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 鬼も内、福も内。

節分の季節だ。節分の日は嫌いだ。何が嫌いかって、色々あるだろほら。豆は味しないし食べ物を粗末にぶつけるし。落花生とかなら後で拾って皮をむいて食えばいいけどさ。落花生じゃない豆も使う訳じゃんよ。食べ物は粗末にしちゃいけないとか父親母親が口を酸っぱくして子供に言うけど。この日だけはどんどん投げなさいってスタンス何?

おかしくね?あり得なくね?ざくねざくね?あ、これやっくんか。

豆じゃん豆。豆投げつけるってどうよそもそも。たかが豆だがされど豆だろ。大豆ってすげー栄養ある上にバリエーション豊富な食い物にも関わらず、納豆や豆腐、味噌もやしなんかになれる将来を期待された精鋭を投げる奴だっているんだし。あり得ないわ豆投げるのはあり得ないって。

あとこれ重要ね重要。

豆を投げるのも許せないが「鬼鬼」連呼するガキ等がうざい。

うちの子含めて日本中のガキ等が許せない。勿論俺一人に向けて言ってる訳じゃなくて縁起を担いで執り行う習慣な訳で。伝統行事ですよ伝統行事。だけど食い物は粗末にしちゃいかんでしょ。豆は食い物です、粗末にしてはいけません。後鬼鬼連呼も止めて下さい。鬼鬼連呼されると今は大人だから傷つかないけど完全に駄目です俺。

言われて気が滅入ったらとことん思い出してズルズル引きずって調子悪くなるから余計に性質が悪いです。

駄目だよ食べ物を粗末にしたら。

昔と違って今は平和だけど、何もない時代は食べ物って本当貴重だったんだから。酷いよホント。

食べ物投げつけて福を呼ぶ行事ってあり得なくね?

豆も鬼も嫌い。

あぁ嫌だ本当嫌だ。

節分ってあり得ないわマジで。

畜生外も出歩きたくねぇよ。

「銀ちゃん、今日は節分アル。福をどんどん入れるアル」
「うっせえ。節分も豆も鬼も俺の前で連呼すんなマジで止めろお前の事食ってやるからそれ以上言うなば神楽」

ほらほら、ほらこれだよ。
子供って覚えが早いし何にも興味持ってさ。色々吸収して大人の階段踏んでいくんだろうけど節分関連については俺嫌になる。あー嫌だ。今はさ、俺大人だからそんな簡単に「鬼」だの色々言われてもそう簡単に傷ついたりはしねーけど。銀さんそんなに弱くないから、強いから、いつまでも引きずらないから。でもこの日だけは嫌だマジで嫌だどれ位嫌かって、幽霊だの亡霊だの悪霊だの、ホラー漫画心霊動画をランキングにした特番位に嫌だから。今は簡単に傷つかないけど嫌なんだよマジで。昔思い出してこう胸の中がぎゅってして。この感覚本当吐き気がするんだから。

「銀ちゃん」
「何」

何なのこのクソガキ。鬼はー外ぉ福はー内ぃって言いながら豆投げてくるんだろ。もう寝かせて。ジャンプ顔にかぶせたまま寝かせて。

「福も鬼も呼ぶアル」
「は?」
「鬼はー内、福もー内」

そう言ってチクチク、ちまちま痛いものが投げつけられてああもう嫌ってなる。ジャンプの上にバラバラ何かが落ちてくるよ。何鬼も福もどっちも呼ぶの?この子。掛け声覚え間違えて帰ってきたの?

「何これ」
「見て分からないアルか?いちごみるくヨ」

あれだよ三角のあの飴。包装紙をクルクルって左右に引くとあの素晴らしいピンク色が出てくるあの甘くて昔から大ヒット変わらぬ味のアレですよ。一個くらい食べちゃおうか。これマジ美味しいよね。

「なんで豆じゃねーの。あとな、掛け声は違うの神楽ちゃん。それ全然違うのよ、いいですかよく聞きなさい。節分はね『鬼は外福は内』って言いながらお豆を投げるの」
「私は鬼を追い出さないアル」
「・・・」
「銀ちゃんいつもこの時期ズーンってするから鬼は追い出さないヨ。鬼も福も家に入れるアル。銀ちゃんを追い出したりなんかしないヨ」
「あ、っそう・・・・」

畜生が気を遣いやがって。ガキの癖に。

「ほら銀ちゃん、節分しよう節分。そーれ鬼はぁ内ぃー福も内ぃー」
「あっあっ。いちごみるく・・・」

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