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お酒は20歳になってから!

未成年の飲酒は断固NG。
教唆するものではありませんので、悪しからず。





「…ねえななこ。お酒、飲んだことある?」

「へ?」

唐突にそう言われて、私は言葉の意味を考える。普段なら「このゲーム、やったことある?」って新作のソフトとか見たことのないカードとかを出してくる花京院くんは、その時と全く同じテンションでもって、私に問いかける。「酒を飲んだことはあるのか」と。

「だからさ、お酒だよ。…ビールとか、ワインとか。」

「あるわけないじゃん、私たちまだ高校生だよ?…どしたの急に。」

そう、いくら花京院くんがそう見えなくても私たちはまだ子供で、飲酒は許可されていない。校則すら破れないチキンの私が、どうして法を破れようか。

「…飲んでみない?」

花京院くんの瞳は、好奇心にキラキラと輝いていた。




花京院くんに話を聞けば、承太郎はタバコだけでなくお酒の習慣もあるらしい。それを目の当たりにして「美味しいの?」と聞いた花京院くんに「飲んでみりゃあいいじゃねえか。」と一本くれたとかなんとか。

「二本、に見えるけど。」

目の前に置かれたビールの缶は二つ。私は別に乱視ではないから、タブって見えているわけじゃあない。

「え?あぁ、ななこと飲むからもう一本くれないか?って言ったんだ。」

そう言うと彼は可愛らしくはにかむ。
花京院くんは時々大胆だ。あの承太郎におねだりとか、強い。

「…くれたの?」

「うん。やれやれだぜ、って言ってたけどね。」

承太郎、優しいなぁ。今私の中で承太郎株がストップ高だよ。そして花京院くん、承太郎の真似が上手い。

「…ママにバレやしないかな…」

「そのために『泊まる』って言ってきたんだろう?」

「違うし。」

いや、断じてそのためではない。
花京院くんが泊りにおいで、って言うから友達に口裏を合わせてもらっているだけで。
また夜通しゲームするのかな、とは思ってたけどまさか酒を飲むなんて。

「じゃあ、飲まないの?」

「…いただきます。」

なんだかんだ言っても、好奇心には勝てない。なにより花京院くんと一緒なら、なんだって怖くない気がする。

「じゃあ、はい。ななこの分。」

缶を一本渡される。ひんやりとした感触を掌で感じながら、プルトップを開ける。
ぷしゅ、と小気味の良い音がした。

「…かんぱい、する?」

ドキドキするのを誤魔化すようにそう花京院くんに問う。乾杯でもしなきゃあ、きっと炭酸が抜けるまでこの缶に唇を付けられなさそうだったから。

「…いいよ。『君の瞳に』?」

悪戯っ子のように細められる目。
ドラマのワンシーンのようにカッコつけた台詞は冗談にしては似合いすぎていて、思わず顔が熱くなる。私が照れるのを見て、花京院くんは「…冗談なんだから、照れないでよ。」と頬を染めた。

「…なんでもいいから、飲も。」

乾杯、と缶をぶつけ合って覚悟を決めると、コーラを飲むときみたいに勢い良く煽った。
苦くて細かい炭酸が舌と喉に痛いけれど、押し込むようにごくごくと無理矢理に嚥下した。
液体が通った熱が、まるで雪道に残る轍みたいに喉から胃袋まで残っている。喉の奥が熱い。

「…CMみたいに美味しそうには飲めないね。」

花京院くんも私と同じなのか、喉元を手で押さえながら苦笑している。

「…苦くて、熱い…ね。」

あんまり美味しくはないかな、と笑って、確かめるようにもう一口飲む。
ひたすらに苦いだけのこの飲み物を、大人はなぜ喜んで飲むのだろう。よくわからないのは私が子供だという証拠なのだろうか。大人になれば分かる日がくるのかな、なんて。

「…ななこ、今のすごい…色っぽい。」

吐息交じりに言葉を吐く姿の方がよっぽど色っぽいと思う。彼は私にぐいと近づいて、至近距離で囁いた。

「…キスしても、いいかい?」

キスするたびに聞いてくれるけれど、私がNOと言ったことなんてない。YESの言葉さえ恥ずかしくて言えないから、いつも小さく頷くだけ。今日も例によって瞳を伏せるように首を小さく縦に揺らせば、安心したように緩んだ鳶色の瞳が長い睫毛の向こうに消える。そうしてゆっくりと、重なる唇。

「…ん、」

花京院くんの唇はビールのせいでひんやりとしていて、触れ合う舌は少しばかり苦い。絡み合う舌が水音を立て、それが耳の中をも掻き回していく。

なんだかおかしい。
頭がくらくらして、なんだか変だ。

喉から胃に落ちたはずの熱さが、全身を緩やかに沸き立たせたんじゃあないかって思う。
思わず花京院くんにしがみ付くと、彼は喉の奥だけで小さく笑って唇を離した。唾液が糸を引いて、ぷつりと切れる。

「…かきょういんくん…」

「あぁ、ダメだよそんな顔したら。」

僕だって、酔ってるんだから。
私を抱き締めた花京院くんが、耳元で小さく囁く。そのままゆっくりと床に押し倒される。
背中に当たる感触はベッドとは違って、固い。

覆い被さる花京院くんの前髪が、私を擽る。
指先が服の裾から入ってきて、素肌を撫でた。

「…ひゃっ、う、」

自分の唇から漏れた声に驚いて口を押さえると、花京院くんは可愛い、と唇だけで呟いて熱っぽい視線を私に向けた。

「僕、身体が熱いんだけど。…もしかして、ななこも?」

花京院くんがどんどん近づいてきて、口付けられるんじゃあないかと瞳をぎゅっと閉じたけど、その後に訪れたのは期待した感触ではなく、体全体に大きな重み。

「うぇ、重いよぅ…」

「…あー…すごいクラクラする…」

ななこは柔らかくって気持ちいいね。と花京院くんは私に身体を預けて幸せそうに笑った。

「重いよ…花京院くん。」

不満の声を上げると、視界がぐるりと反転した。花京院くんの上に覆い被さる形になったけど、頭はぐらぐらと揺れっぱなしで落ちないようにぎゅうっとしがみついた。

「これなら重くないね。」

「…ねぇ、なんかすごーく可笑しいんだけど。」

首筋に顔を埋めてくすくすと笑うと、花京院くんがくすぐったそうに身を捩った。
酔っ払いってこんなに楽しいのかと、二人で笑いながら抱きしめ合う。やってることは普段と変わらないはずなのに、お酒が入るだけでこんなに。

「楽しいね。」

「承太郎もさぁ、酔ったら笑うのかな。」

笑ってる承太郎なんてあんまり想像つかないな、と言えば、花京院くんは少しだけ不機嫌そうに眉を寄せて私をぎゅうっと抱き締めた。

「こんな時に他の男の名前なんて呼ぶもんじゃあないだろ?」

ころりと再び転がされ、花京院くんの身体の下に閉じ込められる。そうして降ってくる、彼の唇。

「…ん、ごめんね?」

首筋にしがみ付いて言えば、「わかればよろしい。」なんて冗談交じりな台詞と共に、何度もキスされた。


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm