その日の教団は賑やかだった。
いや、賑やかを通り越して騒々しいというべきだろうか。


ともかく、至る所にこれでもかという程電飾を施しては、皆で大騒ぎなのである。
あっちでワイワイ、こっちでギャアギャア、そっちでにらみ合い。
今日と言う『特別な日』からすれば、教団員が騒ぐのも無理は無い――が。


「フッ……フフフフフ……」

「ヒィィッ!!」

「黒アレンくんが降臨したーー!!」


中でも一番大騒ぎだったのは、やはり、コムイと若きエクソシスト達だろう。





12月31日。
世間一般でいう『大晦日』。
一年の終りを意味するその日は、何所の国でもお祭り騒ぎである。
今年の出来事を反省したり、明日から始まる新しい一年に期待を膨らませているに違いない。


《やぁみんな〜! 盛り上がってるかーい!》

「「「おー!」」」

《今日は無礼講だぁ! 明日に響かないように大騒ぎしてねー!》

「「「おおーーッ!!」」」


それはこの黒の教団でも例外ではなく、どこぞの島国宜しく『忘年会バーティ』なるものが開催されていた。主催は言わずとも、室長権限を最大限に利用したコムイである。


「……なんか、変な演説ですね」


コムイの言葉に盛り上がる仲間達を隣に、もぐもぐと口を動かすアレン。
開始して数分しか経過していないというのに、既に空となった食器タワーが出来ていた。


「そう? 毎年の事だから、多分皆も話半分しか聞いてないと思うよ」

「お前等は胃袋を半分にするべきさ」


平然とした表情で告げるイヴと、呆れつつも顔色を悪くしているラビ。
と言うのも、イヴもまたアレンに負けず劣らずの食事量をペロリと平らげている。
開始早々、山盛りだったテーブルの上が綺麗さっぱりなくなり。
また、開始直後であるにも関わらず、ラビは胸焼け状態だったとか。


「あ、半分と言えば。イヴのその裾、長すぎませんか?」

「へ?」

「あ! 俺も思ったさ!」


チラリと二人の視線が足へと向けられた事で、イヴもまた自分の足へと視線を向ける。
もっちゃもっちゃと食べていた姿はハムスターのようで可愛らしいのだが、いかんせん先程からその格好の方が気になっていた。


「折角の和服なのに、ロングなんて反則さー!」

「リナリーみたいにミニにしないんですか?」


イヴが今纏っている服は和服……所謂着物である。
というのも、『忘年会』は日付が変わった時点で『新年会』へと移行し、折角の新年なのだからと、女性陣は着物での参加が義務付けられていた。勿論提案者はコムイだ。
ただし、着物であれば種類は問わないらしく。
リナリーのようなミニ着物だったり、ミランダのように少々ゴスロリチックな着物と、その種類も様々である。
そんな中、一般的な着物のイヴに納得が……もとい気になっているらしい。


「んー、適当に掴んだのがコレだった」


あははー。と、ケーキを食べながら笑うイヴに、二人から深い溜息が零れ落ちる。
どうやら当の本人は、色気よりも食い気なのだろう。らしいと言えばらしいのだが。
しかし――年に一度のコスプr、もといイベント服(?)
こんな美味しいチャンスを、指を咥えて見逃す訳には行かない。


「オイ、アレン。お前もイヴのミニ見たいだろ?」

「何だか物凄く同意しにくいんですけど、まぁ一応」

「だったらどうにかしてミニにさせるさ」

「は? どうやってですか?」

「そうさなぁ。例えば……手が滑ったって事で、アレンのクラウンエッジでスカートを切」


 ―ベシャ


「イヴー。ここら辺の食事は食べ尽くしちゃいましたし、今度は向こうに行きましょう」

「はーい、って、ラビ。幾らなんでも顔事ケーキ食べなくっても」


そんなにケーキ食べたかったんだ。と、何所かずれた思考しながらも、アレンに腕を引っ張られて違うテーブルへと移っていくイヴ。
その光景をチョコレートケーキ男。もとい顔面にケーキを食らったラビが見……る事はできないので、言葉を聞いていた。チョコケーキ好きのリナリーが見たら怒られそうだ。





「お。こっちは和食コーナーなんだ」

「日本料理ってヘルシーなんですけど、その分食べた気がしないんですよねぇ」

「あ? んだと、モヤシ」


イヴの手を牽きながらも、他の所に行こうか悩んでいる。と、タイミング悪く、近くで蕎麦を啜っていた神田に聞こえてしまったらしい。


「蕎麦をバカにすんのか、テメェ」

「誰も蕎麦をバカになんかしてませんよ。あ、バ神田は別ですけど」

「ぶっ殺す」


それでなくともアレンと神田は犬猿の仲。
食事の話から早くも切り替わったかと思えば、やはり、早くも険悪ムードである。


「まぁまぁ。折角の忘年会なんだし、喧嘩しないで」


周りの人々がまたもや二人の喧嘩が始まるのかと警戒していたものの、すかさず「蕎麦でも食べて落ち着きなさい」と、イヴが仲裁に入る。
年越し蕎麦ならぬ、仲直り蕎麦とでも言いたいのだろうか。
色々と思う所はあるものの、沈静させた事であえてツッコミを入れなかった。……のだが。


「んじゃ、忘年会らしい勝負でもしてみない?」

「うわっ! こ、コムイさんっいつのまに!」

「ふっふっふ〜。君達を見てたら良いゲームを思いついたんだぁ♪」


キランと眼鏡を反射させるコムイには、周りの一同全員でツッコミを入れたかったらしい。







《という事で、忘年会特別企画ワンコ蕎麦たいかーい! はっじまっるよー!》


それから数分。
コムイの陽気な声が広間に響いた事で、辺りのざわめきも一層と大きくなる。
また良からぬ事を。とか、今のうちに避難しておこうか。という声が大半ではあるが、それでもコムイの憎たらしい……もとい、明るい声が木霊していていく。


《ルールは簡単。次々と差し出される蕎麦を、一番多く食べた人の勝ちだぁ!》


どこぞのレフリーさながらの声を張り上げつつ、ビシッと中央を指差すコムイ。
そこには何時の間にか特設ステージが設けられており、更に大量の蕎麦まで準備されている。
突然の思いつきにしては準備が早いというか、手際がいいというべきか。


《優勝者にはお正月特製福袋を贈呈! 中身はあけてからのお楽しみだけど、運がよければ指定権なんて物が入ってるかもね!》


指定権――本来なら指定席やら指定場所を意味指すものだが、この権は人を指している。
簡単に言うなれば、一日か一時、一人を好きにできますよー。というとんでもないコムイ提案の券なのだ。勿論倫理に乗っ取った行動のみ実行できるものである。
だがそれでも、声を掛け難い人物と接触するチャンスであるには関わらず。
まして、デートや食事に誘うには何とも魅力的なチケットでもある。
ともなれば――。


《さー! 参加したい人はよっといでー!》

「「「おおーー!!」」」


今回もまた、物の見事にコムイの策に踊らされる者が続出したのであった。


ねくすつ


 
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -