小説 | ナノ

 だいすき

夜中ふと目が覚めてしまった。少し蒸し暑いからだと判断し布団をガバリとめくれば凄く寒い。ヒヤリと腕が冷えて、また戻した。そうしたらまたとても蒸し暑い。丁度良い加減がなくて銀時は悩む。

「んむぅ・・・・」

天井の模様ばかり見ても何も面白い事はないので、ゴロリと身を返し寝返りをした。


そうしたら目に入ったのが真っ黒いもの。

「・・うぇ?」

高杉のどアップ。

――――あ・・・・れ。なんで俺こいつと一緒に寝てんの?

寝ぼけているせいで前後の記憶が分からない。もう少し頭を冷静にして、考えてみた。
そして徐々に浮かんでくる。そうだそうだ、確か今朝方、こいつがいきなり万事屋にやってきたんだっけ。蘇る朝方の記憶に銀時は集中する。じーっと、両眼をつむる晋助の顔をまじまじと見ながらなるべく冷静に。


***


「うわああ!!ぎゃあああテロリストがいるうううう!」
「朝からよくそんなでっけえ声が出せんなテメェは」
「何しに来やがった!テメェこの野郎!次会ったら斬るってこの間言ったばっかじゃねェかああああ!!!」

アポイントというものを知らないのか、表沙汰テロ防止にひと役買った日が懐かしい位の月日が経ったある日。何故か自分が宣言したそれをコロリと忘れたかのように高杉は万事屋に通っている。

「ふっざけんじゃねェェェェェ!!テメェはテロリスト!俺は民間人!さも普通にこうやって顔見せるんじゃねェよ!!」
「本当は寂しくて恋しかった癖に何言ってやがんだ馬鹿が」
「馬鹿って言った方が馬鹿なんですぅ!馬鹿!」
「それお前が馬鹿だろ」
「あ」

しかも毎回彼は訪問する際は、沢山の土産を携えてくるのだ。自分の大好物な甘味は勿論、新八が好きなアイドルの関連グッズ、神楽が大食いなのを知っていて米俵を背負い大量の特産物を持ってくる。お蔭で相手が怖いテロリストだというのに子供たちは高杉が来る度に喜んでしまっているのだ。手懐けられている感があって許せなくて、自分だけムキムキプリプリ。
本当は自分だって嬉しいのに、紅桜の時あんな事を豪語してしまった事もあって、今更「わーい晋助会いたかった」なんて素直に言えない。その分子供は素直に感情を表に出せるので、羨ましささえあった。

「銀時依頼はあんのか」
「残念ながら依頼はありません。昨日猫の散歩の依頼を受けただけで報酬もそんなに多くないし、ちょっと困っていたんです」
「なんでテメェが素直に答えてるんだよ!相手テロリストだぞ!しかも過激派なんだぞ!武闘派なの!鬼兵隊なの!そしてこいつ総督様なの!!分かる!?ねェ!!」
「財布は好きに使っていいから、お前等タクシー拾って夢の国にでも遊びに行って来いや。ほれ一日優遇チケット」

高杉は計画通りというドヤ顔をして二枚の長方形の紙を新八に手渡す。財布と一緒に。とても分厚い財布と一緒に。とっても暖かそうな財布と一緒に。俺の財布とは厚さが違う財布と一緒に。

「銀さん声に出ています」
「うっ・・・」

神楽は「夢の国」と聞いて舞い上がった。新八は届けられた大量の特産物を見て安堵している。俺はただそんなガキの反応に困り顔。

「それじゃあ銀さんを頼みますねー。一人にしていたらどこにいくか分からないんだから」
「テメェは俺のおかんかコノヤロー!ふざけんじゃねえよなんで俺がこいつと一緒に留守番しなきゃなんねーのよォォォ!!」
「それじゃあ行ってきますヨー」
「待てテメェ等!!俺の話聞けや!」

子ども達はキャピキャピ喜んで万事屋から出ていった。チケットは一枚2人分呼べるらしいので、途中誰かを誘って行くに違いない。九兵衛と妙の顔が浮かんでガックリと肩を落とす。かくして、高杉と銀時だけの空間が出来上がってしまったのだ。

「銀時。茶を淹れろ」
「イエス・マイロード・・・」

2人だけの空間は息が詰まるのでテレビをつけてみる。無音状態よりはましだと思ったが、いざテレビをつけて何か中から音や声がしても空気は相変わらず息苦しかった。

「何ボーっと突っ立ってんだよ。座ってこれでも食ってろ」

座れと促すのは自分の隣で。差し出されたのは高級チョコレートで。そのチョコレートを受け取る代わりに自分は隣に座らないといけなくて。葛藤が続くが、彼の視線が痛いので恐る恐る隣に腰を下ろしてみる。本来ソファに腰を下ろるのは休みたいから、とかゆっくりしたいから、とかそういう理由だったりするのだが、彼が隣にいる事で肩の力を抜くことが出来ず銀時は背筋をピンと伸ばしてチョコを受け取ったまま動けないでいた。
肩に手をまわされて身体が跳ね返り、変な悲鳴もどきの声が出る。怖い。凄く怖い。

「何緊張してんだ生娘じゃあるめーし」
「馬鹿そんなんじゃねーよ!言っとくけどここは万事屋ですからねっ万事屋って人の依頼受けて仕事受け持つちゃんとしたお店なんですから!こうやっていきなりくるのは本当は駄目なんだからね!アポ入れてくれないと俺もここここ、こっ、心の準備が・・!」
「アポ入れても入れなくてもお前の場合どっちも同じだろうがよ」
「うぅ・・」
「久しぶりなんだ。インドアデートでゆったりしようぜ」
「なっ・・!」

途端に頬はおろか、顔全体がボアっと赤くなってしまう。高杉は自分の気持ちをすべて知り尽くし、見通しているような眼光をしている。こいつの目はあまり好きじゃない。自分の心の中全部を見尽くして、把握しているように感じてしまうから。


だから、目を合わせるのが苦手である。

テレビの向こうで何か言っているが、集中できない。高杉は煙管を取り出し火をつけてゆっくり吸い込み、吐き出してリラックス状態。相変わらず添えられたままの手は、時折肩から腰に移動したりして、その度に自分は変な声を出して身体をくねらせた。

「テメェ明るい内から誘ってんじゃねーよ」
「誘ってなんかねーよ!」
「そうかァ?さっきからこっちに視線向けて、赤いリンゴみてーな顔してる癖に」
「なんで包帯してんのにそんなの分かるんだよっ」
「さァな」

含み笑いをしながらしらばっくれる。前は素直に感情を表に出せたのに、こうして互い月日を跨ぎ年を取ってからというものの、自分はそんな事が出来なくなってしまっていた。彼はズバズバと行動に出せるのに。自分は頼まれた依頼以外ズバズバと行動にできない。

「・・・なぁ、高杉ってなんで俺につきまとうの」
「あァ?」
「俺攘夷志士じゃねーのに。誘うならヅラんとこ行けばいいのに」
「馬鹿かお前は。なんでお前が攘夷志士になんねェといけねェんだよ」
「だって同志じゃねー俺んとこ通ってばっかだし」
「お前が何も破壊活動しねェで民間人やってるから来るんだろォが」
「はぁ?」
「じゃねェと心の拠り所がなくなんだろ」
「え、なにそれ。じゃあ俺目的じゃなくて万事屋でリラックスする為だけに来るって事?じゃあお前だけここにいたらいいじゃん!俺も夢の国行ってくるからお前が留守番してろよ」
「・・・なんで万事屋の人間じゃねェのに俺が留守番しなきゃなんねェんだ?テメェやっぱ馬鹿だろ」
「うるせええええ!!!」

あぁ言えばこう言う。そして彼の真意がつかめなくてこちらは余計に苛々した。何も分かっていない銀時に呆れたのか、紫煙を吐くそれではなく、高杉はため息を吐いて見せたのでムキイイと血圧が上がってギャーギャー。

「もう出てけー!!通報すんぞ邪心眼野郎ォォォォ」
「うるせーな。黙ってろ」

グイっと肩を引き寄せられて、口づけされる。黙らせるにはこれだ的なノリで。しかしそれはよく効いてしまうのが自分。銀時はうんともすんとも言わなくなって、顔を赤くしたまま無言になった。

「・・・」
「いい加減気づけよ馬鹿。この空間とお前がいて初めて休めるって事を」
「はい・・・」
「オラチョコ食え。常温だと溶けんぞ。生チョコだぞソレ」
「・・・・ロイズ?」
「おう」
「・・イエス・マイロード」

ツンツンしていている自分ごと制してしまう恐ろしい高杉。
左側に座っているのに、自分が何をしているか分かってしまう不思議な高杉。
自分の事を何でも知り尽くしている凄い高杉。
それでも大好きな大好きな高杉。
口の周りをチョコだらけにして、黙々と食べているのを見て「きったねェ顔」と言いながら喉を鳴らして笑う今彼高杉。
そんな自分の口にキスして、舐めて汚れを落とす綺麗な高杉。
本当は好きなのに嫌いと言ってしまう眼をしている高杉。

「晋助。」
「あぁ?」
「ロイズありがと」
「フッ、馬ー鹿」

そんな自分を見ておちょくって遊ぶ高杉。
嫌いと言いながら、大好きな高杉。
素直になれないのを分かっていて、いつまでも側にいてくれる大好きな高杉。


***


そうだ。そんなこっかで。夕方電話かかってきて。一泊しますと向こうで新八が言っていて。一緒にお風呂入って。エッチしちゃって。今一緒の布団の中。

腕枕で寝ちゃって、包帯がない両目を見られるのはこの時だけで。

「・・・・」

じーっと、じとおおおおおっと。見つめてしまう。

とてもイケメンで、お金持っていて。凄くて。大好きな人。

「何見てんだお前」

小さくそう言われてドキリと胸が高鳴った。とても低い声がそれを鎮めてくれる優しい声。大好きで大好きで仕方なくて、沢山触って夜を過ごしてしまって。

「ちげェよ」

それでも自分は素直になれない。ちょっと悔しくてムスリといじける。大好きな両目が、今は片目しか開かれないのが少しやるせなかった。

「晋助」

そうっともう少し近づいて、胸元に潜り込むと腕をまわして抱きしめてくれた。唸り声で返事をして、自分は精一杯の返事をしてみた。まだ互い眠たくて、布団の中で互い抱き合って。だけど完全に夢の中に入る前、精一杯の勇気を出して口にする。

「・・・大好き」

そして自分は目をつむった。晋助の匂い沢山吸い込みながら。

「知ってる」

そう言って晋助はもう何も言わなくなって、すうすうと定期的な吐息を繰り返す。何もかも見透かしていて、凄い高杉。



とっても大好きで大好きで、大好きな晋助。

大好き、晋助。





++++アトガキ++++
帆立さんのリクエストで「ほんわか、ツンデレ銀ちゃん」でした。
ほんわかになっているかツンデレなっているか不安です。今まで凌辱系とかシリアスとか考えていたので今更ほんわかでツンデレな銀ちゃんを表現しようと考えたら何故か恥ずかしくなりました(何で)煮て焼いて下さい。好きにしちゃって下さい。久しぶりに暖かいシチュエーションを考えるいい機会になれました(荒んだ私の心)帆立さん、リクエストありがとうございました!!
++++++++

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