3
――――……ピッ……ピッ……ピッ…
電子音が聞こえる。
そのままゆっくりと意識を浮上させると、自分は仰向けで寝転がされている事を理解した。
薄らと目を開けてみるが、あたりは暗い。
先程の電子音は脈拍を測るモニターの音である事に気づく。
モニターの時間は02:37。
首を動かそうとした瞬間、激痛が走る。
「――――ッ!!」
夢の中では普通だったのですっかり忘れてたが…
(そういえば、クナイで首を刺したんだよな…)
腕を動かして首元を触ってみるが、思ったように手が動かしにくい。
首元には包帯があり、ガーゼも一緒に巻かれてるせいかなんだか息苦しく感じる。
腕には点滴も挿されているが、気にせずゆっくりと上半身を起こすと―――――
「――――ふん。
ようやく意識が戻ったのかテメーは」
声のした方を見るとそこに居たのは。
「た……たかすぎ…なんで……」
「ヅラの野郎から聞いた。
ヅラは万事屋のガキ共から聞いたらしいが……
テメーは相変わらず馬鹿してるらしーな」
そう言って、奴は咥えてた煙管を懐になおす。
「馬鹿してるってなんだよ……
っつーか、なんでテメーが此処に居るんだよ」
「ヅラが“銀時がもう目覚めぬかもしれぬから、今のうちに顔を見とけ”って泣きついてきたからよォ。
せっかくだ。テメーの死に顔を拝みにきてやったんだよ」
「死に顔って…
銀さん死んでねーし。勝手に殺すな」
「ククク……そうだな…
テメーは俺が殺してやるんだからよ」
「ふざけんじゃねーよ。
俺がテメーをぶっ飛ばすんだ」
じろりとひと睨みするが高杉はおかしそうに口元を歪ませて笑うだけだ。
「『ぶっ飛ばす』ねェ……
ククク……そーかそーか………」
高杉は俺の傍まで来ると手で顎を上げさせて視線を無理やり合わせる。
「いだだだだだだだだだ!
待って待って高杉くん!僕怪我人だから!!
首に怪我負ってるから酷使させないで!!」
「ハッ!自業自得だろーがよ」
高杉はそこで言葉を区切ると、纏っていた空気をガラリと変えた。
「いいか銀時…テメーはいずれ俺が殺してやる。
だからそれまでは勝手に死ぬんじゃねーよ」
時計の針の音も、モニターの電子音すら気にならなくなる程の高杉の真剣な表情。
「たか、すぎ…………」
「仮に俺以外の手で死んじまったら、そん時は地獄も天国も関係ねェ。
追っかけてもう一度殺してやるから…
それまでは生かしといてやらァ」
そう言って、高杉はいつもの不気味な笑いと共に部屋を去っていった。
「…………………………フッ」
思わず、笑いが零れる。
『俺が殺すまで勝手に死ぬな』だなんて。
「アイツなりに心配してくれたってことだよなー…」
お互いにぶった斬るだァ殺してやらァなんざ言ってるが……
ふと、この病室には先程の高杉が吸っていた煙管の香りが充満している事に気づいた。
それ程長い間この病室に居たって事はつまり―――――
「―――ケッ。
病人の前で煙管なんか吸ってんじゃねーよバーカ」
肺が黒くなったらどうしてくれるんだ。
いや、もう己の肺は真っ黒だから手遅れだろう。
副流煙の方が身体に悪いと言うし。
(…土方……………)
かの人を想うと胸の奥がツキンと痛くなる。
自分は死んでやることが出来なかったし、死んでやれなくなった。
俺はもうアイツらが悲しむ事はしたくない。
だから。
(アイツがそれを望むなら、俺は、もう……)
そこまで考えると、俺はまたベッドへと寝転び瞼を閉じた。