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 助けて、助けて、助けて

銀時が壊れた。
もう返事もしないし何かを言葉にする事もない。意識はあるし寝て起きる。そして食べるし瞬きもする。
だが返事はしないし反応も見せてくれない。

壊したのは俺の所為だ。
俺が壊した。
俺が原因でこうなった。
俺が気づかないでいたからこうさせてしまった。

今日も病院を訪れる。車で片道二時間もかかる田舎町の病院で、木造二階建ての小さな病院。丘の上にあるのでそこまで行かないと駄目だが、鍛錬と良い訳を考えて徒歩で行く。小道になるので車では進めないめんどくさい道が続くんだ。
季節な夏。蝉の鳴き声がじわじわ聞こえる。銀時は今日も窓からの景色を眺めながら動かない。

筋肉が衰えるのを防ぐ為にマッサージやリハビリもしなきゃなんねぇ。リハビリは医師や看護師に教えてもらった。それからは毎回俺がしてやってる。腕を伸ばしたり歩かせたり。まぁ歩かねぇけどな。俺が抱えて一歩一歩動かして歩いているように見せかけてるだけだけどな。

一度子供たちを連れてここへ来たことがあるが、2人共泣いてばかりで連れてこなきゃ良かったなと後悔したっけな。あんなわんわん泣かれると、本当そう思ったよ。それも銀時はただ見てるだけで、手を差し伸べる事もハンカチやティシュを渡そうともしないんだ。俺は別に良いけどさ。せめて子供たちにはなんかしてやってくれよ。俺が悪いのは分かってるけどさ、こいつら何もしてねーだろ?責めるのは俺だけにしてくれよ銀時。なぁ、マジで頼むからさ。

痩せたな銀時。
食べてるのにどうしてこんな腕になっちまうんだろうな。ちゃんとリハビリもしてるし、マッサージも受けてんのに。

医師は治る見込みはないって言うんだぜ。最悪じゃねーのそれ。冗談じゃねぇよ。治すのが医師の仕事だろ、なんでそう早々と諦めてんだよぶち殺すぞ畜生。しかもずっとここに置いても何も変わらないと思うから退院させてもいいとか言うんだぜ。何言ってんだよって話だ。見てあげて的な視線送ってんじゃねーヤブ医者共。それは構わねーが俺も一応定職についてんだよ。こう見えても公務員なんだよ。毎日ずっとって訳にはなんねーんだよコノヤロー。

医師も看護師も、子供たちも諦めて馬鹿じゃねーの?
お前等ずっと一緒にいたんだろ?
なんでそう簡単に諦めるんだよ畜生が。
マジでふざけんじゃねーよ。
苛々罪でしょっぴくぞテメー等。

誰がこいつに食わせるんだ?
誰がこいつを風呂に入れてやるんだ?
誰がこいつの手足をマッサージするんだ?
誰がこいつのリハビリに付き添ってやるんだ?
誰がこいつに今日の出来事を話しかけてやるんだ?
誰がこいつの着替えをさせてやるんだ?
誰がこいつの銀髪をくしで梳いてやるんだ?
誰がこいつにジャンプの読み聞かせしてやるんだ?

分かった全部俺がやってやる。
俺が勤務中の間はヘルパー頼んで、それ以外は全部俺が面倒見てやるよ馬鹿たれ共。

近藤さんも総悟もすげー何か言いたそうな眼で見てくるがもういいわ。
銀時が治るまでずっと世話してやる。
もし治ったってすぐに会わしてやんねーからな。

「なぁ銀時。まだ俺の事嫌いか?」

きっと返事なんてしてくれねーな、とか思いながら聞いてみる。
当然反応なんてしねー。ただ俺の顔を見てるだけだ。

「俺はお前の事嫌いじゃなかった」

こいつは万事屋に連れ戻した。車椅子を買ってやって、できるだけフラッシュバックしないような生活環境を整える。子供たちはまだ諦めた顔をして、俺が作業しているのを寂しげに見るだけだ。諦めるなよコノヤロー。まだできる事あんだから精一杯してやりゃいいじゃねーか。つーかチャイナ、お前の家でもあるしお前の世話をしてくれる奴なんだぞ。少しは手伝え馬鹿野郎。

無表情のまま聞く銀時は本当、人形のようだ。車椅子に座って病室よりも小さく狭い窓を、何の変哲もなく見つめてさ。銀時の前に膝をついて手を握って、ひざ掛けをの上に顔を伏せてみても駄目なんだ。
お前苺牛乳好きだから、苺柄のひざ掛けにしてみたんだ。眼だけ合わせてうんともすんともしねぇな。

「銀時」

瞬き以外何もしねぇな銀時。外はこんなに暑いのに、お前の肌は冷たいな。基礎体温を上げて温めないとな。

「きらい」

は?

「きらいきらい」

マジかよ信じらんねー。空耳じゃねーのかよあり得ねーだろ。今言ったのはお前なのか銀時。

「ひじかた、きらいきらい」
「・・・なんだとコノヤロー」

病院の連中は諦めてたぞ。もう駄目だって言ってたんだぜ?
こんな事あり得るのかよ。信じらんねーよ。

分かった、分かった銀時。辛いんだなやっぱり。今も、ものすごく辛いんだな?だけどお前必死にしがみついてるんだな?そうなんだろ?

「テ、テメー、散々、きっ嫌い嫌い言いやがって。うるせーよ、コノヤロー」
「ひじかた、きらいきらい」

助けて助けてって聞こえる。そうか、お前まだ差し伸べてるんだな?助けて欲しいんだな?分かってる、あの時からずっと分かってた。
笑ってる。構って欲しいんだろ?鼻つまむぞ可愛い顔しやがって。

「ひじかた、きらいきらい」
「へっ・・・!上等じゃねーか」




畜生、今更後悔しても遅いがヤバイ位にこいつが好きになった。本当は前からアレだった。けどホレ、アレだよ。好きな子をいじめたくなる的なリアクションしちまって駄目だった。
今なら素直に言える気がする。今なら素直に顔を見れる。銀時。なぁ銀時、寸での所で堪えてるんだろ?

助けてやるよ、構ってやるよ。嫌だと言う位そうしてやるからな。もう嫌と言う程側にいてやる。
畜生、マジで嬉しい。

「ひじかた、きらいきらい」
「あぁ?苺牛乳いらねーのか?」
「ひじかた、きらいきらい」
「分かったよホレ。口開けろ」

きっと他の連中からすれば「ひじかた、きらいきらい」の中にどんな言葉がこもってるか分かんないだろうな。けど俺は分かってるんだ。毎回同じ言葉だがその言葉の中に色々な意味が込められている。
それはきっと俺しか分かんねーだろうな。

「ひじかた、きらいきらい」
「おう。テレビつまんねーもんばっかだな」
「ひじかた、きらいきらい」
「まぁ真昼間からアニメなんて放送しねーよ。あ、今日は木曜日だから7時からポケモンやるぞ。ナルトも」
「ひじかた、きらいきらい」
「え、ヒルナンデスそんなにアレか?俺は好きだけどなぁ。ポケモンとナルト見せてやるから少し昼寝しろ」

万事屋は繁華街と離れているから基本静かだ。俺は空いた時間があればずっと銀時の側にいてやった。子供たちも静かにいてくれる。
24時間つきっきりの世話は流石に俺もできねーから、真選組辞めようと辞表を出した。近藤さんに殴られた。総悟にも殴られた。フルボッコ状態だった。
何故相談しなかった、とか言ってよ。また殴られた。まだ頬がいてぇ。
少し業務を減らしてもらって、俺が一緒にいられない間は子供たちが世話してくれる。銀時が言葉を発するようになってからは世話してくれるようになった。現金な奴らだわ。まぁ助かってるからもういいけどよ。

徐々ではあるが日差しは見えている。

あれから銀時は少しずつ反応の幅を広げてくれた。
笑って「ひじかた、きらいきらい」の他に、今日は手を動かしたんだ。笑って同じ言葉を言いながら、チャイナが積んできた花をきらいきらいって言いながら差し伸べようと動かしたって言っていた。
なんで勤務中でここにいない間そういう事をするんだよコノヤロー!!俺がいる間にしろよ畜生!!奇跡を目の当たりにできなかったじゃねーか!

「ひじかた、きらいきらい」

なんだ、と返事をするとまたそれを言う。
銀時は笑っていなかった。どうした、と同じ目線になって尋ねてみると、何も言わなくなった。

「銀時?」

どうした?腕を伸ばしたんだろ?
今日。あの花瓶の花、花瓶に挿す前、チャイナが持って来た時手に取ろうとしてたって聞いたぞ。
どうしたよ銀時。笑えよ、嫌い嫌い言えよ。返事しろよ馬鹿。

「ほら、嫌いって言えよ銀時。俺の事嫌いなんだろ?嫌いってそう言えよ!」

やべえ。また振りだしに戻ったのか?言ってくれたじゃねーか。言えよ銀時。嫌いって言えって!!

「き、」
「そうだよ、続けろよ。笑えって!」
「ぅ・・・き」
「ちゃんと言えって、嫌い嫌いって!」
「す、き」
「・・・・・は?」
「とし、すきすき」
「――――――は!!?」

笑って違う単語を言う。手を差し伸べてくれる。思わず両手ガシっと取って握ってると、もっと差し伸べてくる。
顔に添えてそう言い出す銀時は笑ってる。

「トシ、助けて・・・・痛い・・・・」
「銀・・・」
「毎日が辛い・・・・大きな音が痛いっ、ひっ痛い、痛い・・・ひぐっ」

笑いながらこいつは泣いていた。喋り方が元に戻った。ちゃんと、意味を込めてそう言っていた。まだ大丈夫だ。

まだ大丈夫だ。
諦めなくて良かった。
まだ、戻せるってそう思った。
守ろうと思った。
手放すまいと思った。
近くにいようと思った。
側にいとうと思った。
こいつを背中に置いて全ての盾になろうと思った。

助けると誓った。
救うと誓った。
絶対にそうしようと誓った。
今この瞬間。

「分かった、助けてやる。必ず助ける、お前を守る」
「ひっ、トシっ・・・」
「だからもう笑わなくていい。素直に泣いて良い。ここにいるから、俺はお前の近くにいるから」
「嫌いなんかじゃないの、助けて欲しかったのっ・・・」
「あぁずっと前から知ってたよ。助けてやれなくてごめんな」
「ひっ、ひっ」
「今までよく頑張ったな、もう泣いていいんだ」
「ひぐっ・・・うえぇ、ヴぇぇえ・・・!!」

笑顔が消えてクシャってなった。車椅子から倒れこむようにこっちに向かって身体を傾けて。尻もちをついて床に座ると、銀時は大声で泣いた。
うはー耳元で泣かれると結構うぜーな。構わねーけど。
あぁマジで諦めなくて良かった。こいつが諦めてる間諦めないで、こいつがまた頑張ってみようと思うまで踏ん張って良かった。

カウンセリングと投薬治療、色々な事をしてやっと銀時は元に戻ってくれた。
本当に元に戻った。
笑うし怒るし悲しむし泣く。

まぁカウンセリングと薬飲んでも全部が綺麗に治る訳じゃねぇ。爆音や地鳴りがどこかですれば、銀時の心は軋んでしまう。その度に抱き締めてやって、震えが止むまで一緒にいる事が近道らしいんだが。
一生モンらしい。こういう後遺症ってのは。

「信じらんねー!ジャンプ売ってたのに買って来なかった訳ぇ!?」
「買ってきてるとつい」
「ナルト最終回だったんだからアレ!今週だけ何処も売り切れ続出でヤバいのに!」
「あーそうなのか大変だったな」
「土方嫌い嫌い!!」
「お?構って欲しいのか?オラこっち来いや。ぎゅってしてやるから」
「ちげーよ馬鹿!今のは本当に嫌いって言ったの!!」
「構ってほしいんだろ。ほらぎゅってしてやっからほれほれ」
「やーん!違うってばぁぁぁぁ!!つーかどこ触ってんだえっちぃ!本当に嫌いなのぉ!」




+++++アトガキ+++++
本当は「嫌い、嫌い、嫌い」のままバッドエンドで終わらせようと思いましたが、pixivの方でリクエストを頂きましたので急きょ仕上げてみました。リクエスト頂きありがとうございます!
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