「仗助くん、いらっしゃい。」
「お邪魔します。」
ななこさんの家にいるのも随分慣れて、勝手にコーヒーを淹れたりもできるようになった。
お泊りだってしたし、ただ手を繋いで眠った夜もあった。
それでも時々、露伴の影がチラついて不安になることがある。
いつだったか、ソファに座る俺の前にななこさんが跪いたことがある。
「…わ、どうしたんスか?」
「…ん…」
座った足の間に入り込むようにして、ズボンに手を掛けられてびっくりする。
「ちょ、待っ…!ななこさん!」
慌てて腕を掴むと、彼女は困ったように俯いた。
「…どーしたんスか。なんでこんなこと…?」
膝の上に座らせて、子供をあやす様に撫でる。
「…お風呂上がりは、そうするものだって…」
入浴後にソファに腰掛けたら、それが『合図』だ、そう教わったと。
「もー…そんなの信じちゃダメっス。」
「…ごめんなさい…」
元来素直な性格で、性的な経験も浅かったななこさんが、どれほどいいようにされていたのかを思い知らされて、胸が痛んだ。
したいと言うのでお願いしたこともあったけど、咥えるのはかなり上手い。
柔らかい手と舌で愛撫されるのは気持ちいいけれど、追い詰められるのは快楽ではなくどこか別の場所だった。吐き出したものを躊躇いもなく飲み込まれて、慌てて洗面所に連れて行った記憶もある。
かと思えば、愛撫されるのはあまり慣れていないようで、不安げにしがみつきながらきゃんきゃんと仔犬のように鳴く。好きだと言えばそれだけで儚く震える、小さな体躯。
「…はぁ。」
思い出すといろんな意味で溜息が出てしまう。清濁併せ持つ危ういバランス。
「…大丈夫?ボーッとしてるけど。」
覗き込まれてハッと我に帰る。
目の前には心配そうな顔のななこさん。
「あぁ、なんでもないっス。大丈夫大丈夫。」
誤魔化すように笑ってみせる。
もう何も心配することなんてないはずだと自分に言い聞かせながら。
「私じゃ頼りないかもしれないけど、力になりたいよ。」
手をぎゅっと握られる。
俺が欲張りなだけなんだ。手に入ったはずなのに、足りない部分ばかり目についてしまって。
「…ななこさん。俺、正直言うと、露伴にめちゃくちゃ嫉妬してるんス。」
溜息と共にそう告げる。
俺が見たことのない姿を、露伴はどれだけ知っているのか。考えただけで頭ン中がぐちゃぐちゃになる。
「え…?」
「アンタの初めても、エロい顔も、露伴の方が先に見てると思うだけで、もー…なんかダメっス。」
途轍もなく凶暴な気持ちになる。
最初は優しくしたかっただけだったのに、今は時折、ぐちゃぐちゃにしてしまいたい衝動に駆られる。
「あの、それ…すごい嬉しい、んだけど…変、かな…」
戸惑ったような表情で、それでも幸せそうに抱き着いてくる。
思いもよらない返答に、毒気を抜かれてしまい、間抜けな声がでてしまう。
「へ…どして…?」
「…え、だってそれだけ好きでいてくれてるってこと…でしょ…?それに、仗助くんがワガママ言ってくれるの珍しいし…」
なんだって全部叶えてあげたいよ。と、恥ずかしそうに笑っている。
「…んじゃあ、なんか、なんでもいーっス。ななこさんの初めてのコト、俺にください。」
「はじめて…かぁ…何があるかな…」
うーん、と考え込むななこさん。
しばらく悩んでから、恥ずかしそうに顔を上げた。
「…それじゃ、お風呂…一緒に入ろっか。」
*****
「…入ってきていいよー。」
「…脱がすとこからやりたかったんスけどねぇ…。」
そう言うと、湯船からお湯がぱしゃりと飛んできた。
「何するんスか!」
「恥ずかしいこと言わないでよ、もー!」
手でお湯を掬ってはこちらに掛けてくる。
波打つ水面は乳白色に彩られていて、少々残念な気持ちになる。
「入浴剤で見えないじゃないっスか。」
「だって恥ずかしいもん。」
「抱く時にもう全身見てんのに今更じゃあないっスかー。」
「…お風呂場、明るいから…」
二人で浴槽に入ると流石に狭い。
後ろから抱えるようにして浴槽に沈むと、ざぱりとお湯があふれた。
「はー…、極楽ごくらく。」
「なにそれ、おじーちゃんみたい。」
楽しそうに笑いながら、気持ちよさそうに俺の胸に凭れているななこさん。
くっついた素肌が柔らかで気持ちいい。
「ね、仗助くん…」
「はい?」
「…家に呼ぶのも、デートもキスも、痕…付けるのも、恋人も。仗助くんが初めてなんだよ…」
手許を見つめて、水面を弄びながら恥ずかしそうにななこさんが教えてくれた。
「…え、マジっスか!?」
露伴に弄ばれたこと以外は、まっさらだという事実。露伴に会ってしまったことが尚更悔やまれる。
「…うん…もう20歳も近いのに、おかしいよね…」
「そんなことないっス。俺は嬉しいし!」
ぎゅうっと抱き締める。力を込めた掌に柔らかい胸の感触が伝わってきて、思わずそのまま揉みしだいた。
「んッ…やぁ…!」
「…ね、ここでしてもいい?」
愛撫しながら耳許で囁くと、朱に染まった頬が見えた。矯正を零す唇は答えを返さない。
「んむ、っふ…ぁ、や…」
振り向かせて唇を奪う。舌を差し込むとおそるおそるではあるが応えてくれるようになった。お互いの唾液が混ざり合って、湯船に消えていく。
ちゅっと音を立てて唇を離すと、抑えを失った声が響く。
「…っは…ぁッ、や…あぁっ…」
「…ね、すごい響いてる。外に聞こえちゃうんじゃないっスか?」
反響する矯正を揶揄するように言えば、慌てて口許を手で押さえるななこさん。
「んっ、ぅ…む…、ふっ…」
耐えるような表情と、押し殺し切れない喘ぎが劣情を煽った。
首筋に軽く歯を立てる。噛み付いて吸い付いて、赤い痕を散りばめていく。俺のものだと、そう主張したくて。
「…可愛い。…ね、これ、お湯じゃないっスよね。」
湯船の中にいても、ヌルヌルと溢れてくるのが分かるほどに濡れた陰部にゆっくりと指を挿れる。
難なく指を飲み込んでいくそこは、お湯の中よりもずっと熱かった。
「やっ、おゆ、入っちゃ…ぅッ…あっ、つい…よぉ…」
「お湯よりななこさんの中の方が熱いっス。」
ななこさんの気持ちイイところもだいぶ分かってきた俺は、二本の指でそこをぐりぐりと擦り上げる。指を締め付けながらしがみついてイく姿を、明るいところで見てやりたいと思った。
「やっ、あ、そこ、だめぇっ、イッ…やあああぁっ!!」
思惑通りにいとも簡単にびくびくと身体を震わせて、ななこさんは達した。
ぐったりと身体を預けてくる彼女は、腕も首筋も真っ赤に染まって、茹だってしまったんじゃないかと急に心配になる。
「…のぼせちゃったっスか?一旦上がる?」
「…んっ、あつ、い…よぉ…っ…」
指を引き抜いて、ふらふらのななこさんを抱き上げる。そのまま浴槽を出ると、タオルで包み込んだ。
「このままベッドでいいっスか?」
「っん、…おみず、のみたい…」
立っているのがやっとといった様子のななこさんを支えて、ベッドまで運んだ。
そっと寝かせて台所に水を取りに行く。
戻ってくるとななこさんはぐったりと目を閉じている。どうやら本当にのぼせてしまったらしい。
「水、汲んで来たッス。起きられますか?」
「…むり…ぐらぐらする…」
こりゃ無理させすぎたな、と後悔しても遅い。水を口に含むと、そのまま彼女の唇へと運ぶ。
自分の体温で生温くなってしまった水を、唇の端から零しながらも幸せそうに飲み下す様は、とても煽情的だった。先程から煽られ続けた下半身が苦しい。
「もっと飲みます?」
「…ん…ちょーだい…?」
薄く唇を開いて、ねだるように見つめてくる姿は、雛鳥のようでも娼婦のようでもあった。
先程と同じように水を口に含んで口付ける。
もっと、と求められるままに何度も繰り返した。
「…ふ、ぅ……」
落ち着いたのか安心したように瞳を閉じて、そのまま微睡みに落ちていく。
彼女の濡れた髪を撫でながら、疼く下半身に苦笑いするしかなかった。
*****
「ん、…あれ…?」
「…おはよーななこさん。」
結局悶々としたまま夜が明けてしまった。
スヤスヤ眠る彼女は罪作りだなぁとも、このまま犯してしまおうかとも思ったけれど、あまりに幸せそうで何もできなかった。
「…えっと、たしかお風呂入ってた……」
思い出したのかみるみる真っ赤になっていく。恥ずかしそうに俯いて、ごめんなさい…と謝る姿もなんだか可愛い。
「ワガママ、聞くはずだったのに…ごめんね…」
「…待ちくたびれたっス。責任取って、俺が満足するまで相手してくださいね。」
そう言って口付けると、ななこさんはこくりと頷いた。
*****
「…あー、幸せ。」
溜まっていた欲望をスッキリと解き放って、抱きしめていたななこさんを巻き添えにベッドに倒れこむ。
「…はぁ、…っ、死ぬかとおもったよ…」
「…気持ち良すぎて?」
「…う、ん…」
忙しない呼吸を必死で整えて、真っ赤になりながらも素直に頷いてくれる姿が可愛らしい。
「…ね、ななこさん。俺、今日は一日中こうしてたいなー…なんて。」
「…いいよ。たまには仗助くんのワガママ聞かせて。」
甘えるように擦り寄ると、ななこさんはくすぐったそうに笑った。
「…日中にリーゼントじゃない仗助くん見られるの、私だけだね。」
あんなに大切な髪型の事すら忘れてしまうくらい、この人に惚れてしまったんだと実感させられてしまう。
「…あ。そっか…。」
「??どうしたんスか?」
何かに納得したように一人こくりと頷いて、その後申し訳なさそうに謝罪の言葉を告げられる。
なんの事だかわからなくて、ぽかんとしていると、ななこさんはゆっくりと言葉を続けた。
「…仗助くんが髪を下ろしたとこ、他の子に見られたくないなって思って。…そしたら、『嫉妬した』って仗助くんの気持ちも…わかるなって…」
彼女の言葉が心に染みて、幸せに変わっていくのがわかる。
「…『嫉妬されて嬉しい』ってななこさんの気持ちも、今わかったっス!」
あぁもう、グレートに大好きだぜ!
ぎゅうっと抱き締めて、二人でもう一度ベッドに沈み込んだ。
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bkm