってるんじゃないかと思うくらい的確に、私の欲しい刺激をくれる。
「…かーわいー。…ヨダレ垂れちゃうほど気持ち良かった?」
開きっぱなしの唇をべろりと舐め上げて、彼は私の中に沈めていた指を抜いて私の唇に押し込んだ。
「…んっ、や…ぁ…」
「…ななこさんのなんだから…自分で綺麗にして。」
さっきまで私の中で動いていたのと同じように、仗助くんの指が口内を動き回る。
そうやって愛撫されると、どちらも粘膜だってことを思い知らされる。仗助くんが食べている姿に欲情する理由もきっとそこなんだろう。
「…んっ、は…」
仗助くんにするときみたいに、根元から指先へ。両手で包み込むように捕まえて、綺麗に舐め上げた。
「よくできました。…んじゃ、ごほーびっス…」
「…ひあっ、や、あぁッ、」
イッたばかりなのに突然激しくされて、目の前が真っ白になる。
「すっげ…トロトロになってる。…音、わかる?」
「…はぁ、ッん、あッ、あ」
仗助くんの言う通り接合部からはぐちゅぐちゅとはしたない音が聞こえているけれど、奥を擦られる刺激に翻弄されてそれどころではない。
意識を手放したくなくて必死でしがみついたけれど、仗助くんがちゃんと達したかどうかわからないまま、気付くと朝になっていた。
「…う、〜ん…、」
「…おはよななこさん。…気分は?」
優しい口付けと微睡みと、カーテン越しの柔らかな朝日。幸せな目覚めに顔が綻ぶ。
「…仗助くんおはよ。…あ、そっか…昨日…」
ソファで行為中のところまでしか覚えていないけれど、身体の不快感はなくて気持ちいいシーツの感触に包まれているところを見ると、事後の処理は仗助くんがしてくれたのだろうか。
「…無理させちまったかなって、心配だったっス…」
「…大丈夫だよ。ありがとう。」
凛々しい眉を下げて、心配そうに髪を撫でてくれる手を捕まえて、指先にキスする。
「…イタズラしてっと、今日こっから出れなくなりますよ?」
仗助くんはニヤリと笑って指先を唇に押し込み、私の舌を二本の指で捕まえる。
「…ん!ひゃだ!!」
骨張った指に軽く歯を立てて抵抗すると、彼は笑顔はそのままに耳許で囁いた。
「俺、噛まれるのも好きかもしんねー。…今度試してみて。」
びっくりして口を開けると、なーんてね。と笑いながら指を外した。
濡れた指は仗助くんの口の中にしまわれていく。赤い舌が舐め上げるのを、色っぽいなーなんて思いながら眺める。
「…オムライス、ごめんね…せっかく作ってくれたのに。」
「レンジであっためて、朝ごはんにしましょうか。」
それくらい私が、と立ち上がろうとして、仗助くんに止められる。
「…そんなになんでもしてもらったら、私ダメになっちゃうよ。」
苦笑しながら言えば、彼はしたり顔で笑う。
「ダメになって欲しいんスよ。…俺がいなきゃなーんにも出来なくっていいの。」
そう言って、彼は私に口付ける。
なんにもできなくなってしまったら捨てられちゃうんじゃないかな…と不安に思ったけど、麻薬のような彼の優しさに溶かされた私の頭は、何が正しいのかもうわからなくなっていた。
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bkm