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 悪魔が怖いなんて、君は幸せ者だよ

見上げた看板には「万事屋晋ちゃん」という大きく達筆な文字が目に入る。銀時は鼻を鳴らして通り過ぎた。万事。要は何でも、という意味なのだろうが、果たして物売りか。それとも何でも引き受けるという事か。銀時は後方を思う。このご時世、物売りで養える商業ではないのは分かっていた。
江戸は廃れた。
天人来襲の後掌返しで幕府は降伏。事実上天人に牛耳られたこの世をどうにかしようと攘夷活動は続けて来たが、あいつはこんなものをやっていたのかと。

「遊びに行ってみようっと」

無邪気な笑みを浮かべて銀時はその看板を再度見上げた。


「テメェどこから入って来てんだ」
「どこからって、窓から」

銀時は背中を向けているそいつに、半開きの窓に身を乗り出して中腰で答える。相変わらず背を向けたままだが、彼の表情は手に取る様に分かってしまった。銀時は履物を脱いで「よっ」と声を出しながら足をつける。グルリと見渡して、一言「狭い部屋」と呟いた。

「で?何の用だ」
「何、用事がないと来ちゃいけねェの?」
「一応仕事なんでな。依頼がねェと入れねェんだ」
「へェー。江戸廃れたなぁって思ってたけど、お前も廃れたね」
「黙れ。舌切るぞ」

数歩グルリと一周して、銀時はデスクに腰掛ける高杉の前に来ると膝の上に身を乗り出して、彼の背中に腕を回し座った。ずっと高杉は無抵抗で、払いのける事も拒む事もせずに受け入れるが、口は相変わらず悪いらしい。

「過激派攘夷志士、白夜叉様が何の用だ」
「いいじゃんよーケチな事言うんじゃねェよ。で、ここ何やってんの?」
「看板見なかったのか。何でも屋だよ」
「まっさかぁ。晋助がそんなのほほんとした商いで収まるタマかよ。俺が聞いてるのは全部の意味だよ」
「フ、察しがいい奴。本当に何でも屋だよ。表でも裏でも、掃除でも斡旋でもなんでおしてやるって事だ」
「やっぱり―――じゃあさ、俺が依頼出したらそれ引き受けてくれるの?何でもしてくれるんでしょ?」

無邪気でのほほんとした声を出す銀時だが、実は先程高杉が言ったように彼は過激派攘夷志士。要は破壊活動を主とするテロリストだ。攘夷戦争の折白い装束に身をまとい敵陣に突っ込み、天人の返り血を浴びながら特攻していった誰もが知る伝説の白夜叉。
まだ年齢は幼かった。大人になり切れていない年頃だったのに、戦争に参加した。
そして、多くの者、物を失い絶望してこの地球を出て行ったのだ。
幼い故の未成熟な頭と身体故に絶望し、落胆した世界を潰そうと未だにこんな事をしている。
好きな人を残して。

「テメェと一緒に破壊活動でもしろってか?」

同年代にも関わらず高杉は大人びいており、あの時傷ついた左目を世から封じている。銀時はそんな高杉が羨ましかった。少し考え、銀時はうーんと小さく唸って、それを否定する。

「それもいいけど、どうしようかなぁ」
「依頼は考えてから言えや」
「もーうっせェ。先生かよ」

暫く考えて、銀時は思いついた。

「じゃあ、」

銀時は高杉の耳元に唇を近づけて、囁く。その返事に高杉は顔を少しズラして、視線をからませて、ニヤリとした。

「お安い御用だ」

高杉はすり寄る銀時を自分側に引き寄せて。首筋に噛み付いた。

―――”俺と燃えてよ”




++++アトガキ++++
むっちゃショート。ごめんなさい。
スーさんのリクエスト品。「万事屋晋ちゃんと過激派銀ちゃん」でした。
っていうか小悪魔。すげえ小悪魔。誘い受けなりました。ごめんなさい。本人様のみ煮て焼いて好きにして下さい!リクエストありがとうございました。

たまにはこんなショートもいいじゃないか委員会発足。
(タイトル:檸檬齧って眠る様)

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