世界最後の日
「今日で世界が終わるんだって」
朝から流れる賛美歌、いつもは空を覆う重たるい灰色の雲はなく青い青い空が晴れ渡る。
「ねぇ、聞いてる?」
あなたの声は静寂すぎるけれど、今ははっきりと聞こえる。
「聞いてるよ」
「そうか」
ギターを持っては窓から見える景色を眺めるだけのあなた。
弾く事さえ出来ない痺れきった指先は震えている。
「綺麗だなぁ…」
「綺麗だね」
「お前がだよ」
「何それ。口説き?」
滑稽にも、汚く見えていた世界は、今更美しく見えている。
「ねぇ、キスしない?」
君は世界が終わる数分前にそう言った。
「いいよ」
私が返すと、滅多に表情を変えない君は丸で青春の一ページに飾りそうな笑みをする。
世界は、私達の口づけと共に、音を立てて崩れ去った。
願わくば、また私はあんたみたいなどうでもいい男と恋がしたい。
どうでもいい繰り返しの中で倖せを感じさせてくれた、あんたと。