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ロマンチストとは

サイト2周年リクエスト
まりさまより
お互いの気持ちに気付いている二人で、露伴からキス。




ロマンチストとは、ロマンチシストの転。広辞苑によると、「夢や空想の世界に憧れ、現実から逃避し、甘い情緒や感傷を好む傾向」らしい。思わず辞書を引くのは漫画家の性だ。だからどうしたと言われれば、別にどうもしない。

「露伴先生はロマンチストですね」

ななこはよくそう言うが、ぼくにしてみれば彼女のほうが余程ロマンチストだ。ぼくのことが好きなクセして何も言わない。大方ぼくの方から夜景の見える高台での告白でも望んでいるんじゃあないかと思う。ひと昔前のトレンディドラマじゃああるまいし、そんなリアリティのないことはごめんだ。

「ぼくは現実逃避なんてしていない。むしろ現実、リアリティを真摯に追っている。そのぼくに夢想家だなんてバカなのか君は。」

「私は別にバカだからいいですけど、他の人に言っちゃダメですよ?」

呑気な顔で返すななこが心底憎らしい。こいつはどこかテンポがズレている。打てば響くくせして、それはひどく間延びした、まるでアスファルトに弾むシャボン玉みたいにあり得ない回答を寄越す。今だってそうだ。ぼくはバカの話をしてるんじゃあない。
これ以上会話しても時間の無駄だと思ったぼくは、大袈裟な溜息ひとつで会話を終了させる。ななこはそれを見て、慌てた様子でぼくに駆け寄った。

「ごめんなさい先生。気を悪くされたなら謝ります…」

「君は何が悪いかもわからないのに謝れば済むと思ってるのか?」

視線を向けると萎れた花のように首を垂れる。ぼくに嫌われるのは嫌だとでも言いたげな仕草を見ていると、つい揶揄いたくなる。

「だってせんせー…」

「フン、」

君は本当にぼくが好きだな、と言ったらななこは肯定を返すのだろうか。興味はあれど「違います」なんて言われたら流石にヘコむ。だからぼくは何も言わない。君の態度で十分だ。

「仕事してくる。…悪いと思うならせいぜい頑張って食事でも作れよ」

「…はいっ!」

ぱっと顔を上げて、頑張りますね!なんて笑う。あまりに単純で可愛いななこには、ぼくの緩む頬は見えないだろう。

*****

「せんせー!ごはん!」

「…こりゃあまた…随分だな…」

きっちりと作り込まれた和食を前に、思わずスケッチブックを取り出すと、ななこは「冷める前に食べてください」と頬を膨らませた。

「ぼくを誰だと思ってる。こんなのすぐ終わる」

ドシュ、と目の前の料理を手元に書き写し着座する。ななこは嬉しそうに「どうぞ」なんて笑っていた。コイツもスケッチしてやれば良かったかな、なんて思いつつぼくは箸を手に取った。

「…せんせ、ご機嫌ですね」

安心したようなななこもぼくに倣って箸を取った。二人で向かい合う食卓は、明るい陽射しによく似合う。ぼくの機嫌が直るのも当然だ。

「…今日はもう終わったからな。」

「本当?じゃあ午後はゆっくりできますね!」

ななこはどこか連れて行けとかそういったことは言わない。買い物だって一人で行くし、おおよそワガママらしいことを言ったこともない。実に都合のいい女だ。

「そうだな。…君はどうする?」

「うーん、私は先生の予定を聞いてから考えます。…先生は?」

綺麗に焼かれた魚を箸で崩しながら、ななこはぼくに笑顔を向ける。「散歩にでも行こうと思うんだが」と返せば、「じゃあ一緒に行ってもいいですか?」と嬉しそうな言葉が溢れる。出掛けたいなら言えばいいのに。

「…あ、でも片付けがあるから、先生一人で行ってもいいですよ」

「そんなの後でいいじゃあないか。行くぞ」

「はい!」

まるで室内犬のようにはしゃぎながら、ななこは一生懸命箸を動かした。ぼくに置いていかれやしないかとでも思っているのだろう。そんなことはしないのに。

「ごちそうさま!せんせー、行きましょ!」

「…あぁ。」

食器を流しに置いて、二人で玄関に向かう。靴を履いていると、先にドアを開けたななこが「いい天気!」なんて空を仰いでいる。

「…ねぇ先生、デートですね?」

玄関を出ると彼女は悪戯っぽく笑って、すぐにぼくの前に歩を進めた。軽やかな足取りは、同じアスファルトを踏んでいるとは思えない。

「…なんだ、君はぼくとデートがしたかったのか?」

そう言ってからかってやれば、ほんのりと頬を染めて、「ほんといい天気ですね!」なんて誤魔化している。幸せそうなななこを見るのは気分がいい。

「…なぁななこ。」

「なんですかせんせ…!?」

振り向いた彼女の肩を掴んで口付けた。
ななこは驚いたように目を見開き、遠ざかるぼくの唇を凝視している。

「…え、あ……なっ、なに…!?」

「デートなんだろ?」

ポカンとする彼女を追い越し、そのままゆっくりと歩く。少しして振り向くと、ななこは赤い顔で立ち竦んだまま。

「何を呆けてるんだよ、置いてくぜ?」

「待っ、待ってせんせー!」

我に返ったななこはちょろちょろとぼくの側まで走り、勢い良くぼくの手を掴んだ。

「…なんだよ急に。」

「え?…だって、デートなんでしょう?」

恥じらいながらもそう言って笑うななこが可愛くて、手を振りほどくのはやめておいた。

二人で川辺の桜並木を歩く。平日昼間のせいか、咲き誇る花を見る人影はなかった。ななこは舞い散る花を見上げながら笑う。

「せんせ、どうせならこういうところでキスしてくれれば良かったのに。」

「…してやろうか?」

ほら、君の方がずっとロマンチストじゃあないか。

20170420

サイト2周年ありがとうございます!
素敵なリクエストありがとうございました!


萌えたらぜひ拍手を!


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