ガヤガヤと賑やかな周囲。特に特設ステージは、あっという間に人で溢れかえっていた。
参加する者、見学する者、煽る者、逃げ出す者。実に多種多様……もとい、多者多用だ。
《それじゃ参加者席も一杯になった事だし、もう一度ルールを説明するよ。皆の前にお椀があるよね? そこに次々と蕎麦を持っていくから、時間制限内に一番多く食べた人の勝ちだ! ちなみにお蕎麦を運ぶ人は、不正が無いようにこっちで勝手に決めさせて貰ったよ》
「わ、僕はイヴとなんですね」
「うん、頑張ってねアレン」
コムイがダラダラと説明しているのを前に、背後にいるイヴへと声をかけるアレン。
ちゃっかり「やった♪」と喜んでさえいたが、背後のイヴは勿論、隣の神田にすら聞こえてはいなかったようだ。ちなみに神田の蕎麦次ぎ役はリナリーである。
「アレン、ユウ、頑張れよ〜」
「あれ、ラビは参加しないんですか?」
参加席ではなく、観客側にて手を振っているラビの姿を見つける。
てっきり指定権欲しさに参加すると思っていたのだが、意外といえば意外だ。
「知ってんだろ〜。俺がワサビ駄目なの……」
「あ、そういえば」
確かに蕎麦の中には山葵を練りこむものもあるし、そのままつけて食べるものもある。
まして主催者はあのコムイ。きっと一筋縄ではいかない、何かを企んでいる筈。
「君子危うきに近寄らずって奴さ。それに蕎麦では二人に勝てる気しねぇし」
何せ神田は無類の蕎麦好きであり、アレンは無類の大食漢。
普通よりかは幾らか食べる方であるラビとて、二人に勝てる気がしない。
最も、ついでくれるのがイヴであるなら、普段の倍以上は食べれそうな気はするが。
《それじゃ、皆準備はいいかなー?》
そんな事を話している間にコムイの話も終わったのか、一段と声が張り上げられる。
そのまま参加者達の様子を見比べたかと思えば、スッと片手が上へと伸ばされ――。
《用意――どーん!》
声が辺りへと響いたのと同時に、腕が下へと振り下ろされたのだった。
開始の声が響いた事で、一斉に参加者達の身体も動く。
お椀に載せられた蕎麦を流し込むように食べていく中、やはり一番オッズ……もとい、早いのはアレンと神田だろう。
だが、早いにも関わらずガツガツと食べているように見えないのは、流石英国紳士と無駄に見目が整っているから……というべきか。
《さぁて始まりました、ワンコ蕎麦対決! ただ見守ってるのも面白くないという事で、僕コムイと》
《急遽呼ばれたラビが実況するさぁ。……つか、企画したのコムイだろ。見てるだけじゃ面白くないって自分で言うんか?》
《細かい事はきにしなーい。しかしやっぱりダントツはアレンくんと神田くんだねー》
《開始五分と立たずして、既に他の参加者と十束以上差をつけてるさ。――ぶっちゃっけこれって、二人だけの対決でも良かったよーな》
《それじゃ盛り上がるに欠けるじゃないか。やるならパーッとやらないと!》
《やっぱり無理やりな気がするさ……》
《おーっと! そうこう言っている間に二人が既に三十束行ったぁ! 早い、早いぞ!》
《それでいてペースを乱してないさ。蕎麦をついでるイヴとリナリーの方が大変そうさね》
《最初はたどたどしい手付きだった二人も、今は慣れたもんだねぇ。流石僕の妹二人!》
《『僕の』はリナリーだけさ。……あー、イヴもリナリーみたいにミニにすればいいのに》
《僕もそう言ったんだけどねぇ。もう選んだからって言われちゃってさぁ》
《ロングなんて置いとくから悪いんさ! 全部ミニにしとけばよかったのに!》
《いや〜、まさか数十着以上ある服の中から、目立たない普通の着物を一発で掴むとは思わなくてさぁ〜。それも適当に選んだらしいし》
《イヴはそういう運はめちゃくちゃいいんさ。次からは念には念を入れて、普通の着物にも切れ目を入れてお――【ブンッ】おわちっ!?》
《おーっと、アレンくんと神田くん、それにリナリーから空になったお椀が投げられたぁ! 三人共まだまだ余裕のようだ!》
《ちょ……今マジで顔狙ったっしょ!?》
《自業自得だよ、ラビ〜。……っと、うん? よくよくみると神田くんよりも、アレンくんの方が量が多いようだ!》
《アレンの食事量は本当半端ないさ。見てるこっちの気分が……うっぷ》
《やはり寄生型の大食漢には勝てないかー! ……おや、アレンくんの様子がおかしいぞ!》
《ん? 何だか物凄く食べ難そ……あっ! 分かった、背後のイヴさ! イヴもまた寄生型の大食いだから、きっとイヴも腹が減ったんさ!》
《まさかのつぎ手の妨害! 本人が無自覚なだけに余計たちが悪い!》
《……というか、こうなる事を分かっててイヴをつぎ手にしたんじゃ……》
《おーっと! 今がチャンスと言うばかりに神田くんが追い越したぁあ! あっという間に大差をつけていく! 優勝は神田くんのものかぁ!?》
(ハッ、まさか――物欲の少ないユウなら、指定権を使った所でリナリーやイヴに被害はこない筈。その為に教団一脚の早いリナリーをユウの継ぎ手にし、また一番の強敵であろうアレンにイヴを付けさせたんじゃ……!)
《これだけ差をつけられたら流石のアレンくんでも厳しいだろうねぇ〜。HAHAHA!》
《し、仕組まれてたんさ。この企画は最初からコムイの手の上で踊らされてたんさ……!!》
《やだなぁ、ラビ。それじゃ僕が悪役みたいじゃ……あれ?》
《お? あ、アレンが。というかイヴの動きがめちゃくちゃ速くなったさ!》
《な、なにーッ!?》
《多分アレンが何か言ったんさ! この仕組まれた企画を早く終わらせればいっぱい食べれるとか、指定権を使って食堂の物をお腹いっぱい食べさせるとか》
《くっ、やはりイヴちゃんだけではアレンくんを止める事はできないか……!》
《自分から裏工作を認めたさ!! シスコンもここまで来ると怖【ビー!!】――おっ、終了アラームが鳴ったさね》
《よし、枚数は僕自らが調べて
《公平にする為にジジイに調べて貰んで、暫らく待ってて欲しいさ〜》
ねくすつ ばっく