小説 | ナノ

 姑気分で様子見したら完璧な嫁だった

遠慮なく銀時は船に乗り込んだ。手にはちょっとした荷物を提げて。
別に「来い」と言われた訳でもなく、例の荷物を「作れ」と言われた訳でもない。

―――好きな人に会いに行くのに理由が必要ですか?

昨日神楽が見ていたドラマの人がそう言っていた。ブラウン管の向こうで女性が言った一言で動いたわけではないが、軽く背を押してくれたような感じ。それを見た時、「あぁそうだな」と心で返事をして考えて思い立ったのだが、自分から何も連絡もなしに来てみたのはあまりしない行動。だけど今日はちょっと会いたくなって、作ったものを渡したくて会いに来てしまった。

「高杉くんいます?」

ヘッドフォンを耳に当てているサングラスの男を見つけて声をかけてみる。

「む。主の嫁が来たでござるよ晋助」

彼はあぁーと何かを納得して頷き、呟いた言葉に自分は顔を真っ赤にした。手を添えながら少し大きめな声でそう言うと高杉は近くにいたようで、すぐにこちらに来てくれる。何も聞かされていないので向こうは驚いているが、またいつもの静かな顔立ちにすぐ戻る。思わず手に持った荷物を後ろに隠して俯き、口を思い切りへの字にくねらせた。

「珍しいじゃねぇか、お前が呼んでもいねぇのにそっちから来るたァ。空から火がついた槍でも飛んでこねぇといいがな」
「会いに来るのに理由が必要ですか」
「それ昨日やってたドラマで流れてたな」
「・・・っっ!!!」

しまった。

銀時はそう思う。喉が引きつって声にならないおかしい声が漏れた。そうか、だからか。とかブツブツ言いながら高杉はニヤリと笑う。楽しそうに喉で笑うものだから、銀時の拳はフルフルと震えていた。クックックと喉を鳴らして笑いながら全てに納得した高杉は、眼が泳いで震える銀時に手を差し伸べた。

「“そうだね。君が素直じゃないから余りにも珍しかったよ”ってか?」
「やっ・・・!!やだちょっとっっ」
「あぁ?ちげェのか?」
「か、帰ってもいいんだからんね!俺このまま帰ってもいいんだから!」
「オイオイ。わざわざ来てくれたんだろ?だったら寄ってけよ」

高杉はグイ、と銀時の二の腕を掴むと引っ張る様に先へ進む。気を遣う為か、後ろにいた万斉が再度大きめの声でそこにいた乗組員や鬼兵隊の隊員に言い放った。

「皆の衆。これより総督の部屋には暫く寄りついてはいかん。夫婦の時間を邪魔すると殺されるやも知れんでござるよ」
「うるせェェェ!!つーか人と話すんだったらヘッドフォン取れや馬鹿野郎!」

万斉に指を差して叫ぶと、隣の高杉が「人を指さすなよ」と笑いながらまだ愉快そうに言う。廊下を進んでゆくと時折乗組員や隊員とすれ違った。その度に彼らは「あ、総督の嫁が来た」と微笑ましく呟いたりして避けて行く。しかもその途中で放送までかかる始末。ヘッドフォン野郎の声で改めて全乗組員用に「総督の自室に入るのは控えろ。嫁が来てる」と流れるものだから銀時は耳を抑えたり高杉をポコポコ叩いた。

その途中戦略担当である武市と会った。口に手を当てて笑むのを見せまいとしているのだろうが、笑っているのが丸わかりだ。また銀時は顔を赤くして高杉の腕に絡める手に力こめて、ぎゅううっと握りしめるしかできなくて。

「おやお嫁さんがいらしていたのですか。晋助さん、お昼ご飯を持ってきたのですが・・・どうします?」
「嫁じゃねェつってんだろロリコンが!つか紅桜ん時の神楽への視線がキメエんだよ!テメエ神楽に何かしたら俺が許さねェからな!分かってんのかコラっ」
「ロリコンじゃないフェミニストです。ついでに美しい男性同士の恋愛も好きです。例えば黒髪総督と銀髪美人の・・・・・・ゴフォッッ!オブっ!!」

またここでも嫁とか呼ばれた上、ロリコンが趣味という気色悪い男。おまけに眼もイッている。更に自分たちへの思いがけない生暖かい視線に銀時は限界を超えてしまった。気が付けば木刀でボコボコと滅多打ちにされているが特に引き止める訳でもなく、彼を雇う総督の高杉は銀時が床に置いた荷物をそうっと持ちながらひたすら傍観。

「死ね、死ぬのだ!社会のゴミめ!このやろこのやろ!」
「銀時充分だろう。いいから昼飯行こうぜ」
「あっそうだ。あのそれ・・・俺も持って来たんだ。そ、その・・・弁当」

思い出したように、銀時はいつの間にか高杉が持っている荷物を指さす。中身の正体を知るや、一度高杉はきょとんとし、納得してフ、と軽い笑みを浮かべ手を引き先へ進んだ。まだ興奮しているのか、銀時は武市への怒りをブツブツ呟いている。

「キメエ!何なのアイツ!晋助あいつ解雇しろよ」
「まぁ確かに趣味は悪いが頭はいいんだ。そう邪険にすんなよ」
「晋助って相変わらず鬼兵隊には甘いんだから・・・」
「お前に厳しくした事あったか?」
「ない・・・」
「ほら折角の飯が不味くなるだろ。お前の手作りなんだろ?食わせろよ」

高杉は地上にいれば空や景色が、地上遥か彼方にいる時では銀河が見渡せるエントランスに招待する。銀時は顔を赤らめながら、テーブルの中央に置いた紫の風呂敷をそうっと解くと、中からはお重箱が姿を現した。上から順に箱を左右に置いてゆくと、オーソドックスに卵焼き、ハンバーグ、から揚げ、大きめの握り飯、漬物、デザート用に果物を手頃なサイズに切り分けた小さなタッパまで用意されてある。

「驚いたな。ピクニックにしては豪華じゃねェか」
「べっ・・別に。いつも俺んちって基本大量に作り置きしねーとなんねェの。ほら、神楽すげえ食うから。あ、あの・・・ガキ等とか用の味になってるかも知んなくて、えっと・・・不味かったら持ち帰ってガキ等に食わせるからアレだけど・・・もし美味しくなかったら言って・・ハンバーグとか漬物は手作りだから・・・」
「お前いい嫁になるな。若いうちから漬物上手なんざそうそういねェぞ」
「お前まで嫁とか言う!?」

また銀時の顔がボアっと赤くなって、よく見れば耳まで赤いのが把握できた。小さな事にいちいち激しく反応して色を変える銀時がとても面白くて、可愛いものだから突っつかずにはいられない。しかし先程自分が言ったセリフは決してからかう為のものではなく心の底からの本音なのだが。銀時は分かっているのだろうか。

「頂きます」
「あ、そこはアレだね。なんかちゃんとしてて偉い」
「うるせェな。元は俺もお坊ちゃんだから染みついてるんだよ」

手を合わせて「頂きます」と言った後は、高杉は自分用に用意された手製の昼食をひたすら食べる。銀時は自分も昼食をとるのを忘れ、食べる様子をマジマジと見つめた。視線には気が付いていたが、いい加減気になって仕方がないので「超うめェ」とだけ返事をして箸や紙皿を手渡しておいた。お前も食えよ、と言うとハッとして銀時もおずおずと食べ始める。

「水筒に麦茶とお味噌汁入れてきたんだけど、どっちがいい?」
「断然味噌汁」
「おっけー。熱いから気を付けてね」
「ん」

昼食中、資料なのか、紙束を見ながら女の子がやってくる。始めは「晋助様この戦略の武器はどこから・・・」と言いかけ、二人の様子にハッとして立ち止まりしまったという顔をする。

「すみませんっス晋助様!あ、そういえば白夜叉・・・じゃなくて銀時様がいらっしゃったのを放送していたのに。あ、あの後でまた来ます!」
「待って」

金髪でミニスカートの女の子。また子がヤバいという顔をしながら出て行こうとしたら、そこを銀時が引き止めた。オドオドしているが銀時はニコリとほほ笑む。

「また子ちゃん、良かったら一緒に飯食わね?晋助いい?」
「好きにしろ」
「わーい。ほらほら、こっち来てよ、いっぱいあるから沢山食べて」
「え・・・でも」
「総督様が好きにしろって言ってんだから。それに早くしないと晋助と俺が全部食っちまうよ」
「・・・やった!」

そういう訳で三人で小さな昼食会。それを影から呼ばれないメンバーが眺めた。

「羨ましいです。白夜叉のお手製弁当・・・」
「主が出会い頭に気色悪い事を言うからでござる。お主からはそれはもうおどろおどろしい音楽しか流れて来ぬ。非常に耳に痛い」
「そんなあなただってお呼ばれされていない癖に」
「拙者はちょっと、ほらあの・・・真選組奇襲で特に嫌われてしもうて」

また子の反応を見れば、どれ程その弁当が美味しいのかが分かる。彼女はいちいち激しいリアクションをして見せるものだから、とても羨ましくて仕方がない。影から盗み聞ぎすれば、漬物までお手製だと言う。湯気が溢れる味噌汁をゴクリと飲むのを見ると、自分たちの腹もぐう、と鳴ってしまっていた。

「お腹空いてきました」
「拙者もでござる」
「じゃあ一緒に食う?」

隠れていた壁の角からひょこっと顔を出した銀時に二人は驚く。ひゃっと驚くと気配を絶ちここまで自分たちも気付けなかった不覚、銀時ののほほんとしているその陰で見え隠れする鋭い眼光に縮み上がってしまい。流石白夜叉だ、と改めて自覚してしまった。

「けどそこのロリコンは神楽と俺達に変な視線送らない事。そこのバンザイ君は食事中位ヘッドフォン取って食うなら呼んでもいいよ」
「か、畏まりました・・・」
「しょ・・・承知したでござる。あと白夜叉。拙者はバンザイではなく万斉でござる」
「細かい事気にすんなよ女々しいな」
「いや全くもって細かくはないと思うのだが・・・」

こうして銀時お手製の弁当を広げて鬼兵隊上層部のみがありつける食事会となった。紙皿は人数分揃っていたので、いずれは皆も招待してくれる予定だったらしい。よく見れば握り飯も10個ずつ用意されていたりして。また子や高杉がそれはもう美味しそうに食べるものだから、万斉は早速握り飯を片手にふんだんに敷き詰められたおかずを口に入れると頬が落ちてしまいそうな衝撃を受けた。

「うっ・・・!春巻きが美味・・!!」
「当たり前だろそれ冷凍モンじゃねぇもん」
「白夜叉のお手製春巻きでござるか」
「おう。あと咀嚼20回な。手汚したらここにおしぼりあるから」
「用意周到な嫁でござる・・・完璧すぎて指摘する要素が何もない」
「オイ。それ以上嫁嫁言うと食わせねぇぞコラ」
「銀時・・・今度は二人きり用のを用意しろ。これじゃあ煩くて食えやしねぇ」
「食べながら言うな馬鹿杉。飲み込んでから喋りなさい・・・・ほらぁここ零してるしさぁ。シミんなったらどうすんのだらしねぇなもう」

口元やら着物やらをせっせと拭いて汚れを落としたり。おかわりしたい人ようにおかずをよそってくれたり。本人は否定しているがそれはもう完璧な嫁で。

「それで銀時様はいつになったら晋助様の嫁になってくれるんスか?てか漬物超うめェ!」
「女の子がうめェとか言っちゃ駄目でしょ。あと嫁じゃない!」
「あ。超美味しいっス!え、何で?何でー?晋助様の嫁になってくれたらこれ毎日食べれるのに・・・私毎日これ食べたい」
「晋助用の飯がなんでみんな用になってんの」
「お母さんおかわり下さい」
「うるせェ!誰がお母さんだロリコン野郎!まだおかず残ってんだろうが!その皿の全部食ってからじゃねぇとやんねぇぞ。好きなもんばっか食ったら栄養偏るから野菜類も食えや」
「十分お母さんでござる」
「馬鹿言うな万斉。俺の嫁だ手出すんじゃねぇぞ」

ポコポコと高杉を叩いて時折ムキーと怒ってみたり。

そんなわいわいと賑やかな昼食会はその後お開きになったが、銀時の手料理が非常に評判が良く、時折それからこんな昼食会が開かれるようになった。他の鬼兵隊隊員や乗組員にも広がったが、上層部の者たちしかありつけない手料理を目的に影からのぞき見する者たちが溢れたとか。

「銀時・・・この弁当俺用なんだよな?何で影からのぞき見する隊員におすそ分けしてんだよ」
「いやだって、よだれ垂らして見つめてくるもんだからつい」
「ほっとけやんなもん」
「あっ、晋助好き嫌いすんな」

好きにしろ、とかつい言ってしまったがまさかここまでとは。
自分の為に作ってくれる弁当のおかずがとんとん拍子で減ってゆく。おこぼし目的の隊員達に持っていかれ、食べられ、銀時は銀時でお人よしなのかまた子、万斉、武市用の弁当まで作ってくるようになった。しかもそれぞれその人達用に栄養価を調整しており、また子用の弁当は女の子でもバクバク食べられるように豆腐ハンバーグやささみを入れる等してカロリーを抑えたメニューだったり。万斉用の弁当は油ものを控え創作に集中できるように魚料理が中心。武市用の弁当はコレステロールを調整した上黒烏龍茶を添えてくれる。

それぞれに与えた弁当ご飯粒一つ残さずに綺麗に食べてくれるものだから銀時は大喜びだが、なぜか自分の弁当は自分が一つおかずを口にしている間に何かが減り、満足に食べられない。

高杉は自分が言った言葉を酷く後悔した。

「・・・・・・俺用の弁当は俺一人で食わせろよ」





++++アトガキ++++
刹那+さんリクエストの「高銀で、鬼兵隊の皆に高杉さんのお嫁さんとして扱われて照れてる銀さん」でした。刹那+さんお世話になっています(*´▽`*)
これ照れてるのかな、ツンツン9割でデレが1割のツンツンツンツンデレじゃないか?なんか途中からどの方向に行けばいいのか分からなかくなってしまいました。なんか方向性が見えない(;´Д`)
刹那+さんには以前リクエストして頂いた小説作品があって、そのお礼に何か一つ考えようと思っていたのですがほのぼのの高銀って中々浮かばずズルズルと来てしまいました。お礼代わりに鬼兵隊ふんだんに登場させてみたのですが生かせてるかどうかも不安。
こんな感じに仕上がりました!煮て焼いて好きにしてしまって下さい!!リクエストありがとうございます!
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