#気が向いたら書くリクエストボックス
(出版社のパーティーか何かで)珍しく泥酔した露伴先生が夢主に甘えるお話
「どうして君がいるんだよ」
ひどくお酒の匂いをさせて帰って来た露伴先生は、私の顔を見るや否やそう吐き捨てた。
赤い頬を膨らませて、彼はひどく不機嫌そうだ。
出版社のパーティーだと聞いてはいたけれど、明日は日曜だし、日中に訪れた私が泊まることは出発前の露伴に伝えたはずだ。だから開口一番そんなことを言われるなんて思ってもいない。驚いて言葉を失ったものの、すぐにムカッと来た。どうしても何も、私は毎週ここに来ていて、露伴の帰りを待ったことは一度や二度ではない。
「おかえり、露伴「先生」。…それ、今から帰れってことですか?」
「はァ!?ばかじゃあないのかきみは。この寒いのに歩いて帰ったら死ぬぞ?」
どか、と音を立ててカバンを放り投げる露伴は、私の嫌味には珍しく一言も触れなかった。普段なら「君に『先生』なんて呼ばれるのは非常に腹が立つね!」と、延々お説教されるのに。ちなみに以前たまたまその現場に居合わせた康一くんは『恋人なんだからそんな呼び方されたら不安になる』ってところだと思うけど…露伴先生だし…などと、哀れみの視線と精一杯のフォローをくれた。
タクシーで帰って来たのだろう。纏う空気は多少冷えてはいるものの外を歩いて来たとは到底思えず、なにより私の頬を抓りあげる彼の大切な指先は暖かかった。
「いひゃい、」
「ははは、いいザマだなぁ。」
露伴は私の不満の声に子供みたいな笑い声を上げた。見たことのない笑顔に思わず目を見開く。このひと、もしかしなくてもすごーく酔ってる…?
「ねぇ、露伴。…お酒、どれくらい飲んだ?」
「…そんなの知るわけないだろう!」
君は母親か!と先程の笑顔はどこへやらこちらを睨みつける露伴。普段ならワインを2杯程度で帰ってくるはずの彼が「知るわけない」ほど飲んだなんて珍しい。
「…そっか。お水飲む?」
「……味噌汁」
「え?」
露伴はもう一度「みそしる」と言った。インスタントのお味噌汁なんてあったかなと思いつつ「インスタントでいい?」と問えば「いいわけないだろう」と強い語気で返された。
「…じゃあ、今から作るから。少し待ってて?」
この人がワガママなのは今に始まったことではない。私はよろよろと歩く露伴がソファに身を沈めたのを確認すると、とりあえず彼の目の前に水を置いた。
「…味噌汁じゃないじゃあないか。」
「今から作るから、これ飲んで待っててね?」
子供みたいだな、と思ったら、存外優しい声が出た。露伴は「待てるわけないだろう」とこれまた子供みたいなことを言って、私の服の裾を引く。
「…待っててくれないと、お味噌汁作れないよ」
「…うるさいなぁ」
ぎゅ、と私の胸に抱きついた露伴は安心したように溜息をついた。珍しく胸元にある頭を、撫でるべきか逡巡する。
「…すわれよ」
くぐもった声に促され、露伴の隣に腰を下ろす。私の身体が下がったことで、胸元にくっついていた露伴はズルズルと膝の上に落っこちた。…へんなの。
「ねぇ、露伴…お味噌汁は」
「…なんでそこで急に味噌汁が出てくるんだよ」
この酔っ払いは、先程のセリフを忘れたらしい。仕方ないなぁと苦笑したところで、そういえば露伴がこんなに酔っているのは初めてだよなと、膝の上の頭を眺めながら考える。
「どうして今日はこんなに飲んだの?」
帰りだって、いつもよりずっと遅かった。普段なら「あんなところに長くいられるかよ」なんて言いながらすぐに帰って来てしまうのに、帰って来た時間からすると、今日は多分、終わるまで会場にいたのだろう。珍しい。
「…帰れなかったんだよ」
ぎゅう、と腰に手を回した露伴は「ぼくはかえりたかったのに」と小さく呟いた。
それを繋ぎ合わせると、つまり『帰りたかったのに帰れなかったから飲んだ』ってことで。
「…そんなに私に会いたかったの…?」
自惚れるなよ、と帰ってくるのを承知でからかい混じりの言葉を零したのに、膝の上の露伴はひどく静かだった。何も答えない横顔を見つめていると、露伴は緩慢な動作で、相変わらず変なバンダナがくっついた額を私の胴体に押し付けた。
「……そうだ」
きみがいないところになんていたくないんだよ、と泣きそうな声が続いて、思わず膝の上の頭をそっと撫でた。露伴は腰に回した腕にいっそうの力を込めて「好きだ」と一言。
まさかそんなことを言われると思わなくて絶句する。膝の上にある露伴の顔は、私の身体にぴったりくっついていて、彼がどんな顔をしているのかはわからなかった。私の驚きが彼に伝わったのかは知らない。
これは明日雪が降るんじゃあないか、と思ってみたところで、熱くなる頬を抑えることなんて到底できやしなかった。
20170116
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bkm