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 甘やかな言葉を蹴飛ばして

先生が生きている頃は、いつも先生の後ろに隠れてる控えめで引っ込み思案なガキだった。先生の服を掴んで、先生がそうっと諭して優しく外に導いてくれて、それでやっと銀時は遊んだり、俺達と出会う事が出来て。元々身体が余り丈夫じゃないようで、銀時は公園で遊ぶにしてもいつも腰掛椅子に座っていたり、遠くから俺達が遊ぶ姿を見ているだけだった。
手を伸ばすと、銀時は恐る恐るそれに乗せてくれた。
銀時はとても、白くて、弱くて、掴んだら折れそうな身体をしていた。

守ろうと小さいながらも決意したっけ。
あの頃の誓いは、何故か高校生になった今でも自分勝手に刻んでいる。

銀時が何でも一人でやって、完璧を求め始めたのは先生が亡くなった直後だった。



「凄いなー坂田。将来は大物になるんじゃないか?」

テストの結果が返す際、教諭の言う言葉はいつもそれだった。銀時はクラストップの成績を保ち、言う言葉は決まっている。銀時ははにかんでそれで終わり。来た道を戻る間も、座って少ししてからも他のクラスメイトは銀時を冷やかした。

「俺ね、将来医者になりたいんだ」

銀時は屋上昼飯を取るといつもそう言っていた。今まで守ってくれていた人がある日突然いなくなって、銀時はそれから一人で何でもやるようになった。弁当は勿論だが、残された住まいを死守する為ある必死で沢山のアルバイトを掛け持ちして。
時折息抜きに自分たちが集まって遊びに連れて行こうとしたが、銀時は小さく笑って消える。俺達揃って銀時はがむしゃらに頑張っているだけに見えて、少し痛々しくて仕方がなかった。

小さい頃銀時の身体は余り丈夫ではなかった。だからそれが災いして時折学校を休んだ。一人部屋の中、布団に潜って咳き込んでも誰にも助けを求めない。そんな銀時だから俺達は順番を決めて銀時を看病したりして。銀時はそれが迷惑か、どう思っているかは知らない。聞いた事もない。

ただ、俺も、坂本も、ヅラも。
小さい頃の弱い銀時を知っていたから、折れそうな腕をしていたのを見ていたから。
どこか俺たちの知らない所で倒れて、折れてしまったら。

そう思うととても怖くて怖くて仕方がなかった。

とてつもない恐怖だった。

「高杉、いつも俺の周りでコソコソしてると疲れるだろ。もう俺大丈夫だよ、いつまでもガキじゃねぇしさ」

ある日の開口一番。坂本、ヅラも側にいた。続けて二人にも同じ事を言う。

「ありがと、今まで。でも俺もう平気だから」

華奢な身体の銀時は、いつもに増して白く見えた。

銀時にとっては迷惑だったのかもしれない。銀時の気持ちも知らないで、銀時の意見も尊重しないで。倒れたり調子が悪そうだったら側にいてやったりした。背中を摩ったり、付き添って登校したりして。

「一人きりでなんちゃーこたうと思っちゅうろうか。ほきもカバーしきれん事だってあるろうに」
「倒れそうになったらそれでも力は貸すだろ・・」
「それが銀時にとって足枷になってもか?」

もし、今までしてきた事が銀時にとって手枷足枷になっていたら?
顔には出さないで、笑顔の裏で迷惑だと思っていたら?

小さい頃と比べたら、銀時は強くなったと思う。だがそれは見かけや身体がちゃんと自分たちと同じ所まで追いつこうと走り寄ってるだけで。中身は丈夫ではないし体調はよく崩した。それでも銀時は皆と同じラインまで走って足掻いている途中なだけで。

放課後、三人とぼとぼと昼間に言われた言葉ばかり思い出して肩を落として下校していた途中。銀時が路地の端で蹲ってそこにいた。血の気が引いた感じがして、ワザリと背筋が一瞬にして冷えた。

「銀時じゃ!」

夏服。半袖と学校指定の黒いズボン。俺達も同じだった。同じ服装なのに銀時だけ何故か寒そうに見えてしまう。走って木陰に連れて行った。坂本が冷たいものを買ってくると言い、ヅラがその先にある公園でハンカチを濡らしに行った。俺は教科書やノート、何でもいいから鞄をひっくり返して夢中で銀時を仰いだ。下敷きじゃ音が煩くて、教科書は持っていると重くて疲れた。ノートでバッサバサ煽いで、銀時がそんな慌てる俺を見て「必死顔」と指さして笑う。

「ちょっとバテただけだって、大袈裟」

ヅラが冷やしたハンカチを額に乗せて、坂本が冷たい清涼飲料水を飲ませた。背中を支えて楽な姿勢を取らると暫くして銀時はいつもの調子に戻ったが、その時三人ハッとして。

しまったと思った。

また銀時に手を貸して、はた迷惑に世話かけてしまった。
気が付いた時にはもう後の祭り。

あぁ、どうしようと途方に暮れていたら、銀時は意外にも笑ったままで。俺達は互いの顔を見合わせてそれの意図がつかめなくて。

「俺さ、先生がいなくなってから、一人でやりきろうって思ってたんだ。けどさ、やっぱ一人で生きていくってできないもんだよね。なんか、お前等に迷惑かけちゃってて、気が付いたら来てくれないかなって期待してて・・・なんか、強がってて恥ずかしいや」

ヅラの濡れたハンカチの上に手を乗せて目元を隠しながらそう言った。いつも以上に銀時が小さく、白く、弱く見えて思わず視線を一瞬逸らしてしまったが。再度見直して、改めて見てみるといつもの銀時がそこにいた。

「何をゆう、恥なんかがやない。銀時はただ視野が狭まっちょったがばあだ現にこうして、ちゃんとワシ等を見渡す事が出来ちゅうろ?」
「あぁその通りだ。強がらずに俺達に気軽に肩を貸せ銀時。俺達はその為にいるのだから」
「気にすんな銀。お前に足りないものは俺達が持ってる。代わりに俺達に足りないものはお前が持ってるんだ・・・・遠慮なんてしねぇで気軽に頼れよ」

銀時ははにかんだような笑みを浮かべて、一口コクっとポカリを飲んだ。

「ありゃ?ワシがこうてきたんはアクエリアスながに。いつの間にポカリらぁて」

坂本は銀時の手元に置いた清涼飲料水――アクエリアスを手にした。銀時は「お前が買ってくれた奴じゃねぇの?」と聞いたが再度彼は「いんや、ワシはこっちをこうてきて・・・」といつの間にか置いてあるポカリの存在にきょとんとしている。

銀時は周りを見渡して、何かを悟り再度ポカリを口にした。

「えへへ」

満足そうに銀時が笑み。見守る俺達四人も、それにつられて笑っていた。





++++アトガキ++++
こゆめさんからのリクエストで学パロ「病弱体質だけどそれを周りに悟らせないように振る舞う銀ちゃんと それをサポートする攘夷組」でした。攘夷組です。ポカリですから!
実は塩うさぎさん運営なさるお題サイトの「檸檬齧って眠る」様の企画で考えて下さった素敵お題をお借りしています。こゆめさん、こんな感じに仕上がりました。煮て焼いて好きになさって下さい!リクエストありがとうございます!!
(title:檸檬齧って眠る様より)


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