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君の興味、僕の趣味。

「ねぇ、ななこと花京院くんってさぁ、どんなデートしてるわけ?」

事の発端は、興味津々な友人の一言。

「え、私の部屋で新作のネイルの話したりー、一緒にファッション雑誌めくったりとか?みんなといるときとしてることと変わんないよー。」

改めて聞かれると照れちゃうな、なんて思いながら答えると、友人たちは目を丸くした。

「え、あの花京院くんが?」

「うん、花京院くんね、マニキュア塗るのすごく上手なんだよ。」

ほら、と指先を見せる。
控え目な色で塗られた指先は、花京院くんがやってくれた。「先生に見つかったら怒られやしないかい?」なんて心配しながら、慎重に私の爪に似た色を選んでいた彼を思い出す。

「え、なにそれ意外ー。なんでそんなの上手なんだろうね?」

「そういえば、なんでなんだろう。」

「なにそれななこ、花京院くんのことなのに知らないの?」

「うーん、そういえばそうかも…。」

言われて気がついた。私、いつも一方的に花京院くんに話をしているだけで、花京院くんのことをあんまりよく知らない。彼はそれで楽しいんだろうか。
自慢じゃないが、私は世間一般の女子高生だ。甘いものとオシャレが大好きな、ごくごく普通の。だから彼はニコニコ笑って聞いてくれるけど、実は退屈じゃあないんだろうか。

「彼氏のこと知らないとかヤバくない?…花京院くんの趣味知ってる?」

「…え、ゲーム…?」

そういえばどんなゲームをするのか知らないな。なんだろう。そもそもゲームなんてRPGとパズルゲームくらいしか知らないな。

「じゃあ、好きな食べ物は?」

「チェリー!」

パフェとかクリームソーダとか、そういうもののてっぺんのさくらんぼを「もらってもいいかい?」って、少し恥ずかしそうに笑う花京院くんはなんだか可愛らしかった。その後のあのレロレロはどうかと思うけど。

「なにそれ意外ー。あとは?」

「うーん、マニキュア塗るのが上手。」

「それはさっき聞いたしー。」

マニキュアを、というか細かいところを塗るコツみたいなものを彼は知っているみたいで、ぴっと思ったところに筆を置いて、均等に色を乗せていくのが魔法みたいだった。いつも見惚れてしまってそういえばどうしてか聞きそびれてしまったな、と思う。

「あとはあんまり知らないなぁ…」

「付き合ってるのに変だよそれー!」

*****

「…って、友達に言われたんだけどさぁ…」

「僕は全然、今のまんまで満足だよ?」

そう言って、軽く髪を撫でてくれる。
身体の割に華奢な指先が好きだなと思う。

「ホントに?…私の話、退屈じゃない?」

「…んー、ななこを知ることがさ、僕の趣味みたいなものだから。…だから、どんな話だって楽しいよ?」

さらりと飛び出した爆弾発言に、頬が熱くなる。花京院くんは、なんでもないことみたいに、普段通り柔らかく笑っている。

「ゲームとかの話の方がいいんじゃないの?」

「そんなことないよ?大好きなものの事を話してニコニコしてるななこが可愛いから。」

歯の浮くような台詞をさらりと吐く。
なんだか照れてしまって花京院くんの顔が見られない。

「でもさ、私…花京院くんのこと、知らなすぎって言われたよ…彼女なのに、って。」

「うーん、あんまり知ってイイコトもないかもよ?ななこみたいに友達も多くないから、一人でゲームしてばっかりだし。」

花京院くんは苦笑いする。
空条くんとは仲良しみたいだけど、一緒にゲームしたりはしないのかな。

「でも、私も花京院くんの好きなこと、一緒にしたいな。」

「…えーっと、それ…ゲームでも、いいかな?…ななこにはつまらないかもよ?」

少し考えた後、花京院くんはちょっとすまなそうにそう言った。それは、花京院くんの家に遊びに行ってもいいってことかな。

「そんなことないよ!…花京院くんの部屋に行くの初めてだし楽しみ!」

行きたいなと言っても「散らかってるから…」とやんわりはぐらかされていたので、すごく嬉しい。

「あー…そっか、…うん。片付けなくちゃあ、ね。」

いつにしようか。楽しみだね。って言ってくれているけど、困ったように視線を彷徨わせているのはどうしてだろう。私の気のせいかな。

*****

「おじゃましまーす。」

「…ゆっくりしてって。」

綺麗に片付けられた部屋に、ほんの少しだけ違和感。
押しピンだけが残る壁。何か飾ってあったのかな、ポスター?写真?

「男の子の部屋って初めて。…ゲーム、いっぱいあるね。」

「どんなゲームにする?格ゲー?音ゲー?レーシングとか、パズルもあるよ。」

「花京院くんが、得意なやつがいいな。」

かくげーってなんだろう。ゲーはゲームのことかな。
よくわからないけど、花京院くんは楽しそうに、ソフトを本体に差し込んでいる。

「とりあえず、やってみる?…一番簡単なコースなら大丈夫だよ。」

ピコピコとしたBGMに乗せて、色鮮やかな車が走っている。F-MEGA…レーシングゲームかな。
花京院くんは慣れた様子でコントローラーを動かし、車とコースを決めていく。

「え、どうやるの!?」

コントローラーを持たされて、どうしていいかわからないうちに、シグナルが赤から青に変わる。私以外の車は一斉に走り出した。

「え、えっ、花京院くん!?」

「ほらななこ、走らなきゃ!」

花京院くんは私を後ろから抱き締めるようにして、持ったコントローラーの上から手を重ねる。
びっくりしているうちに花京院くんの手によって車は走り出し、あっというまに他の車に追いつく。

「花京院くんすごーい。」

「見て、これがアクセルで、こうやって走るんだよ。」

「…うん、」

抱き込まれた身体も、包まれた手もあったかくて、正直ゲームどころじゃない。

花京院くんはあっさりとゴールする。1の数字が出ているところを見るとトップだったのか。

「花京院くん、あの…」

「え、あっ!ごめんななこ!!!」

慌てて離れる花京院くん。
ゲームに夢中で気付かないとか、よっぽどゲーム好きなんだなと感心してしまう。

「びっくりしたよ…。」

「ごめん、ゲームに夢中で…。勿体無いことしちゃったなぁ。」

いつもの調子でそんな台詞を吐く。
花京院くんは天然なのかワザとなのか、口説き文句みたいなことを平気で言ってきて、その度にときめかされてしまう。

「私はゲームどころじゃなかったよ…」

「ね。折角だから、もう一回…」

「え?あ、うん。」

ゲームのことだと思って軽く頷いたんだけれど、どうやら違ったらしい。
今度は正面から抱き締められる。背後からは、先程から聞こえてくるゲームの音。

「…僕の部屋にななこがいるとか…感動しちゃうな。」

「…あの、花京院くん…」

視界も匂いも音も、どこもかしこも花京院くんのもので、なんだか変な感じ。どうしていいのかわからなくて視線を彷徨わせていると、机の引き出しから一枚、写真が覗いているのが見えた。

「…あれ、あの写真…」

「えっ!?」

花京院くんは弾かれたように離れて、私の視線の先に向かう。
慌てて写真を引っ掴むと引き出しにしまって、こちらを向いて不安げに一言。

「…見た?」

「…えと、私の…写真、だ、よね?」

「…うん、遠足の時の。」

廊下に張り出された沢山の写真から、欲しい番号を書いて購入する仕組みで、空条くんが写っているものが欲しいとみんながきゃあきゃあ騒いでいたけど、まさか、花京院くんが。

「もしかして、そこに…飾ってた?」

「バレちゃった?」

部屋に入った時に気になっていた壁は、どうやらあの写真が飾ってあったらしい。
どうしよう、めちゃくちゃ恥ずかしい。

「…あの、すっごい…恥ずかしいんだけど…」

「…幻滅…した?」

「ううん、そんなことは…。でも、だったら私も、花京院くんの写真が欲しいよ…」

「じゃあ!…今度、二人で撮ろう…か。」

花京院くんの頬が赤い。多分私の頬も負けないくらい赤いだろう。
ゲームという彼の趣味を知りたくて遊びに来たはずが、ゲームなんて全然できてなくて、でもそんなことどうでも良くなっちゃうくらい嬉しい日だったな、なんて思わず顔がにやけてしまう。

「うん!」

勢い良く頷くと、花京院くんは幸せそうにもう一度私を抱き締めた。


萌えたらぜひ拍手を!


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bkm