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―――――………………
――い………ん…き…
―起きなさい銀時―
―――――ピクッ…
(………ん………………あれ?……)
誰かに呼ばれたような気がして目を覚ました。
目を覚ましたはいいが、辺りは真っ暗でなにもない。
唯一、自分の身体は見えてる程度。
他に誰の姿もない。
「空耳…?」
《空耳というには少し語弊がありますかね》
「!!!」
また聞こえた声。
辺りを見回しても誰も居ない。
だけど、この、声は………
《探しても無駄ですよ。
私は貴方の脳に直接語りかけていますから…》
「しょう…よう、せん、せ……?」
《おや、姿が見えなくてもバレてしまいましたか。
おはようございます、銀時》
「なんで、先生が…?
だって、俺、首にクナイを突き刺して…」
そっと左手でクナイを突き刺したであろう箇所をなぞるが、特におかしな所はない。
《貴方が自殺しようとした現実は変わっていませんよ》
「!!じゃあ、」
《此処は現世と黄泉の境目…俗に言う“三途の川”です》
辺りを見回してみるが、ただひたすらに闇が広がっているだけ。
《ふふ…川ならきちんとありますよ。
このまま真っ直ぐ進めば自ずと見えて来ます》
「じゃあ―――――」
そう言って歩み始めようとする、が。
《ダメですよ銀時。
貴方はまだこちらへ来てはいけません》
「どうして……!?なんでだよ先生!!」
《あの子供達を置いて逝くつもりですか?》
――――ビクッ
「………………それ、は…」
《……銀時。
誰が何と言おうと、貴方は“人間”です》
「違う!!俺は“化け物”なんだ!!」
《貴方は“化け物”なんかじゃありません。
その証拠に、貴方は泣けるのですから》
先生の言葉に胸が熱くなり、暗闇がボヤける。
心がぽかぽかとした、あったかいこの気持ち…
《銀時。
本当の“化け物”というのは、人の痛みを理解せず、己の欲望のままに生き、他を認めないのが“化け物”なんだと私は思います。
けれど、貴方はそんな醜いものなんかじゃありません》
「…せん、せ………」
《だって貴方はこんなにも心優しいのですから。
自ら死のうとしたのも、彼らに幸せになってほしかったからでしょう?》
―――どうして、貴方には。
「…………新八にも、神楽にも…
皆、しあわせになって欲しかった。
でも“化け物”が傍に居たら幸せになれないって…
俺、忘れてたんだ……
自分が“化け物”だってことを。
一度は全部捨てたハズなのに、またいつの間にか背負い込んでた…
だから!!―――――――――」
《もう背負いこまないように死のうと?》
「………」
《ねぇ銀時…人はいずれ死にます。
これは仕方のない事なのです。
寿命で亡くなることもあるでしょう。
中には病気や事故、はたまた恨まれて殺されたりだって…
人は簡単に死んでしまうのです。
でもね銀時。
人が一番悲しむ死に方とは自殺なのですよ?》
「!!」
《遺された人達は、それはとても悲しむでしょう。
何故助けてやることが、止めることが出来なかったのか…
遺された人達はそんな哀しい想いをこれからずっと、引きずっていくことになるのですよ》
「…………おれ、は……」
《貴方は彼らにそんな想いをさせたかったのですか?》
「それは違う!!」
俺は、ただ……
《…貴方が彼らの事を想うように、彼らもまた銀時の事を想っているのです。
銀時が彼らに笑っていてほしいと願うように、彼らもまた銀時に笑っていてほしいのですよ。
あのような哀しい笑みじゃなく…》
「せんせ……おれ…」
《ふふ…もう間違えないですね。
それでは、目を閉じて…》
先生に言われて目を閉じる。
すると頬の辺りがほのかに暖かくなるのを感じる。
《人間とは間違える生き物です。
でもその間違いを悔やみ、正す力も持っているのです。
たくさん迷いなさい銀時。
迷いながら己を強くしていくのです。
間違えた時は、貴方の仲間達が道を正してくれますから…
そしていつか貴方も…仲間が道を間違えた時に正してあげるのです。
強くなりなさい銀時。
弱き己を守るのではなく、仲間を護るために強くなるのですよ…あなたならきっと、強くなれますから……》
そう言うと頬の暖かなものは離れていった。
「先生…!!」
叫んでも、もう声は聞こえない。
「ありがとう、松陽先生………」
貴方のおかげで、俺はまた間違えずにすみそうです。
俺の大切な家族や仲間を護るために…
(今度はもう間違えない!!―――)
己の胸に誓を立てたその時、辺りが真っ白に輝き始めた。