小説 | ナノ

 You had it coming

事件の種類によって被害者が出やすかったり出にくかったりする。
強盗や殺人、事故によっては通報も迅速ではあるが、性犯罪やひき逃げ事故、万引き、孤独死に至っては発見が遅い。遅れて発見されたり、気が付いて通報してもすでに犯人というものはその場から立ち去り被害者側は諦めてしまう事が多い。
しかし性犯罪に至っては被害者本人が通報や被害届を控え、警察に届けずに泣き寝入りで終わる。

土方は自分の中ではそんな軽い格好をして夜道をふら付く者も半分は悪いと思っていた。巡回し夜道のどこかに異変がないかを見まわし確認しつつ、真っ暗な空を見上げてそう思う。よく言う「自業自得」だと。華美な服装をして一人夜道を歩き、酒の回った足フラリフラリと闇へと進んでゆくのだ。足も見せ胸も見せ誘うかのような格好で色目混じりの視線と誤解するような酔い痴れた視線を向け、頬を赤らめれば誘っているようにも見えてしまうだろうし、本人がその気がなくともそう見える状況を作ってしまう。犯人も悪いが本人も悪い。土方はそう思っていた。
路地裏で人影を見つけて、それが見慣れた人物だと知るや声をかけてみる。相手はよく知る人物だった。路地裏の陰に隠れるように膝を抱えて、自分が手にする懐中電灯を向けられると、相手は手で顔を覆い眩しい光を避けるように顔をしかめる。

「お前、万事屋か?」

相手は何も返答しないでただ、顔が見えるのを避けるように陰の方へと顔を向けている。何をしているのかと疑問に思った。こんな小汚い地面に座り、家の中のように膝を抱えて冷たいコンクリートの壁にもたれているのだから。反射的に近寄りながら色々思う。酒に酔って吐き戻しでもして休んでいるのだろうと。ただそれとはまた違うらしいのだ。酒の匂いもしなければ本人の頬も赤くない。いや赤かったがそれは酒を口にして体温を上げているものとは違う。

「っ―――お前・・・何された!?」

銀時の着物は着直されていたが明らかに分かった。流水模様の白い着流しが薄汚れ、最低限その汚れを叩き落とした跡が見えた。いつも半分脱ぎ晒す右腕も見えず、そちらも着直して膝を抱えている。周辺を照らして分かった。倒れている男が数人、首元に指先を添えて確認してみると幸い呼吸と脈拍も確認できた。
そこへ移動して銀時を見る位置が変わる。正面から見ると、明らかに暴行を加えられたものだと把握した。驚いた顔を向けると銀時は視線を外しているが、懐中電灯の光で下から反射する肌は痣だらけ。

「こいつらにやられたのか」
「通報しようとは思ってたんだけど。俺携帯電話持ってないから・・・・」
「待て、今救急車と仲間を――」
「いいって帰る・・・」
「馬鹿野郎が!明らかに暴行受けてお前は怪我してんだ!それにお前にも話を聞く必要があんだろ!」
「あ、歩いてたらここに引っ張られて殴られただけ・・・」
「ちょっと待ていいから。お前はここで休んでろ、動くんじゃねーぞ」
「か、帰らせてって・・・」

仲間を呼ぶ、救急車という単語を聞いて銀時が立ち上がりどこかへ行こうとした。帰る帰ると連呼しこの姿のまま帰ろうとするのだ。土方は肩に手を置いて制止しようとするが銀時は抵抗する。そんな事をしている内に、ふわり。

男の臭いがした。

生臭くねちっこい鼻につく嫌な臭い。

土方は悟る。まさか、という表情をして銀時は目を見開きはっとした。

「ち、違うかんね・・・そんな事されてないからね」
「一人に対して三人で襲いにかかったのか、こいつ等・・・!」
「大丈夫、もう動かないから。てかこれ正当防衛だからね・・・」
「過剰防衛だろ」
「よしてよ・・・結構傷ついてんだから」

心なしに震えている。土方はジャケットを脱いで銀時の肩にのせた。ビクリとするが大丈夫だから、と言い聞かせて落ち着かせる。胸元にすり寄り、銀時は痛みに耐えるような、必死に泣くまいという顔をして笑っていた。

「ねぇ土方くん」

彼は結局送った。仲間を呼ぶ事もせず、万事屋に銀時を送って傷の手当てを続けている所そう呼ばれる。作業を続けながら土方は顔を少しだけ上げた。

「土方くん、俺の事どう思う」
「・・・は?」
「自業自得だよね。てか俺がこうなるなんて俺自身も予想だにしてなかったんだけど・・・なんかあいつ等さ。誘ってる顔なんてしてんじゃねーよ≠ニか言いながら突っ込んで来たりして・・・意味分かんないんだけどさ。俺誘ってるような顔してる?」

今、と添えて目を合わせてくる。
土方は包帯を巻く作業さえ止めてその視線を合わせた。首をかしげていや、と言うが銀時は納得したような顔をしていない。

「抱いて、とか言ったら殴る?」
「なんでだよ」
「こういう嫌な思い出潰してほしいから・・・あ、やっぱ嫌だよね。へへ」

無理矢理笑うのが耐え切れなくて土方は口を重ねた。土方は自分の中ではそんな軽い格好をして夜道をふら付く者も半分は悪いと思っていた。

まだ抵抗しようとしたが、銀時はそれを受け入れて襟元に手を添えて少ししてからお互いが離れる。

「嫌だとか思うんなら、そんな相手に隊服貸すか?」
「誇りだもんね・・・」
「こっち来いよ。忘れさせてやるから」
「ん・・・・っ」

自業自得なのは自分の方だ。
性犯罪の被害に合う相手を知りもしないで色眼鏡で判断していた。
大切な人がこうなって初めて思う。

人間、体感してみなければ納得しないというのは本当らしい。


****補足*****
You had it coming(あなたは当然の報いを受けた/ざまぁみろ/自業自得だ)

prev next


[ back ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -