「…花京院くん、ショタコンの語源知ってる!?」
休み時間、一人で本(カバーが掛かってるところからするとラノベだね。多分。)を読む花京院くんの所に行って、小声で囁く。
「あぁ、鉄人28号の金田正太郎から来たっていう。」
読みかけの本に栞を挟むと、花京院くんはあっさりと正解を口にした。さすがは花京院くん。
「…さすが花京院くん。ヲタクの鑑。」
ぱちぱちと手を叩いてみせると、彼はにこりと笑って続ける。ヲタクのくせにイケメンなんてズルいよ花京院くん。
「…半ズボンの似合う少年の代名詞、だから別名『半ズボンコンプレックス』とも言うらしいよ。で、それがどうしたの。」
「へー。…あ、んでね、それを聞いて思ったんだけど。『承太郎コンプレックス』ってのもあっていいと思うの。」
正太郎コンプレックス、と聞いて私が思ったのは、正太郎って承太郎と語感が似てるなってことだった。でもそこらへんの友人にショタコンなんて言葉を聞かせたら、内容には触れずに遠巻きにヒソヒソされるか、なにそれおいしいの?って言われるに違いないので花京院くんの所に来た次第である。
私たちはうまく擬態できている、所謂「隠れヲタク」というやつだ。花京院くんは隠しているんじゃなく人当たりの良さとイケメンさで気付かれてないだけかも知れないけれど。
「なにそれ。承太郎は何の代名詞なの?」
「え、なんだろう。…改造学ランで高身長で喧嘩の強いイケメンの不良?」
「それは代名詞っていうか承太郎じゃないかな。」
確かに、承太郎みたいな男の子なんてそんじょそこらにはいないな。
「んー…でもこの学校の女の子の半分くらいは当てはまるんじゃないかな、ジョタコン。」
「…うん、わかるようで意味わかんないけどね。」
花京院くんは呆れたように溜息をついた。
この憂いを含んだような瞳に悩殺されてる子も多いらしい。そしたらカキョコンかな。言いづらいな、カキョコン。
「…えー、花京院くんならわかってくれると思ったのにー。」
「僕別にそういうのないかなぁ。ななこはなんかないの?コンプレックス。」
「…劣等感のコンプレックスならいっぱいあるけどね、性癖はないかなぁ。」
マザコンでもファザコンでもないし、兄弟もいないし。あ、ショタコン?…うーん、ないな。
悩んでみても思いつかない。
っていうか白昼堂々と教室でする会話じゃないよね。うん。
「…てっきりジョタコンって言うと思ったんだけど。」
「あー、それだったらカキョコンかな。」
ぽろりと口をついた言葉に、花京院くんが目を丸くする。
「なにそれ、もしかして僕??」
あ、なんか目がキラキラしだした。
萌えキャラを語るときと同じ目だ。
何がそんなに花京院くんの琴線を揺らしたのか。
「…うん。承太郎よりは花京院くんかな、って。」
途端に不満そうな顔になる。
あぁ、承太郎と仲良しだからライバル心なのかな、なんて思っていたのだけれど。
「だったら僕はななこコンプレックスかな。」
そう言われてびっくりして花京院くんを見つめると、彼は楽しげにその大きな口を歪めていた。
「…なにそれ、やだこわい。」
花京院くんに言われるとなんかやだ。
エロゲ的に妄想されてるんじゃないかと思う。らめえええ!とか言わないからね普通。
「…うん。多分君が考えてる通りだよ。」
そんないい笑顔で爽やかに言ってもアウトだよ。それは告白っていうよりカミングアウトだよ花京院くん。
「…嬉しくないカミングアウトをありがとう。」
「…え、嬉しくない?…好きだって、言ってるんだけど。」
すげーいい笑顔でさらっと告白までしてきた。それはさぁ、美少女ゲーに倣ってもっとロマンチックに行こうよ。
「…この流れだと、嬉しくない。」
「…じゃあ、今度また改めて場を設けますので。…その時はいい返事よろしくね。」
そう言って花京院くんはにっこりと笑った。
「…善処します。」
これって返事したようなもんだと思うけど、恥ずかしいし放っておこう。
あぁ、これで完全に花京院コンプレックスかも。
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bkm